短文置き場(リハビリ中)
短かったり中途半端だったり勢いだけだったり
12/31大晦日会話文(監禁)(監禁)
下の監禁静臨と同じ静臨です





「ねえシズちゃん、年末だよ? 実家に帰ったりしないの?」
「今年はしねえ」
「それって俺が居るから?」
「? さすがに実家に手前を監禁すんのは無理だろ」
「……俺を解放して実家に帰るって選択肢は」
「ねえな」
「即答かよ。ほんと何がきみをそこまでさせるの……」
「臨也、手前年越し蕎麦どのくらい食うんだ」
「話聞いてくれない???」
「つか手前も寛ぎまくってるじゃねえかよ」
「だってここみかんもこたつもあるし年越し蕎麦も出てくるからさあ。あ、おせちは注文しといたから心配しないでね。ていうかもう受け取って冷蔵庫に入ってるから」
「マジか手前寛ぐ気満々だったんじゃねえか。……監禁の成果出てんのか?」
「ボソッと妙なこと言うな。出てないから」
「じゃあなんだよ。……そういや手前冬になってから逃げるまでの日数延びたよな。いや、冬になってからっつーか、こたつ出してから?」
「ぎく」
「こたつか」
「だってうちには置けないじゃない」
「まあ、確かに」
「それにこういうのはほら、シズちゃんちみたいな庶民的な空気の狭い部屋にあるからいいっていうかさぁ」
「喧嘩売ってんのか?」
「え? 褒めてるんだけど」
「え? 手前本気か?」
「嘘だけど」
「殺す」
「まあまあ落ち着いてシズちゃん。ほらこたつ入りなよみかんあげるから」
「この野郎……手前監禁されてる立場だってこと思い出せよ」
「分かってるって。何でも良いけど早くみかん剥いてくれない?」
「何で俺が手前にみかん剥いてやんなきゃなんねーんだよアホか」
「みかん剥くと指黄色くなるじゃん。俺あれ嫌いなんだよね」
「手前もしかしてマジでバカなのか?」
「少なくともシズちゃんよりは確実に賢いよ」
「つくづくムカつく野郎だな手前……」
「嫌なら追い出せば? ただしお節は持って帰るよ。いいの? 俺のポケットマネーで買った高級お節が食べられなくても」
「持って帰ったって手前どうせ一人じゃねえか」
「シズちゃん、死にたいの?」
「図星か。いいから大人しくみかん食ってろよ。さすがに大晦日の夜に手前と追いかけっこすんのは疲れる」
「とか言いながら、どうせ追いかけてくるくせに」
「おーそうだな。つーことで逃げても無駄だから大人しくこたつでぬくぬくしてろよノミ蟲くん」
「…………シズちゃんのくせにほんとむかつく」



12/27エンドレス監禁(導入編)(監禁)


 初めて『監禁』されたのは、シズちゃんが家を出て独り暮らしを始めてすぐの頃だった。普段の喧嘩とは違って、怒鳴りもせずにそっと近付いてきたシズちゃんにぶん殴られて気絶させられたかと思ったら、気が付いたらシズちゃんの部屋のシズちゃんのベッドで両手足を雑に括られて転がされていた。
 目が覚めたときには運良くシズちゃんは外出中で、縛られていたとはいえコートは着せられたままだったし仕込んであるナイフも奪われていなかったので、その日は普通に逃げ出して終わった。そもそも縛り方も雑すぎて、切った方が早かったからナイフを使ったけど、ナイフがなくても普通に抜けられそうだったし。
 そういう訳なのでこれは正確には監禁未遂だが、とにかくシズちゃんが初めて俺を監禁しようとしたのがこのときだ。

 二度目の監禁はその数ヵ月後だった。一度目のことはまだ記憶に残っていたが、その後のシズちゃんがあまりにも普段通りで監禁未遂事件のことをちらりとも口にも態度にも出さなかった為、俺の中でも何かの気紛れ、あるい衝動的な行動だったのかと現実味の薄い記憶になりかけていた頃だった。
 一度目と同じような手口で気絶させられ、気が付けば同じように部屋に転がされていた。いくら現実味のない記憶として薄れかけていたからとはいえ、同じ手に引っ掛かって二度も拘束されるなどという事態には大分プライドが傷付いた。
 一度目と違ったのは、目が覚めたときには翌日になっていたということと、それからコートを脱がされていたことくらいだろうか。気絶させられたのが夜だったからか、あるいはシズちゃんが力加減を間違えたのかは知らないが……いや、そもそもシズちゃんに力加減とか出来ないか。とにかく翌日の昼前に目を覚ました俺は、恐らく仕事に行っているはずのシズちゃんが部屋にいない幸運を喜びつつ、コート以外にも仕込んであるナイフを使って手足を拘束する縄を切って、コートを回収してまた逃げ出した。

