僕らの描く未来





さわさわと新緑の揺れる音が心地よい。俺はふわあ、とひとつ大きな欠伸をしながら、太い幹に寄り掛かった。宙を仰ぎ見れば蒼空が綺麗で、こんな日は昼寝するに限ると目蓋をおとせば。


ふと、昔のことを思い出した。


すべてを分かった気になるのはお前の悪い癖だと、近藤さんは言っていた。俺がまだ竹刀を握ったばかりの頃だった。

すべてを悟るにはまだ早いと、そう言ったのは土方だっただろうか。分からないことだらけの方が人生面白いでしょ、そう姉上は笑っていた。





「あ、沖田さん。」

「お、ジミー。」

「山崎ですっ!それより、副長がカンカンに怒ってましたよ。とばっちり食らうの、俺なんですからね」

「俺、何かしやした?」

「今現在進行形で、職務放棄してるじゃないですか」

「そんなのいつもの事だろィ、何を今更……」

「その度副長が怒鳴っているのも、いつもの事ですよ!」

「あぁああ、そーでした」



煌びやかに降り注ぐ木漏れ日の目映さに、俺は目をしばたかせた。呆れ顔で此方を見下ろす山崎をじいっと見詰めれば、盛大な溜め息が聞こえてきて。ほら早く、と手を差し出して来た。


山崎のくせに今日はやけに生意気だ。


しかし昼寝にも飽きた俺は、素直に従ってやる。ん、と腕を差し出せば、節くれだった掌に掴まれ、ぐいっと勢いよく引っ張り起こされた。

その力強さが予想外で、俺は思わず目を見開く。そんな俺を山崎は不思議そうに伺った。



「どうかしましたか?」

「いや、山崎は毎日マヨマヨ言って土方の後を追っ掛けてるから、もっとナヨナヨした腕してると思っただけでィ」

「……何ですか、それ。俺だって毎日鍛錬してますから!」



うっぜェ。得意げに言う山崎の鼻面に渾身のグーパンをお見舞いしてやると、悶え苦しむ彼に背を向けて。ざまーみろ、盛大に嘲笑してやる。

山崎は情け無い声を出しながら、慌てて俺に駆け寄って来た。



――俺の、知らない、――。






「てんめっ、総悟ォ!どこほっつき歩いてやがった!」

「やだなあ土方さん。そんなに俺のことが気になるんで?だからってプライベートな話はよして下せェよ」

「ふざけんなァアア!!!」



怒声を飛ばした土方さんの瞳孔は完全に開き切っていた。どうやらいつも以上に機嫌が悪いらしい。俺はふん、と鼻を鳴らす。

すると呼吸を落ち着けたのか、やけに真剣な顔をした土方さんがくるりと此方を振り向き。



「明日の討ち入りは、一番隊に任せようと思う」

「へェ?まァいいですけど、何でまた、」

「お前の行きつけの団子屋だ。あそこの店主がどうにも絡んでやがる」

「……ふうん。」

「任せられるか?」

「もちろん」



俺は土方さんから右手にぶら下げた袋に視線を移すと、中からみつだんごを取り出して、それからパクリと口に含んだ。割と気に入っていた店だった、と今朝見た店主の顔を思い浮かべる。本当は近藤さんに買って来たんだけど、まァいいか。

すると、俺が口許にべっとりとつけた蜜を眺めて、土方さんは小馬鹿にしたように薄く笑みを浮かべた。ムッとすれば、彼の長い指先が俺の口周りに触れてそれらを拭い去る。それが妙に、あたたかい。


そうだ、明日からどこの団子屋でサボろうか。



――俺の、知らなかった、――。






「おっ、トシも総悟もこんな所にいたのか!」

「どうしたんでさァ、近藤さん?やけに嬉しそうですねィ」

「分かるか?実は……お妙さんが明日、すまいるに是非来てくれって言ってな。初めてお妙さんに招待されちまってさ!」

「おいおい、近藤さん…。それって金せびるつもりじゃ、」



彼女の意図に気付いてしまった土方さんは眉間に皺を寄せる。俺はその隣で目を細めた。

近藤さんはとても嬉しそうに、笑顔を絶やさない。




「――そうだ!トシも総悟も、三人で一緒に行こうじゃないか」



人間も未来も不確実で、世の中知らないことだらけだ。きっと神様にだって分からない事もあるのかもしれない。

そんな世界で、俺は、息をしている。

近藤さんに、真選組に出会ったことは運命のようで奇跡のような、巡り合わせ。



「ぜひ。明日、討ち入りが終わったらご一緒させて下せェ」



未来を視ることは叶わないけれど、未来を思い描くことならできる。

明日何が起きるかなんて、誰にも分からない。けれどこの世界に生き、彼らと出会った、それは覆しようのない事実で。俺のただひとつの自信。それはとても幸せなことなのだ。



「そうかそうか。なァ、トシも行くだろう?」

「正気かよ、総悟……」

「まァ。たまにはこういうのもいいんじゃねェですか」



先には何も見えない。俺が歩いた後に草も花も育って行く。苦しいことも楽しいこともひっくるめて、道は出来る。彼らの笑顔が俺を元気付け、俺の意志が彼らを勇気付け。そうして他の誰でもない、俺が道を、未来を創る。


――此の不確かな世界で、俺達は、ただひたすらに歩み続ける。







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私自身が主催致しました身内企画、『Hand In Hand』に提出。リンクはサイトトップにて掲載しています。





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