小説 | ナノ





 
 私は床に転がっているスタースクリームを見た。翼をもがれた彼は、私をどんな思いで見つめているのだろう。これで雪山に取り残された私の気持ちが分かっただろうか? 
 スタースクリームの視線が私の装甲に穴を開ける。止めてくれ、君と同じように私も変わった。
「スカイ……ファイア」
「私を呼ばないでくれないか」
「どうして……」
「やめてくれ」
 もがく彼の足を踏みつける。聞きづらい金切り声は、もはや何かの暗号である。助けを求めるのも私を恨むのもやめて、ただ疑問に満ちているであろうその頭から、悪夢を取り払ってやろうとしているだけなのに。
 そうだ、これは君のためなんだスタースクリーム。私は別に君を辱しめようと思っているわけではないのさ。抵抗したからこんなことになるんだ。学習したなら今も逃れようとするその足を止めないか。
 彼の足がめきりと曲がる。私を拒絶する悲鳴。
「何でだよ……」
「言っただろう。君の悪夢を取り除くんだ。苦しい思いをしてきたのだろうけど、今日までだよ。私が治してあげる。だから早く君の頭を渡したまえ」
「殺す気なんだな……」
「違うと言っているだろ? 分からず屋は嫌いさ。でも君は特別に許してあげるよ。君は私の、相棒、なんだからね」
 彼の足がばきりと折れる。私を恐れる泣き声。そんなもの必要なかったはずなのに。
 どうして君は私を信頼しないのだろう。私たちは昔から親友だったろう? そして惑星探査で名実ともに相棒になれた。それ以上を望みたいけれど、君がごねるから待ってやったのに、君は全く私の思いを理解しようとしない。これでは私だって手荒になってしまう。君を傷つけたくないのに。
「君から自主的に渡してもらわないと意味がないんだ。私を信用して。悪いようにはしないからね。君を“よく”してあげるだけだ」
「洗脳でもするのか」
「そんなことを考えるのはデストロンだけだよ」
「……今のお前は、それでもやっていけるぜ」
 じゃあ、君の愛はどこに向かっているのか。以前は確実に私に向かっていた。今は? 私を見失って、戦争と言う汚れのなかで、瞳を赤く染められて。
 君は世界をどう見つめる。私はどう見えているんだ。何を見ているんだ。何を思っているんだ。私は何にも知らない。
「ねぇ、どうして君はそんなに変わってしまったんだい。何がそうさせたんだい」
 昔はその全てが私だったのに、今彼のとなりにいるものは、私が知る誰かですらない。
「私を置いていって……?」
 年月とはこれほど残酷なものか。
 君の欠けた手のひらが私の震える拳にのばされる。撫でるようなそれはとても優しいのに、君の瞳は恨むように赤い。それ以外は全てあの頃と同じに見えた。まるで悪夢だ。私の記憶を借りて衣を作った別人のようだ。そうだったらどれ程良かったか。
 それで君が死んでいるのなら完璧だったのに。
「違うぜ、スカイファイアー。お前が……俺を、置いていった。俺は変わっちゃいない。変われない。俺は未だにあの吹雪の中、お前を探してる」
「君は見つけただろう。私を。偶然に」
「違うぜ。ずっと、ずっとだぜ。俺は凍えながら、空を旋回している……。変わったのはお前だ。お前だよ。お前は何があったって……俺を、傷つけたりしなかった」
「それは君が、あの頃の君だったら、そうさ」
「俺はずっと俺のままだ。スカイファイアー。お前を探してる。お前を探すことが、俺を象る……後悔が俺を存在させる……」
 目の前にいるものは紛れもなくスタースクリーム、君だ。君が昔からそうだったというなら、私は君を全く知らなかったのだろう。私が一人で思い上がっていただけ。そんなの、嘘だ。寂しすぎる。
 もしかしたら君は本物のスタースクリームじゃないのかもしれない。君は、君がいうように、未だに私を探しているのかもしれない。私は既にここにいるのに。
 どちらも狂ってしまっているのか。ここにいる君は幻覚なのか。君を望んだ私が見ている夢なのか。私はずっと凍ったままなのか。いやそんなはずがない。そんなことを言い出したら、私は現実とは何かを証明しなくてはならない。考えてはいけない。
 けれどもし君が君ではないのなら。これがただの悪夢なら。

 ……ああ、それはなんて、どうしようもない、願望。
「スタースクリーム」
「……やめてくれ……」
 愛を叫ぶ時間さえ惜しい。今すぐ君を抱き締めよう。
 恐れを忘れてしまえるように、君の頭に穴を開けて。



あとがき

丸々一年ぐらい小話を書いていませんでした。昔書きかけてた奴をサルベージ。
頭がおかしい奴等しかいないね。
タイトルはニーアから。


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