「それ、こないだ買ったの」
ほう、と木下は息を吐いて目下のそれを眺めた。中古で買ったらしい今流行りの据置きゲーム機にはリモコン型コントローラーがふたつ。ゲーム機は木下の家の液晶テレビにしっかりと接続されていた。
家に置いておいても一人ではあまりやらないのだと尾浜は説明した。友人たちとやるときは専ら尾浜のほうから出掛けていくし、一人でやるゲームもあまり持たない尾浜の家では埃をかぶりかねなかったそうだ。
このゲーム機以外にも、以前に尾浜が持ってきたり買ってきたりした物で、比較的簡素だった木下の家はいつのまにか彼のふだん使わない物でずいぶん賑やかになっていた。
「べつに構わんが」
「そう?よかった」
思わず口から漏れていたのは、そのゲーム機に対してだったか、それとも自分の家が尾浜の私物で溢れていくことに対してだったかは定かでない。
どちらにせよ尾浜はさして気にとめた様子もなくさっきからコントローラーをいじっている。ネクタイを緩めながら木下はそれを横からのぞきこむ。ふと、尾浜が視線を上げて木下の顔を窺う。その瞳の色は蛍光灯を反射して爛々と輝いて見える。「先生、疲れてなかったらでいいんですけど」
どうぞ、とコントローラーを押しつけられ、木下は苦笑を漏らした。そんなに目をきらきらとさせて言われたものを、どう断ればいいと言うのだ。学校を卒業し、ひとりでも随分いろんなことをできるようにもなった尾浜を、少しは大人になったと感じていたが、やはりそうでもないらしい。 やっぱり疲れてます、よね? 下がっていく眉尻に愛しさを思いながら木下はリモコン型のコントローラーを受け取った。
「そう言ってお前、どうせ明日が土曜日なのを見越していたんだろう」
「やだなあ、おれだって無理にやってやってなんて言いませんって。まあ、勝率はなるたけ高いときを狙いますけど」
そう悪戯に笑みを見せる態度はやはり、彼が一生徒であったときと変わらぬ無邪気さを今でも垣間見せる。木下は緩めていたネクタイをするりと外してしまうとソファに掛けた。
「それじゃあこれも儂に勝てると見越してか」
「手加減してあげましょうか?」
尾浜はにこにこと笑いながら自分もコントローラーを握った。どうやら生意気は彼が子供であった時分よりもさらに酷くなったらしい。
以下小ネタ
・相性チェック
Q,憧れる職業は?
教師、医者、政治家と並べられた選択肢を眺めて、木下少しだけ迷ってとりあえず上キーを押した。尾浜が押したのは左キー。結果を見るなり尾浜は思いきり不平を漏らした。
「先生選んでよ、先生!」
「もう先生にはなっとるわ」
木下は医者を選んだ。とくにさしたる理由はなかったが、とりあえずで選んだ答えだった。そんなことよりも、尾浜がそう恥ずかしげもなくその答えを選んだことの方が木下にはなんとも気恥ずかしくて居づらかった。
・おじゃまひつじレース
「……」
「先生、口元ゆるんでるよ」
・ひつじ集め競争
「……」
「なんじゃ、見るな!顔を!」