小説 | ナノ





「映画館行きたい」
ルークがぼそっと溢すと、アーロンがおえっと呻いた。
ルークは独り言が多い。それは考え事だったりとりとめのない何かだったりして、時折大変小さな願望だったりする。
アーロンはそれが自分に向けられたものではないと分かってはいるし、そもそも彼が自分をわざわざ映画館に連れて行くこともないことも知っている。ちゃんとアーロンがああいったところを苦手としていると理解しているからだ……短くて長い付き合いなので。
しかしルークは映画館行きたいなぁと言ったのだ。それはアーロンの耳によく届いた。
「何見んだよ」
「イワGOとにゃんこ大船団」
「何……?」
「知らないのかい!? 最近流行りなのに!」
猫が飛行機になってどうこう、人間の業がうんたら、語り出した内容については特に聞く必要はない、興味ないし、長いし。
「で、いつやってんだそれ」
「今だよ! 大人気だから一時間に2回は上映してるし……え」
「あ?」
「行ってくれるの? 僕と? 一緒に?」
「どう思う?」
「冗談じゃねェに百ペリカ」
「あァ!?」
だって君、僕と一緒に映画行ってくれるの!? 悲鳴のようななんのような。そうとなったら! とタブレットを操作し始めたので、しばらくしたらアーロンの都合を聞くことすら忘れていたことに気がつくだろう。
ルークは一人でも映画館に行ったかもしれないし、素直に諦めてソフトやストリーミングを待ったかもしれない。だが、彼は誰かと何かを共有することに大変飢えているということを……相棒はよく知っているのだ。
それは自分も同じなのだということも、ちゃんと分かっていた。
映画館の中で暴れるなよ等と警察官のようなことを言い出した彼を尻目に、アーロンは上映中どう暇を潰すかや、どんな肉を食うか、煽ってきやがるだろう奴らをどうバーベキューにしてやるか……そして、自分が行くと言わなければ、お優しい兄分共(妹分かも)が行ってやっただろうに……等と、とりとめもなく考えていた。そのうちに眠くなって寝た。
余談だがにゃんこ大船団はエリントンニャカデミー賞をとり、その後ミカグラで舞台化した。主役に抜擢されたモクマの見事なトランスフォームがミカエル・イベの目にとまりとかそういう話はますますの余談なので打ち止め。


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