突然ひとりきりにされるのがこうも寂しいものだと知らされたのは、これで二度目だった。
 子どもの巣立って行った家の広いこと。ちゃんと遊びに来てあげますから。いや、あげるのはヤなんすけど…えーと。そう言って少し悩んだ子に、土井は慣れたもの、「遊びに来させてやる」と苦笑した。そうそれっス!と子は手を打った。身体はずいぶんと大きくなった少年も中身はさほど変わらないらしい。土井は呆れたように息を吐いて、最後に少年の広くなった背中を達者でと見送った。
 途端に、なんだか急に部屋の中がつめたくなってしまったような気がする。胸が空虚で、やるせない。これはなんだったかと首を傾げて暫く、土井はようやく思い至った。そうかこれが、そうだった。
「さみしい」
 零れるようにぽつりと呟く。ぽつんとひとりきり。早春はまだ寒かった。いかんなあと淋しい鼻を一人すする。
 一度目のさみしさを、一体自分はどうやってやり過ごしたのだろうか。今の土井には見当も付かなかった。三十を過ぎたというのに恥ずかしい話だ。


 浸るのにも少々疲れた。洗濯でもするかと無精にしていた汚れた着物を手に取った土井は動きを止める。戸口に影が差したのだ。つい先に発った教え子が忘れ物でもしたのだろうか。首を曲げて戸口の方を向き、土井は今度こそ止まった。ばさりと洗濯物が手から零れ落ちていく。動きだけではない、彼はそれこそ思考まで止まったのだ。
「よう」
 戸口の人影が笑った。何年振りになるのだろう、その声を聞くのは。少年がまだ腰ほどの背丈だったのだから、五年は経ったか。呆れた奴だ。
「どうしたんだ?」
 暗にまた寄り道なのかと尋ねていた。男はううんと首をひねった。
「どうしたってわけじゃねえんだけどよ、あれだ」
「はあ?」
 男は今度はぼりぼりと頭を掻いた。この男がきまり悪くすることは珍しかった。なんだよ、と土井は先に落とした着物を拾う。そうして、拾い上げたそれは、再び彼の手から滑り落ちた。
「ただいま」
 改めて言うと意外とやりづれえもんだな。そう言って男は歯を見せた。


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