 二度あることは三度あった。
 三度目は二度目のほんの一週間後で、しつこく追い回されて嫌な予感に背筋が震えていたところ、異様に静かなシズちゃんの様子に気をとられてうっかり捕まった。ぶん殴られて気絶して、気が付いたときにはシズちゃんの部屋の中。手足を拘束されていることと、コートを脱がされているところは前回と同じ。今までと違ったのは、コート以外に仕込んでいたナイフも残らず奪われていたことと、それから――シズちゃんが、家に居たことだ。
 ただし、幸運なことにシズちゃんの姿がそこにあった訳ではなく、どうやら洗面所の方に居るらしいということが物音で分かっただけだ。しかも、微かに鼻歌らしきものまで聞こえてきて、俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。――これは、なんかヤバイ。
 逃げなければ、と頭が警鐘を鳴らす。しかしナイフは手元にない。さてどうしようかと悩む間もなく、今までの二度に渡る監禁未遂事件で俺を拘束していた縄がどんな縛り方をされていたか思い出す。後ろ手に拘束された手で手首を縛る縄に触れてみれば、案の定。
 縛り方が雑すぎ、甘すぎ、抜けやすすぎなんだよなあ、シズちゃん。
 ものの数十秒でほどけた縄をぽいとベッドに放って、足の縄もほどく。聞こえる物音が変わりないのを確認し、俺は物音をたてないように気を付けながらコートを回収、普通に玄関から脱出。三度目の監禁も、無事監禁未遂に終わった。

 と、ここまでが監禁未遂事件三連発。
 ここから先は未遂では終わらなかった監禁事件がざっと二十件ほど続く。
 初めて逃げられずにシズちゃんにご対面してしまったときは命の終わりを覚悟したが、俺の予想と違ってシズちゃんが俺を殺すことはなかった。手足を拘束されてベッドに転がされている俺がシズちゃんに何をされるかというと……。

「おら食えノミ蟲」
「今日はハンバーグかぁ。出来ればもうちょっと軽めのものが食べたかったんだけどなぁ」
「うるせえな文句言うんじゃねえよ」

 なんとご飯を食べさせられている。ご飯を食べたら逃げられないように衣服を取り上げられた上でお風呂に入れられて、適当にくつろいで寝るだけ。寝るときも拘束されていたのでは寝苦しいと文句を言ったところ、舌打ちをされながら縄を解かれ、以来シズちゃんの腕でがっちり拘束されながら寝ている。拘束されていることに変わりないが、子供体温のシズちゃんは冬はいい湯たんぽになるので大人しく受け入れてあげている。

 今日は既に監禁四日目で、監禁最長記録を更新中である。
 最初の監禁未遂事件で分かっていた通り、シズちゃんは非常に詰めが甘い。そもそも、シズちゃんのボロアパートは人間を監禁する場所としては向かない。俺が抜け出す度にシズちゃんも学習するので、回数を重ねるごとに抜け出しにくくなってはいるものの、今までの最長記録は三日。監禁というより強制お泊まり会に近い期間だ。
 シズちゃんが縄の縛り方を妙にマスターしてきたときはさすがの俺も「えっ、そういう方向にいくの?」と冷や汗が流れたが、シズちゃんにも仕事があり、毎日俺に付きっきりというわけにもいかない。正直シズちゃんさえ居なければこのゆるゆるの監禁から抜け出すことなど容易かった。

 その気になればいつでも抜け出せる。
 そんなゆるい監禁を、それでも監禁と呼ぶのは、シズちゃんが俺を監禁するつもりでこうして拘束しているらしいからだ。

「……ねえシズちゃん」
「なんだよ」

 食べにくいからと食事時は拘束具もすべて外される。手首はともかく足首は縛られてても食べられるし、そもそも食べにくいからってだけで拘束を外してしまうシズちゃんに本当に俺を監禁するつもりがあるのかと思ってしまうが、俺も別に縛られていたいわけではないので指摘しない。
 そういうわけで食事中の為自由な手でシズちゃんお手製のハンバーグを食べつつ、俺はなんとなく聞きそびれていた疑問をぶつけた。

