石川が年上



「派手にやられたな」
 しゃがみ込んで土井の顔を覗き込むと、石川はにやにやと笑った。地べたに転がったまま、土井も口の端を曲げた。
「でも、やることはやっただろ」
「そら、十分過ぎるくらいだわな」
 派手にやったな、つった方がいいかもな。石川は土井から視線を上げた。彼の黒い瞳が赤々と燃える。城が一つ、落ちた。これでこの辺り一帯の情勢も変わるだろう。引いては、それが天下の情勢だってひっくり返すのかもしれない。土井はこれをほぼ一人でやってのけたのだ。こんな言葉は好かないが、やはり土井は天才なのだと石川は思う。動く力も無いらしい土井は気の抜けるような声で石川を呼んだ。
「いしかわぁ、」
「あん?どうした」
「腹減った」
「……お前、その前にいろいろあんじゃねえの」
「もー腹減りすぎてよくわからん。早く、メシ」
 へいへいと石川はすんなり土井の体を背負った。地べたに転がって動かないものだから手傷でも負ったかと初めは勘ぐったが、どうやら大きな外傷は無いようだ。任務を終えて気が抜けたのかもしれない。ぐったりと石川に体を預けた土井は、今にも寝息を立て始めかねないように見えた。
「…悪いな、石川」
「良いってことよ。どうせ俺の仕事も土井の補佐っつうか回収だろ、端っから」
「そうかな……だってお前、優秀なのに」
「やめろって。耳が痒くなるわ」
「あ、この位置痒かった?」
「そういう意味じゃねーよ」
 背中で身じろぎして口元の位置を変えようとする土井に、石川は呆れながら笑った。馬鹿だな、土井は。言うと土井はいつもと同じく頬を膨らしてむくれた。
「……お前よりは頭良い」
「おいおい優秀だって褒めたじゃねーか、さっき」
「腕と頭じゃ話が違う」
 この糞生意気をよっぽど振り落としてやろうかと石川は考えたが、耳にかかる息を聞き、すぐに唇を緩めてしまった。全く、憎まれ口と腕は確かに達者であるが。
「まだまだガキみてえな寝顔じゃねえの」
 首を曲げてこっくりと落ちた土井の寝顔を見て石川は歩む足の速さを緩めた。目立つ外傷も無いのだ。こうして自分の背中でゆっくり寝かせてやるのも悪くない。






ひとは奴を鬼子と呼んだが、なんてことないガキだった
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