風邪ひきの役得
「っくしゅ、…っくしゅ、ぁあー…」
「何だ、風邪か?最後の奴はオヤジ臭いからやめろよ」
「そうみたいです…っくしゅ、うわー鼻水が…」
「ほらティッシュ」
「ダンケシェーン、レーラァ」
レーラァとの朝食。二人で日本に来てから、何事も無く健康に過ごしてきたというのに、今日の俺はとても調子が悪い……。
「うー……喉が痛い」
「大丈夫か…… 今日の予定は?」
「昼からスカー達とトレーニングです……」
「その身体で動かすわけにはいかんな、今日は1日安静にしてなさい」
「Ja……ゴホッゴホッ…ぁあー」
「だから、その『ぁあー』ってのやめろっての」
「すんません……」
俺はそのまま押し込まれるようにして寝室のベッドへ潜り込ませられ、レーラァが持ってきた薬を飲んだ。幸いにも朝食は食べれたので、一応安静に寝ていろとのこと。レーラァが部屋を出てからスカーに連絡をした。
「すまん、スカー。今日は無理っぽい……」
『あぁ、いいよ。ケビンにも言っとくから』
「ダンケ」
『暇だし、そっち見舞いに行ってやろうか?』
スカーの言葉に俺は断固として拒否を示した。
「絶 対 来 る な 」
『はぁ?何でだよ』
「俺はこれからレーラァと"風邪ひきイベント"をだなぁ……」
『あぁ、そんな事言ってんなら大丈夫だなお前。通常運転だわ』
「何言って、ゴホッゴホッ …スゲー風邪引いてんだからなゴホッ っくしゅ…ぁあー」
『お前……オヤジ臭いから最後のやめろよ?』
「……レーラァにも言われた」
なんやかんやで電話を終え、暫し眠りにつく事にした。
夜。
結局1日中寝て過ごした俺は、レーラァに身の回りの世話をしてもらっていた。
「怪我はしても風邪だけはひかなかったお前がなぁ……」
「珍しいですよねぇ……」
レーラァと二人で不思議がりながら、寝る前の着替えを済ます。今日1日で結構な量の汗をかいた気がする。俺が着替えている間、レーラァは風呂に入ると言って部屋を出た。着替えを済まし、俺はベッドに倒れ込んだ。
「あ゙ー……しんどい、頭痛い…」
風邪なんて数年ぶり……十数年か。朝よりも少し重い頭痛と喉の痛さにうんざりする。ダルい身体に鞭打って何とか布団に潜り込んだが、電気を消すのを忘れていた。
「眩しい……」
ガチャッ
「着替えたか、ジェイ… うわぁ、つらそう」
風呂上がりのレーラァが部屋に入ってきた。ヘッドギアを外した状態で、シルバーの少し癖のついた髪をタオルでゴシゴシと拭いている。
「な、なんとか、布団に潜りました……」
「そうか、頑張ったな」
「Ja……」
弱々しい敬礼をする。力が入らない身体。今すぐ眠りたい。
「レーラァ、俺 もう眠たいんですが……」
「あぁ、分かった」
レーラァは部屋の電気を消した。
「おやすみなさい、レーラァ」
「おやすみ」
そう言うとレーラァ、突然俺の布団を捲った。
「へ?」
「さて寝るか、ジェイド」
何事も無いように俺の布団に入ってきたレーラァ。睡魔にやられていた俺の頭が一気に覚醒した。
「ちょ、ちょちょちょっ!レーラァ!」
「なんだ、ジェイド。寝るんだろう?」
「いや、寝ますけど、その……え?何でレーラァが一緒に?」
風邪特有の変な思考もあって、俺の頭は急ピッチで今の状況を考えようとする。えっと、俺は寝ようとしてて、レーラァは俺の布団で寝ようとしてて……。
「何をそんなに驚く?」
ちょっと、首かしげちゃってるよこの人!完全に天然だよ!
「いや、レーラァ…その、一緒に寝ると、風邪がうつってしまいますよ……?」
恐る恐る聞いてみるも、当のレーラァは それがどうした、と言わんばかりの表情。それより、この状況で焦ってるのが俺だけって!
「風邪をひいて人肌恋しいだろうと思ってな。大体、お前が風邪をひくなんて滅多にないじゃないか、だから心配なんだよ……」
「レーラァ……」
レーラァの優しいお言葉に 心の中がジーンと暖かくなった。本当にこの人は、素晴らしいお方だ。
「ほら、もう眠いんだろう?ゆっくり眠りなさい」
レーラァは俺の頭を抱き寄せ、胸に押し付けた。レーラァの心臓が、ゆっくりと動く音が聞こえるような気がする。
「お前は黙って看病されてろ、ジェイド」
「!!/////」(レ、レレレレーラァ!!)
最後の殺し文句にあっさりやられました。もうだめです、一生付いていきますレーラァ!あぁもう、見も心も男前だなんて!そのシルバーの髪に鼻を埋めてクンカクンカしてもいいですか!それとも頬に走るそのラインに舌を這わせて首筋を舐めまわすことにしますか!あぁでも軍服姿のレーラァに飛び付いて上着の中に潜り込んでみたい!………
翌日、あまりの妄想に寝不足となったジェイド。
しかし風邪はすっかり良くなっていたとか。
「良かったな、ジェイド」
「Ja!」(レーラァのブーツにキスするのも捨てがたいぜ!)
スカー「変態も程々にしろよ、甘ちゃんが」
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