独りで生きる力すら持たぬこの柔い手を振り解くことは如何にも簡単なことに違いない。
 けれども、それが自分はできない。出来ないままに、彼にされるがまま押し倒されてすらいた。自分がそうしている理由を、利吉は知らない。考えたとて詮無いことだと思っていた。
「利吉さん、」
 自分を見る眼が、常よりとろりと溶かされている。その瞳に棲む男の本能が、痛いほどに見える。荒い呼吸の隙間から呼ばれる名がこれほどまでに愛しいことを、それまで知らなかった。
「好きです、りきち…さん」
 必死で、不器用で、何一つもろくにこなせやしない、ドジな奴。見ていて苛立ちが募るばかりなのに、――ああ、と嘆息はそのまま唇から零れ落ちた。どうしてかな、心臓がぎゅっと締められているような気がする。仕事で命を削るより、余程痛い。彼の考えの足りないちいさな頭を引き寄せて、利吉は噛みつくように囁いた。
「早くしろ、愚図」


 *


「どうして私は君をふりほどけないのかな」
 仰向けになったまま、天井に向かいぽつりと呟いた利吉の言葉に目を丸くしたのは隣に微睡んでいた小松田だった。はたはたと瞼の瞬く音に、利吉は首を曲げて小松田を見る。
「それは……」
 珍しく照れたような様子を小松田は見せた。なんだよぐずぐずしないで早く言えったら。不愉快そうに眉を寄せた利吉に対し、小松田はまだ勿体をつけた。あのう、それって、やっぱり。利吉は痺れを切らした。言いたくないならいいと背を向けて寝ようとする彼に、ようやく小松田は答えを渡した。
「僕が好きだからじゃないですか」
 そうだと、僕は思ってましたけど。そっと手を重ねながら言われた言葉に、利吉はぐらりと世界が揺らいだ気がした。
「……痛いですよお、利吉さん」
「馬鹿なことを言うからだ」
 続けざまに襲った熱に、耐えきれず利吉は先に握られていた手で彼の頭を打っていた。


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