fruits taste
キッチンでいつもみたいにフルーツを搾っていた。この行為は俺の習慣であり、搾ったジュースは毎日欠かさず飲んでいる。要するに、『なくてはならないモノ』。すると、玄関のドアが開く音がした。ジェイドが帰ってきたようだ。俺はアイツが苦手だ。嫌いではなく、苦手。心が掻き乱されるから、俺の思考を占拠するから。
「スカー、」
キッチンに顔を出したジェイドは、俺を見て眉を潜めた。
「んだよ」
「……それ、搾りすぎ」
「あ?…げぇっ!」
気付かない内にコップに溢れる程フルーツを握り潰していたらしい。アイツの事を考えていなければ防げた失態。当のジェイドは困った様な顔で笑った。ヘルメットで目元を隠してても、小さく上がる口角でお見通しだ。
「あーあー……」
勿体ない、俺は呟きながらコップから溢れた果汁を拭こうと、タオルを探した。
「スカー、拭いちゃうのか?」
「当たり前だろ、テーブルがベタベタしちまう。序でに手も拭きてぇし」
何を言い出すかと思ったら……。俺はジェイドを放っておいてタオルを探そうとした。すると突然、ジェイドが俺の果汁まみれの手を掴んだ。
「おい、何してんだ?」
ジーッと、俺の手を見つめる。そして、おもむろに俺の指先に舌を這わせてきやがった。
「 !? 」
「んー……」
丁寧に果汁を舐めとるように舌を動かすジェイド。その舌の緩慢な動きに、俺はどうしようなく目を見張るだけだった。
「しゅかー、」
「咥えたまま、喋んな…」
音をたてて指を唇から引き抜くと、ジェイドは俺を上目遣いで見上げた。
「スカーの指、フルーツの味がして 甘いよ」
「……〜っ!…当たり前だろ、フルーツ搾ってたんだから…」
目の前の天然キラーは、今俺がどんな気持ちで接しているのか分かっていない。
ぐちゃぐちゃに心を掻き乱され、
思考の全てを占拠してしまう程
コイツは俺を虜にする。
「……クソッタレ」
「しゅかー、ひりょい……」
「うるせぇ!さっさと手を離しやがれっ」
だからコイツは苦手だ。
嫌いではなく、苦手。
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