えのきむくむく

■ 譲歩 2013/06/13
べーさく


 ダメです。無理です。ありえないです。それしかその口は利けなくなったのかというほどに、佐隈は繰り返し続けた。さながら舌戦における鉄壁の防御だ。
 しかし、対する攻撃側も手ーー否、口を休めない。
「だから、月一回で我慢してやるって言ってんじゃないですか!」
「駄目です。頻度の問題じゃありませんし」
「じゃあ・・・・・・年一でも良い」
「いや、無理ですって」
 このビチグソ女、私がどれだけお前のような下等な人間にわざわざ合わせてやってるのか、少しも理解してねえ。なんなんだ、私がどれだけの年月、狂おしいほどにあの黄金を好んできたか。これまでの私の人生とも言えたものを、我慢してやると言っているのに。いったいどれだけこの女のために譲歩してやればいいというのか。
「だから、完全に駄目ですってば」

黄・金!黄・金!黄・金!

■ 半端者どうし 2013/06/13
アザゼルとさくま

「さく、お前ほんま中途半端よなぁ」
「はあ?なんですかいきなり。喧嘩売ってんですか」
「ちょっ、あの、グリモア出すの早ない?ちゃうかって!怒らんといて!」
「・・・なんなんですか」
「えっとぉ、ほらな、さくって、がめついやん?あっやめてぇー!グリモア振り上げんでもええやん!あのでも、大家のババアからの大金は受け取れんかったり、そうゆうとこ半端やんなぁて」
「はあ・・・私も悪魔じゃないんで、それが普通じゃないですか」
「そっかなぁ〜悪魔使いとしては、なかなか居らん気もするけどな」
「だったらアザゼルさんなんか、悪魔のくせに血見てフラフラしてるじゃないですか。それこそどうなんですか?」
「うっ痛いとこ突くんが上手くなりよって・・・」
「ほーら。みんなそんなもんなんですよ。何かになりきるなんて、そう無いことです。ならなきゃいけないってことも」
「なんや、アホさくのくせにいっちょ前の台詞コキよるのぉ」
「アザゼルさん、グリモアが良いですか?呪文のがいいですか?」
「めっちゃええこと言うわ〜!さすがさくちゃんやわ!ほんまおいちゃん適わんわぁ〜!」
「いまさら褒めてもやめませんけど」
「死ねや極悪人!」


似たものどうし



■ ふごふご 2013/06/13
変人48面相とサルガタナス


 ご主人様ほどにオレの使い手となるに相応しい人間は、この世に二人と居ないだろう。サルガタナスは、彼についてそのように思っていた。


 うん今日も夜風が気持ちいい、と耳に心地よい声が風に運ばれるのを聞きながら、サルガタナスは喋るべき言葉も見つからないままにその男をちらと見上げた。男は悪魔の視線に気がつくと、小さく変えられた姿に合わせてしゃがみこんだ。まるで小さな子供を慈しんで視線を合わせてやるかのように。
「どうしたの、サルガタナス」
 相変わらずよく通るその声に対し、ふご、とサルガタナスは口にくわえた異物を鳴らして答える。
「何でもないですぴょん」
「ん〜職能が隠匿だからって、私にまで隠し事かい?」
 主人の口調は飽くまでも柔らかであったが、サルガタナスはすぐに自分の浅はかな行いを後悔した。続く決まり文句は大抵「悪い子にはお仕置き」であるのだ。
「ご、ごめんなさいですぴょん」
「あははっ嘘が下手だねえ、サルガタナスは。隠匿の悪魔なのに」
 愉しげな主人に、悪魔はほっと胸を撫で下ろす。悪魔使いにも、色々な者が居る。悪魔を道具として見る者も居れば、まるで悪魔を友かのように接する者も居る。彼は、どちらかと言えば後者に近しいように思えた。
 そもそも、彼の性質が暴力を好むようには思えないとサルガタナスは感じている。その分、変態行為に及ぶまでの躊躇はほんの少したりとも無いようであるが。
「ウソはやめなさい。せめて私にはね」
「……ご主人様」
 悪魔の頭にふわりと優しく置かれた手の感触は、彼の以前の姿そのものを想起させた。もしも過去に何事もなく、敬虔な神の僕であった頃のままの彼であったならば、ついぞサルガタナスと契約を交わすようなこともなかったことだろう。そういう意味で、彼の身を落とした絶望は自分にとって益のあることだった。そんなふうに思うのは、やはりサルガタナスが悪魔である所以だろうか。

「あっ、なんか今ちょっとアレだね!私キマっちゃってたかな?全裸なのにね!」
 今度もやはり主人にかけるべき言葉を見つけられず、ただサルガタナスは、ふご、と異物を鳴らして応えた。いずれにしろ、彼のような本性の人間は堕ちるべくして堕ちたのかもしれない。

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