「これって監禁なんだよね?」
「おう」
「ずっと気になってたんだけどさぁ……」
「なんだよ」
「なんで監禁?」

 シズちゃんは今更何を言ってるんだコイツは、という顔で俺を見た。それから一瞬止まった食事を再開しつつ、なんでもないことのように告げる。

「監禁でもしねえと、手前とこうやって大人しく飯食ったりできねえだろ」
「……」

 俺はシズちゃんの言葉が一度頭の中を素通りしていくのを感じた。脳内でもう一度再生し直して、ゆっくりその意味を噛み砕く。その間、シズちゃんは当たり前のような顔でもぐもぐハンバーグを咀嚼していた。

「…………???」

 シズちゃんがハンバーグをもぐもぐしている間に、シズちゃんの言葉の意味をようやっと飲み込んだ俺は、改めて首を傾げる。

「あのさあシズちゃん、それだと君が、俺とこうしたくて俺を監禁してるみたいに聞こえるんだけど」
「??」

 今度はシズちゃんが首を傾げた。ごくん、と飲み込んで、怪訝そうに言う。

「だから、そうだって言ってんだろ??」

 そんな当たり前のことを今更聞かれる意味が分からない、とでも言うようなシズちゃんの表情に、さすがの俺も困惑せざるを得なかった。いや、知らなかったし。初めて聞いたし。色々ブッ飛びすぎだし。

「……そうなんだ。あー、なんか今日は飲みたい気分だなぁ。ねえ、何か作ってよシズちゃん」
「ふざけんな、道具もなしに出来るか。チューハイで我慢しとけ」
「えー」

 俺が選んだのは、『聞かなかったことにする』という選択肢だった。いや、無理だから。仇敵に定期的に二〜三日監禁されているっていう現状も深く考えると混乱しそうなのに、それに加えて今の衝撃発言まで受け止めるとかいくら俺でも無理だから。

「明日の夕飯何にすっかな……」
「シチューなら明日も居てあげてもいいよ」
「つーか毎度あっさり逃げてんじゃねーよ」
「シズちゃんの拘束が甘すぎなんでしょ」



 一度シズちゃんの仕事中にさくっと脱出した俺が、シズちゃんがシチューの材料を買っているという情報を得てうっかりシズちゃんの部屋に戻ってしまったのは、まあ、なんていうか、気紛れということにしておこう。
 絆されたとか餌付けされたとか、そういう訳では、決してない。





12/25クリスマス(単発)
■付き合って半年
○クリスマス前
「ねえシズちゃん、一応聞いておくけどさぁ、きみクリスマスの予定って埋まってる?」
「あ? もうとっくに(手前と過ごすって)決めてる。……今更何言ってんだ?」
「はははははだよねえ〜!! うん! わかってたよ! 一応聞いてみただけ!」
「(付き合ってんだから臨也と過ごすに決まってんだろ)」
「(わかってた! わかってたよ! 付き合ってるとはいえ俺たちの関係ってクリスマス一緒に過ごそ?(ハート)みたいな甘ったるいもんじゃないよねぇ! うん! わかってたから全然大丈夫! でも温泉巡りに行こう! べつにシズちゃんが他の誰かと楽しくクリスマス過ごすのを見かけたくないとかじゃないけど、自分へのクリスマスプレゼントとしてね! そうだそうしよう!)」


○クリスマス当日
「あのクソノミ蟲連絡つかねえし家に行っても居ねえし……俺には何の連絡もないくせに新羅には連絡してやがったし挙げ句一人で温泉旅行だぁ? クリスマスに恋人ほっぽって随分いいご身分じゃねえか臨也くんよぉー……!! 見つけて捕まえて泣かす。ぜってぇ泣かす!!」



■翌年
○クリスマス前
「シズちゃん、今年のクリスマスの予定って…… どうなってる?」
「クリスマス?(去年は勘違いでやたら手間かけさせられたからな……今年はちゃんと言わねえと)そりゃ恋人と過ごすに決まってるだろ」
「恋人……」
「おう(つーか去年散々色々言ったんだから今年は分かるだろ)」
「(あれ? 恋人って俺だよね? ……シズちゃんが本人を前に『恋人と』って言うかな? 実はもう付き合ってると思ってるのは俺だけでシズちゃんの本命が他にいるっていう可能性は……いや、今のところそんな情報は入ってない。ないけど……)」
「臨也?」
「えっ。……あ、いやなんでもないよ。コーヒー飲む?」
「飲む(? ……照れてたのか?)」


