「……接吻すりゃわたしが黙ると思うなよ」

 そう言った瞳がずいぶんこわいもので、石川は思わず笑みを漏らした。なに、お前。
「自覚はあったんだな」
 更にこわくなる瞳。そして尖る唇を再び塞いでやった。うるさくなる前に、塞いでしまうのが得策。あわよくばそのまま事まで及んでしまえば、奴も男だ。欲望には逆らいはしない。
「い…しっか、わ」
「あん?」
 ざらりと舌で彼の内側を舐めてやりながら、彼の瞳を石川は覗いた。もうそろそろこわい色は、艶めき始めた頃か。少し唇を解放してやると、土井は荒く息をついた。それから、ぬるりと下から嘗めるように石川を視る。背中をひやりと冷たいものに撫でられた気がした。
「……石川」
「おう」
 誘うような色、と言うのか。土井の瞳を濡らしたそれに、石川は唾を飲み込んだ。土井はするりと健康的な色をした腕を伸ばし、石川のうなじに絡めた。このまま、と土井の唇は妖しく笑みを形作る。
「このままオトしてやってもいいんだぞ」
 だからわたしの話を聞け、な?
 口調だけは常のように穏やかであったが、その笑顔の裏には既に並の人間ならば瞬きする間に仕留められる用意があった。やってくれる。男の性をを手にとって誘い込み形勢を見事にひっくり返すその手口はくのいちにも勝るか。
 感心する一方で、石川は全く別のことをも考えていた。こんなふうに、昔みたいな瞳をしてまでやることかね?だいたい、土井は根本的に間違っていることがある。
「い…っ、しっ!」
 石川はそんな瞳の土井半助を前にして、はいすみませんでしたと引き下がるような男ではないのである。過去に見た光などをぎらつかされようものなら、むしろますます食らいつきたくなる。石川は土井の手のひらをうなじに感じながらも、構わず接吻を繰り返した。

 そうして、首筋に走った衝撃とともに意識が闇に落ちてしまおうと、彼に如何な後悔があるものか。



墜落死
(堕とされるも落とされるも)
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