村一:誰よりも彼の為に有能でありたかった。その彼がいなくなった。俺はどうしたらいいかわからなかった。/愛情のあかし


村一:
「すいません、こんなのしか売ってなくて」
「安っぽいなあ、おい」
「すいません。今チンしますね」
「おう」
チンってなあ、と苦笑いしながら一条はソファにふんぞり返った。今更こんな食事と言いながら二人で食べた。オイシイナアと嫌味に言うと村上は恐縮した。はは、おいしい。
/おいしいね!


村一:(名前を呼ぶことすら億劫だ)
おい、と呼んで、はい、と言うのがお前だけの空間がいい。億劫だ。喋るのも、考えるのも。そういうとき決まって村上は俺の全てをこなしてくれた。いいかもなあ、ずっとこんなのも。そう暢気に微睡むのも億劫なときだけだった。



0604
森銀:「重たい荷物だから持つんでしょう」言ってから少し恥ずかしそうに目をそらすその仕草が愛おしくてたまらなかった。それから「俺はあんたの為なら」と、懲りずに続けるのを唇を塞いで止めてやった。閉ざしていた目を開いて銀二は重いトランクを持ち上げる。彼が銀二の荷物を持つことはもう無い。
/重たい荷物だから持つんでしょう

0527
大丈夫あの人は信用できる。密室に捨て置かれた男は自身に言い聞かせるように反芻する。大丈夫、大丈夫。カツンと待ち望んだ足音に男は目を輝かせた。約束通り、彼が助けに来たのだ。銀さんと声に出そうとしたのを押し止め彼が笑った。「悪いな。お前はあいつじゃねえ」眩暈がした。それが最後だった。
/「深夜の密室」「裏切る」「目眩」






森銀「夕方のホテル」「耽る」「ビール」

 銀さんが安いビールなんて意外だった。彼が缶を開ける音が聞こえて漸く俺も手渡された缶のプルタブに指を掛けた。合間にちらと彼を盗み見る。俺は彼の目を見てはいけなかったのに。案の定ぬるりと指が滑った。クク、と彼が喉の奥で笑う。 なんだ、もう酔ってんのか森田? 彼の目が柔らかく細められ、俺を見る。
 
 ああだからもう、だめだってのに。








森銀「夕方の神社」「さめる」「雷」

 此処に通りかかったのは偶然だった。だいたい天にお願いだなんて今更どうかしている。半分冗句で立ってみた社の前は閑散としていた。冷やかしに鈴でも鳴らしてやろうかと思った矢先、ガラガラと戒めるように雷が鳴った。銀二は一人薄く笑みを浮かべた。
 拝殿の屋根をしとどに降り始めた雨が濡らしてゆく。すっかり興がさめた。ありがとよ、と自嘲気味に一人ごち、湿気た煙草は賽銭に入れてやった。







銀二と安田

「…安田だったらこんな風には思わねえんだけどなあ」
「おい」
「わりいわりい」
  彼の喉を鳴らす音を聞きながら安田は少し目頭が熱くなるのを感じた。平井銀二という男は変わった。
 それが奴を得てからだったか、失ってからだったかは定かではない。







森銀「朝のソファ」「噛み付く」「コーヒー」

 がぶ。
「…どうしたんですか」
 危うく飲んでいたコーヒーを全部零してしまうところだった。なんとかそれを耐えきって火傷せずに済んだのはさすがの森田の強運であったかもしれない。あわやそんな事故を生みかねなかった当の銀二はというと、涼しいものだ。
「あんまり旨そうな首筋だったもんでね」
「吸血鬼ですかあんたは」
「そうかもなあ」
 噛み付いた痕を軽く舐めて、しょっぺえと彼は文句をつけた。

「他人の生き血は啜ってるようなもんだし、今若い奴食って生活してるのも当ってんだよなあ」
「食ってるのは俺ですけどね」
「へえ」








森銀

 いつからだったっけなと思うことはもはや懐かしむという行為に成り果てた。いつからだったか、あの人についてゆくと決め、憧れ、そして超人のような彼を身の程知らずにも守りたいとすら思ったのは。くゆる紫煙が夜の闇にとけるのをぼんやり眺めて息を吐いた。いったい何をしているのだろう俺は。
(あの気持ちに嘘は一つだって無かったはずなのに)








森銀※死ネタっぽい

 こんな時になって思い出すなんて皮肉だな。
 つまらない時間もお前が居たから柔かな心地よい刺激に満ちていたのだと知っていた。あるいはあの日負けていれば俺はお前に会う言い訳ができたのかもしれない。お前が居たなら、なんて所詮夢想だ。
 冷たくなっていく体はもうおまえを呼ぶ声すら失くした。
(さよならを言うのは可笑しいさ/落日)

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