○クリスマス当日
「…………で? 手前はなんで俺が来る前から一人で出来上がっちゃってんのかなぁ臨也君よぉー」
「あーしずちゃんだー……そっかぁー恋人ってやっぱりおれかぁ。よかったー」
「はああ?? 何言ってんだ手前……っておい」
「……くぅ」
「寝てんじゃねーよ! さっきのどういう意味だ手前! つーか恋人放置で一人酔っ払って爆睡ってどういうことだクソノミ蟲! おい!」
「……すー……」
「……マジで寝やがった……」



■更に翌年
○クリスマス前
「そういえばシズちゃん、クリスマスだけど、予定は」
「恋人の手前と過ごす。仕事終わったらすぐ来るから待っとけ。風呂は入っとけよ。それと俺が来るまで酒は飲むな。絶対に、一滴も、飲むな」
「え、あ」
「分かったか?」
「は、はい」
「よし(最初からこう言っときゃよかったのか)」




 静雄は 言葉を尽くすこと の 大切さ を 覚えた!▼

10/02付き合って別れた静臨(単発)
とても長い上に書きかけでいろんなものがバラバラ
思い付くままに書き散らしたのでいつか組み立て直したい

追記

06/12暑さに負ける静臨(単発)
 今日も些細なことでキレたシズちゃんと派手に校内を走り回っていたが、校庭に飛び出したあたりであまりの暑さにお互いやる気をなくした。

「ねえシズちゃん……今日はもう休戦にしない? コンビニ行こう、アイス奢るから」

 二人揃って日差しの届かない日陰へと避難した後、じりじり焼ける校庭を眺めながら提案する。暑さのせいか、俺の頭はちょっとおかしくなっていた。しかしそれはどうやらシズちゃんも同様だったようで、平時より力の抜けた声が怒鳴りも威嚇もしないまともな返事を寄越す。

「あー……パピコ食いてえ」

 それは条件付きの了承だったので、俺はパピコくらい三つでも四つでも食べたらいいよと頷く。そんなには要らねえよ、とめんどくさそうな声が返ってきた。
 どうやら化け物も暑さには弱いらしい。今日の暑さは異常だからそれも仕方のないことだろう。

「今の俺は夏の暑さをどうにかできるならシズちゃんとも仲良く出来る気がするよ……」
「奇遇だなノミ蟲、俺も今すぐ涼めるなら手前を殺すのを三日くらいなら我慢してやれそうだ」
「短いね」
「奇跡的な数字だろ」

 三日は奇跡的な数字なのか。シズちゃんの気の短さには驚かされるばかりだが、シズちゃんの自己申告を受け入れるなら、その奇跡的な数字を叩き出してしまうくらいシズちゃんも暑さに参っているということだろう。夏バテしてるシズちゃんなら殺せるかもしれないが、残念ながら夏の日差しは俺の上にも平等に降り注いでいるので、今の俺にシズちゃんを殺す気力はない。

 肌を焼くような強い日差しに晒されながらシズちゃんと並んでだらだらと歩く。並んでとは言っても、間には1メートル以上の距離があるが、それでもなかなかないことだ。珍事だ。これこそ奇跡的な出来事だろう。

「つーか手前何で長袖なんだよ……見てて暑苦しい」
「焼けるじゃん」
「女子かよ」

 呆れたように俺を見下ろすシズちゃんはどうせ皮膚までバカみたいに丈夫なのだろう。シズちゃんには日焼けの面倒さなど分かるはずもない。嫌味のひとつでも言ってやりたかったが、暑さのせいで嫌味を言うために口を開くのすら億劫だった。






 コンビニの冷房によって大分マシな気分にはなったが、今からシズちゃんに喧嘩を売ってまたこの暑い中走り回る気分には到底なれなかったので、おとなしくアイスを選ぶ。
 何を食べようかと悩んでいたら、さっさとアイスを選んで会計を済ませたシズちゃんが「おい、臨也」と、珍しく俺を名前で呼んだ。

「なに? 俺まだ選んでるんだけど」
「あ? いらねーだろ。早く来いよ溶けるだろうが」
「はあ?」

 何言ってるの? と俺が眉を寄せると、シズちゃんも同じように……いや俺より数倍険しい顔になり、無言でこちらに歩み寄ってくるとがっしりと俺の手首を掴んで店外に連行していった。万引きするわけにもいかないので、俺は泣く泣く手に取っていた数百円のアイスを戻す。
 シズちゃんに引っ張られて外に出ると、あっという間に暑さが舞い戻ってくる。人工的な明かりとは違う強い光が目に眩しい。

