「利吉さんっていい子ですよね」
 彼はいつも思いつきで物を言うのだと、利吉は思っている。実際これも小松田の思い付きであるのだろう。少なくとも、これまで彼と居た夜に、そんな良い子にしていた記憶は利吉には無い。とりあえず、そういう彼の思い付きに対し、もうお決まりになりつつあるため息を吐きながら利吉はその間抜け面の額を軽く叩いてやった。
「なんで私がキミにいい子だなんて言われなきゃならんのだ」
「えっ、いけませんかあ」
 首を傾げる仕草にも見飽きた。利吉はわかりやすいほどに顔をしかめてみせる。
「不愉快だ」
「褒めてるのに」
「キミにそんなふうに褒められても嬉しくない」
「利吉さんのバーカ、あーほ、意地っ張り、変態……ゲェッ」
 つらつらと並べ立てていた言葉たちは、かえるを潰したような小松田の声に押しとどめられた。大人げなくめり込まされた利吉の肘が小松田のみぞおちを抉ったのだ。ふだんではなかなか体験しない灸に、小松田は年甲斐もなく少し泣いた。げほげほと噎せてから、彼は恨めしげに利吉を睨む。
「褒めるなって言うから……」
「だからといってキミにけなされたら益々腹立つわ」
「……短気」
「なんだ?」
「なんでもないですう」
 眉をつり上げた利吉に、拗ねたように頬を膨らして小松田は足をぱたぱたと動かした。その仕草にまた利吉は顔をしかめていた。ガキそのものじゃないかというぼやきは夜半の風にまぎれた。
 それから、ちりんと軽やかに鳴った風鈴の音がきっかけであったのか、唐突に小松田はうつぶせていた半身を起した。瞼が重くなり始めていた利吉はやはり眉をひそめた。
「そうだ!」
 利吉さんと呼ぶ声に、心底迷惑そうに利吉は寝返りを打った。いちおう小松田のほうに顔を向けてはやったが、すでに瞼も重い。身を起こしてやる気までは起きない。いったい何をまたトンチキなことを思い付いたのだか。隠しもせずに利吉は欠伸をする。そうしてその頭に、やんわりとした重みを感じた。
「……ん?」
「よし、よし!」
「キミって奴は……」
 ひいい、と悲鳴を上げて身をかばう彼に振り上げた拳をよっぽど叩きつけてやろうかと思ったが、やめた。こめかみに浮かんでいた血管を鎮めて、ゆっくりと息を吐く。私、寝るから。それだけ言うと、そのまま首の力をすっかり利吉は抜いてしまった。こてん、と小気味いい音とともに利吉の頭は彼の腿の上に落ち着いた。あれ?利吉さあん、という情けない彼の声が聞こえる。少しずつ意識の外に薄れていくそれを聞きながら利吉は眠りに落ちた。

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