ふと、思いつきのように石川は土井の手を取った。なんだよと咎めることも億劫で、土井はその手をされるがままに差し出した。ちょうど今は忙しない子もアルバイトに出掛けてしまっていて、手も空いている。
 石川はにべもなく放り出された土井の手のひらを眺めて、観察した。質感をも確かめるのか一本一本を探るように撫でた。検査にも似たそれに、少々のくすぐったさを感じたものの、やはり土井はされるがままに預けていた。
 土井の指の腹をなぞる途中、石川ははたと動きを止めた。なあ土井、と彼は諳んじるように言葉を始めた。
「お前、最近火薬作ったろ」
「なんだよ、わかるのか」
 気味が悪いなと零すと、石川は愉しげに種を明かし始めた。別に喜ばせてやる気など毛ほどもなかったのだが。
「変わってねぇな。お前、いつもここんとこ、ちっと火傷すんのな」
 そう言って土井の右の薬指の腹を撫でる。なるほど、傍目にはわからない程のものであるが、わずかばかりに皮膚が焼けている。数日も経てば跡形もなくなるようなものだ。
 土井はふうんと鼻を鳴らすと、今度は石川の手を逆に奪ってやった。乾いて皮の固くなっている石川の手をぐるりと検査し、緩やかに唇を曲げた。
「お前だって変わってないな」
「へえ?」
 眉を上げた石川の手の甲に出来た小さな掠り傷を、土井は指差した。
「これ。お前またどっかで無理矢理錠前破っただろう」
「おお、お前も気味悪ぃな」
「お前には言われたくない」
 一寸目を丸くしてから、からからと笑った石川に、土井も呆れたように苦笑した。
 変わらぬことを喜ぶべきかは知らないが、ただ時が穏やかであることだけはわかった。子どもたちは毎日日毎に変わりゆくというのに、自分たちと来たらこうも変わらない。取り残されているようだとは言わない。しがみついているのだとも思わない。ただ、変わらずにそれを穏やかに指摘し合える男が居ることくらいは多少喜ばしく思ってもいいのかもしれない。
 石川のがさがさした手を放り出して土井は床に寝転んだ。なあ石川、と呼び掛けるとすぐ横に同じように寝転んだ石川が欠伸をしていた。
「手がしわしわにしわがれちまって恥ずかしくっても私には見せろよ」
「なんだよそりゃ」
 土井の言葉に石川は噎せるまで笑った。

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