「なんなの……?」

 その暑さと眩しさに、シズちゃんの勝手な行動に苛立つ気力も奪われて無気力に問えば、がさがさと音を立ててアイスの包装を破いたシズちゃんが、アイスの片割れを差し出してくる。

「おら」
「なに? くれるの?」
「おー」

 言いながら既にシズちゃんは自分の分に口をつけている。シズちゃんが何をしたいのかはよく分からなかったが、とりあえず受け取った。シズちゃんは食べたがっていたアイスを口にできてご満悦のようだ。

「自分で食べればいいのに」
「二つも食べたら腹壊すだろうが」
「シズちゃんのお腹がそんなに繊細だとは思えないけど」
「殴るぞ」

 暑さのせいでだるそうなシズちゃんの拳はいつもよりは軽そうだが、それでも軽々吹っ飛ばされるだろう。さすがに殴られるのは勘弁なので、大人しく口を閉じる。俺の舌も暑さのせいでいつもの数倍重い。
 ……何だろう、これ。暑さのせいかな。
 シズちゃんから手渡された、アイスの片割れを見下ろす。仲良く分け合う為に二本セットになってるとか聞くこのアイスを俺とシズちゃんが一緒に食べるって何の冗談だよ。ていうか俺奢るって言ったのにコイツ普通に自分で買いやがったな……。べつにシズちゃんにアイス奢りたかった訳じゃないからどうでもいいけど。

「早く食えよ。溶けると開けにくくなんぞ」
「へえ……」

 開けにくくなるらしいので、俺もぺきりと蓋をもいだ。暑さのせいであっという間に溶けて柔らかくなり始めていて、食べやすい溶け具合だ。確かにちょっと開けにくかったような気もする。
 真上から降り注ぐ日差しを避けるように、コンビニ下の狭い日陰にシズちゃんと並びながら、コーヒー味のアイスを食べている。しかもよく考えるとこのアイスはシズちゃんの奢りということになる。夏ってすごいなとしか言えない。

「……俺ダッツ食べたかったんだけど」
「黙って食え」

 言いながらも、もうとっくにアイスを食べ終わっているはずのシズちゃんは、どう考えても快適とは言いがたい狭い日陰に留まっている。ちらりと見上げた横顔は、聞き慣れた怒鳴り声とも、見慣れた凶悪顔とも遠い、見慣れないものだった。目の眩むような強い日差しの暑さと、自分では選ばないアイスのコーヒー味と、普段なら俺を視界に入れるだけでキレるシズちゃんの穏やかな横顔。珍しいものばかりが揃って、俺の意思とは関係なく記憶に強く残る。
 これから先、今日のように暑くて眩しい日には、きっとこの冷たいコーヒー味と凪いだ横顔を思い出してしまうのだろう。シズちゃんはきっとあっさり忘れるんだろうけど。さっき、当たり前みたいな顔でアイスを差し出してきたように、なんでもないこととして片付けられてしまうに違いない。

「……俺やっぱりシズちゃん嫌いだな」
「暑いんだからイラつかせんじゃねえよクソノミ蟲」

 そんなことを言いながら、もう用事もないはずのこの狭い日陰から出ていかないのだから、本当に嫌になる。
 強い日差しと共に脳裏に焼き付いた横顔があまりに鮮明で、軽いプラスチック容器の吸い口をがじりと噛んだ。
 俺もとうにアイスなど食べ終わっていた。空の容器を行儀悪くくわえている理由は、ゴミ箱が見当たらないから、ということにしておいてほしい。俺達の斜め後ろに、シズちゃんが武器にしてしまいそうな箱があることは、ずっと前から知ってるけど。





===
厳密にはチョココーヒー味ですね



06/05めんどくさい臨也(単発)

「ずるいよねぇシズちゃんは」
「……はあ?」

 人の家に急に押し掛けてきたと思ったら一人で延々携帯を2台同時に弄り回していた臨也が、突然そんなことを呟いた。そちらに目を向けると、いつの間にやら携帯を手離した臨也と視線が絡む。

「何だよ急に」
「何だと思う?」

 臨也は口元に笑みを湛えて問いを返してきた。いつもなら鬱陶しいくらいよく喋るくせに、今日は口数が少ない。それに気が付いて、眉を寄せた。臨也は、気分が沈んでいるときや体調が悪いとき、口数が少なくなる。

「言わねえのに分かるわけねえだろ」
「確かに、シズちゃんには無理かな? 察するとかそういう繊細な芸当はシズちゃんには向いてないよね」

 臨也が笑う。いつもと同じムカつく笑い方なのに、何故か苛立たないのは、臨也の口数が少ないことが気になっているからだろうか。
 臨也はそれきり飽きたように顔を背けて、放り出されていた携帯の片方を手に取って弄り始めた。もうこちらを見もしない。

(……手前の方がずりぃだろ)

 聞いておいて正解させる気もなく、そもそも答えを聞く気もない。言葉にすることがあっても、分からせるつもりはまるでない。

(俺でなくたって、手前のことを理解するのは無理だ。手前に理解させる気がねえんだから)

 理解しろと言わんばかりのことを言うくせに、理解させるつもりはない。押し掛けておいて別のものに集中して、話し掛けておいてこちらを見ない。どう考えたってずるいのは臨也の方だ。

(べつに、いいけどな)

 手元の小さな機械に夢中になっている臨也の頬を掴んで、無理矢理振り向かせて口を塞ぐ。

(無理矢理吐かせりゃいいんだからよ)

 右手に握られていた携帯は奪い取って放り投げた。ガシャンと派手な音がしたが、知ったことか。抗議するように、どこかから取り出したナイフをグサグサ突き立ててくる腕を掴んだ。取り落としたナイフは足で追いやる。噛み付いてきたので同じようにやわく噛み付いた。

 臨也を放置していた静雄に声をかけてきたように、今日約束もないのに部屋に押し掛けてきたように。


 最初にそばに寄ってきたのは、臨也の方なのだから。





06/01高校時代の恋心が甦る静臨(単発)
 まだ俺が学ランを着ていた頃、俺は平和島静雄というどうにもならない化け物のことがすきだった。

 平和島静雄という男の存在を知って、圧倒的なまでの力を奮うあの男を、思うがままに掌の上で転がせたらどんなに愉しいだろうと夢想した。もっとも、そんな夢は目を合わせた瞬間に砕け散って、お互いにどうしたって受け入れられないであろうことを理解することになった訳だけど。
 初めて顔を合わせたそのとき、俺は目の前の男が俺の思う通りにはならないことを悟って、それまで抱いていた興味と期待を一気に反転させた――はずなのだが、どうにも一部は反転し切らずにそのまま残ってしまったらしい。

 俺は、シズちゃんというどうしたって俺のものにはならないだろう化け物がすきだった。

 しかし、『だった』と過去形で表される通り、それは勿論昔の話。
 そんな不毛で惨めで、天地がひっくり返っても報われるはずもない感情とは、高校在学中におさらばした。シズちゃんのことを好きになったって、俺が俺である以上それがよい方向に転ぶことなどあるはずもない。そんな不毛な感情を抱え続けるつもりは毛頭なかった。
 幸い、シズちゃんは俺が嫌いで嫌いで仕方がなく、また俺のほうもシズちゃんを疎ましく思う気持ちは嘘ではなかったので、その不毛な感情とはわりとさっくりとお別れできた。シズちゃんに睨まれても苛立つだけでときめかなくなったときは心底から安堵したものだ。苛立つのに同時に心臓がきゅんきゅんして、あの頃はシズちゃんと正面から喧嘩すると妙に疲れた。シズちゃんから逃げ回ることに今ほど慣れていなかったから肉体的な疲労が大きかったというのもあるが、それ以上に精神的な疲労が強かったように思う。だからこそ、シズちゃんにときめかずに済むようになったときには本当に安堵した。

 俺にとって、シズちゃんを好きでいることはひどく疲れることだった。報われる可能性など万に一つもないし、そもそも好きでいるというそれ自体が精神的な疲労を伴った。
 だから捨てた。そして今は、シズちゃんを好きだったことがあるという過去も黒歴史として心の奥深くに封印している。新羅ですら知らないはずだ。自覚するのは早かったし、自覚している感情を隠すのは然程難しくはない。
 今の俺はシズちゃんを好きだなんて血迷った感情にはとっくの昔にサヨナラしているし、周囲からすれば出会ったときからずっとシズちゃんのことを嫌いな折原臨也であるはずだ。
 そしてシズちゃんも、いや、シズちゃんのほうこそ正真正銘、出会ったあの瞬間からずっと俺のことを嫌いで、一瞬たりとも好きだったことなどないだろう。そのはずだ。
 たとえ街中でぶん投げたゴミ箱だかポストだかが直撃して俺が気絶したとしても、シズちゃんの正しい反応としては良くて放置、悪くてとどめをさす、あたりだろう。誰かに迷惑かがかかるとか、怒りが収まって公衆の面前での殺人はさすがにまずいと気付いたとか、そういう理由があればもしかしたら新羅のところに放り込むくらいはするかもしれない。しかし可能性として一番濃厚なのはとどめをさされるパターンだ。シズちゃんにとっての俺はそういう相手のはずだ。間違っても自宅に連れ帰って優しく介抱してくれたりはしないだろう。部屋にノミ蟲臭が移るとか言いそうだ。想像でイラっとした。とにかく、シズちゃんが俺を部屋に連れ帰ったりなんてことは絶対ない……はずだ。
 それが、なぜ。

「……何でシズちゃんの部屋に居るんだろう、俺……」

 煙草のにおいが染み付いた部屋。物が少ないこの部屋に誰が住んでいるのか、俺は知っている。知っているけど、似たような部屋に住んでいる別人であるような気がしてならない。気絶して放置された俺を、見ず知らずの誰かが拾ったというほうがまだ信じられる。しかし、部屋のあちこちに見覚えのあるものが置いてあるとなれば……やっぱり、そういうことなんだろう。
 容易には受け入れがたい現状に戸惑っていると、がたりと物音がした。音とその方向から察するに、恐らく、玄関から。誰だろう、なんて、決まりきっている。
 がちゃり、扉が開く。

「なんだ、起きてたのか」
「……シズちゃん」

 自宅だからだろうか。外で会うときより幾分気の抜けたふうのシズちゃんが、未だベッドの上の俺を見下ろした。俺に向けられているとは思えないほど、敵意を含まない穏やかな視線。キレていないシズちゃんと正面から顔を合わせたのは何年ぶりだろう。そういえばキレてさえいなければ、シズちゃんはわりとおとなしいのだった。

(……あ)

 どくり。
 思わず右手で胸を押さえた。

(……最悪だ)

 どくどくと心臓が騒がしく跳ねる、この感覚。
 とっくの昔に捨てたはずのそれは、消えた訳ではなかった。

 ただ――奥深くに、埋まっていただけなのだ。





05/23キスの日(単発)
 最近臨也と会っていないことにふと気が付いて、気まぐれに家を訪ねてみれば、臨也は仕事に忙殺されていた。

「居てもいいけど、邪魔はしないでね」

 シズちゃんが邪魔したりしなければあと二時間くらいで終わるから、と言うので、まあ二時間程度なら待ってやるかとソファーに腰かけて約一時間。暇を潰すにも限界が来て臨也の様子を観察するも、どうやら仕事はまだまだ終わりそうもないらしい。滑らかに動く指先はキーボードの上から離れることはなく、キーを叩く音は淀むことなく鳴り続けている。
 ここで退屈に耐えかねて臨也にちょっかいをかけようものなら面倒なことになるのは目に見えていたので、暇を持て余しつつも臨也の邪魔はしない。
 さてどうやってあと一時間を待とうかと考えたところで、ふと喉の渇きに気が付く。コーヒーでもいれようかと、立ち上がってキッチンへ向かった。このキッチンにもすっかり慣れている。勝手知ったるなんとやらだ。
 静雄しか使わない、つまりは静雄の為に置かれているらしいインスタントコーヒーの粉末を手に取ってから、今はコーヒーの気分じゃないなと元の場所に戻す。冷蔵庫を開けると未開封の牛乳パックが入っていたので、ホットミルクでいいか、とそれを取り出した。




 静雄がマグカップを持ってキッチンを出ても、臨也は静雄がキッチンに入る前と全く同じ体勢でパソコンに向かっていた。近付いて、邪魔にならない位置にコトリとマグカップを置いてやっても見向きもしない。静雄も臨也のそんな反応には慣れているので、臨也の集中が途切れない程度の距離を保って仕事に没頭している臨也の真剣な表情を眺める。
 静雄が訪ねてきたとき、臨也が仕事で忙しくしていることは今までも何度かあった。はじめの一回は、待っているのが面倒になって――ついでに臨也の顔色も非常に悪かったので――強制的にベッドに連れていってぐだぐだに疲れさせて眠らせたのだが、翌朝の臨也の焦りようといったらなかった。怒り心頭の臨也にしばらく出入り禁止にされた上散々嫌がらせを受けたことはまだ記憶に新しい。それが堪えて……というよりは、そのときの臨也の様子に『休ませたのに本末転倒だったな』と思ったので、それ以来強制終了させることは控えている。
 そういう訳で退屈を持て余している静雄は、二度目以降は気が向けば臨也にコーヒーをいれてやることにしていた。手の届く位置にカップを置いてやれば、仕事の手は休めないが口に運ぶことは知っている。そのときは何も言わないくせに、仕事が終わってから静雄がいれたインスタントのコーヒーの味に文句を言うのだ。静雄が持っていくときも、カップに口をつけるときすら一瞥もしない癖に、コーヒーの存在に疑問を口にすることはなくぐちぐち文句をつけてくるのだから、静雄がいれているのだということはきちんと認識しているのだろう。ぐだぐだと文句を言いつつ、それでも毎回しっかり飲み干すものだから、静雄もなんとなく毎回いれてやっている。臨也が毎回文句をつけているインスタントではあるが。臨也の家には色々と道具が揃っているようだが、何やら面倒なこまごました作業をしてまでコーヒーをいれようとは思えなかった。

 今日も視線を向けもせずにカップを持ち上げた臨也は、何をしているのかPCの画面をじっと眺めながら、カップに口をつけて。

「っ?! げほっごほっ!」

 派手に咳き込んだ。
 なんとか噴き出すことは耐えたらしいが、咳き込んでいるせいで片手に持ったカップが揺れて、中身がこぼれそうになっている。

「こぼすなよ」

 言いながらマグカップを取り上げてやると、未だげほげほと咳き込む臨也が涙目できっとに睨み上げてきた。

「あっまいんだけど! なんでホットミルク?!」
「コーヒーの気分じゃなかった」
「じゃあ自分で飲めばいいだろ!」

 呼吸が落ち着いたらしい臨也が抗議してくるが、静雄はまるで気に留めない。臨也はそんな静雄を見て苛立ちを募らせたようだが、仕事を優先させることにしたらしく、ため息と呼ぶには少し荒っぽく息を吐いて椅子に座り直した。

「臨也」
「何? 俺まだ仕事が」

 パソコンに向き直ろうとする臨也を制止すると、不機嫌そうに静雄を見上げてくる。こちらを振り向くその不意をつくように、唇を重ねた。続く言葉は合間に呑み込まれる。

「……、」

 不意をつくことには成功したらしい。驚きからか無防備な顔で静雄を見上げている臨也の髪をぐしゃりと撫でて、恐らくもう口をつけないだろうホットミルクの入ったマグカップを持ち上げた。一口飲み込む。確かに少し甘すぎた気もする。
 だがまあ、そういう気分だったのだから仕方ない。

 カチャン、と音がしたと思ったら、臨也がキーボードの上に突っ伏していた。

「何してんだノミ蟲」
「……なんでもない」

 そうは見えないが、深く追及はしないでおいた。
 明日も仕事だが、確か以前泊まったときに置いていった着替えがあったはずだから、今夜はここに泊まっても問題はないだろう。臨也の仕事が終わるのを大人しく待っていてやることを決めて、静雄はソファーに戻るつもりで足を踏み出した。その背中に、臨也の声がかかる。

「シズちゃん、コーヒー」
「ああ?」
「いれて。インスタントでいいから。ブラックね。とびっきり苦いやつ」

 相変わらず突っ伏したままの臨也がそう言ってひらひらと手を振る。コーヒーをいれてやるくらいは構わないが人にものを頼む態度じゃねえだろと言うつもりで静雄が口を開いたとき、ふと、臨也の耳が赤くなっているのに気が付いた。喉まで出かかっていた文句を飲み込む。

「……しょうがねえな」
「ブラックだからね」
「なんで」

 しつこくブラックと注文を入れてくることが気にかかって問い掛けてみる。普段は砂糖を入れているはずだ。
 臨也は伏せていた顔をちらりと上げて、静雄を見た。耳に負けず劣らず頬も赤い。
 静雄が黙って臨也を見ていると、答えを催促されているように感じたのか、臨也が観念したように顔を上げて体を起こす。

 顔を逸らした臨也は、臨也には珍しい聞き取りにくい声でぼそりと答えた。

「……シズちゃんが、その甘ったるいホットミルク飲むなら、ちょうどいいでしょ」

 臨也が仕事を終わらせたら唇が真っ赤になるまでキスしてやろう、と静雄は心に決めた。
 




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