※注意※
・黄瀬の家が母子家庭設定になってる
・黄瀬、一人暮らし・・・だと、思う。多分
・ナチュラルに火神が黄瀬の家の合い鍵持ってることになってます
黄瀬は、クリスマスが嫌いだった。
母子家庭だった黄瀬は、その日だけはどうしても孤独から逃げることはできなかったから。
サンタクロースがいないことくらい知っていたし、温かい家族と温かい夕食、なんて、黄瀬にとって夢のまた夢であると小さな頃から割り切っていた。
割り切ってしまえる、子供だったのだ。
***
『あしたしごとはいった』
12月23日、もう少しで日をまたぐという時間。
深夜に届いた一通のメールを見て、火神の眉間には、盛大に皺が寄った。
平仮名打ちの10文字。改行、句読点。なにもない素っ気なすぎるほどのメール本文。
あまりに急いでいたから?
違う。
構って欲しいときの、気に留めて欲しいときの、端的に言ってしまえば、拗ねているときの黄瀬の特徴だ。
携帯電話の電話帳。カ行から名前をひく。
見慣れた画面が発信を告げて、数秒おいて、コール音が切れる。
「黄瀬?」
電話口からは、あまりに低い、不機嫌な声。
「・・・なんスか。」
「メール。説明しろって。」
チッ。
あからさまな舌打ちと、聞こえる音量の溜め息。つられて火神も溜め息、である。
黄瀬はとにかく感情の起伏が大きいから、いつなにが、神経に障るのか解らないのが悩みどころだ。
もっとも、そこまで感情を露わにするのも、ごく一部の人間にだけなのだが。
「説明・・・って、読んでわかんないんスか?」
「わかるけどよ。」
「じゃあなんで。」
「いいだろうが別に。」
師走、と世間で呼ばれる月だ。教師ではないけれど、この時期の黄瀬はかなり忙しい。
それこそ、バスケ、仕事、バスケ、とこの二つだけであっという間に一月が経ってしまうくらいに。
ただでさえ他校の人間である火神と、会っている暇なんてどこにも見つからないくらいに。
けれどそれでも無理を言って、24日だけは休みを入れてもらった、と。
嬉しそうに語ったのは1か月前。
そうだ、火神より誰より、黄瀬が一番、この日を楽しみにしていたのではないか。
「・・・夜。」
「は?」
「・・・夜、結構遅くまで、撮影、するらしくって。むりだって言ったけど、かえらんないって言われた、から。」
だから、どうしてもむりなんス。
ぽつぽつ。
きれぎれに話す黄瀬はきっと、電話の向こうで、泣きそうな顔をしているだろう。
「なぁ。」
「・・・?」
「いーよ、クリスマスだし、パーッとやろうぜ。別にオマエ帰ってきてからでも、遅くねーよ。」
電話の向こうは、少し黙って、そして。
「・・・ッしょ、しょーがないから、早く仕事終わらして、帰ってきてやる、っス。待ってろ、ばかがみ。」
嬉しさの滲んだ声でそう帰ってくる。さしずめ犬、と言ったところか。
ぱたぱたぱたぱた。
上機嫌でしっぽを振る姿を想像して。
「ぶっ!」
思わず吹き出す。
「・・・かがみ。」
「わ、ワリー。まぁとにかく、飯作っててやるから、さっさと帰ってこい。」
「・・・うん。」
艶やかな声で、こんな時だけ素直に、黄瀬はそう返事を返して、ぷつり。電話は切れた。
そんな姿にも頬が緩む、なんて。
想像以上に火神は、黄瀬にやられているらしかった。
そんな可愛い可愛い恋人を労るために、さて、と明日のメニューを頭に巡らせる。
そこまで考えて。
「新妻か。」
一人ツッコミが部屋に響く。
いや違う。
思い直して、もういちど。
「専業主夫か。」
どうやら火神には、女役のポジションに甘んじる気など、さらさらなかったようであった。
***
ちらりちらり。
その日、黄瀬は普段の倍近い回数、時計を気にしていた。
早く早く早く。
ふたりきりで会いたいと思っているのは、言葉にしないけれど黄瀬だって同じなわけで。
いやむしろ、黄瀬の方が罪悪感も多少はある分その思いは大きいのかもしれなかった。
けれどこんな日に限って、そう、都合の悪いことは続くもので。
「ごめんねー黄瀬くん。長引いちゃって。今日はアップよ、お疲れ様!!」
マネージャーにそう言われたとき、思わずこの日何度目かわからない、時計を見上げる動作を行った。
目に映ったのは。
「10時、20分・・・。」
黄瀬が今いるスタジオから、どんなに急いだって、自宅まで1時間はかかる。長針と短針の見間違いだと言ってくれ、と。
そんな願いも虚しく、時計はただコチコチと針を進めるだけ。
舌打ち。危うくでそうになった。
引っ込めて、代わりにぎこちない笑顔を貼り付ける。
「じゃ、おつかれさまっス!!」
「おつかれさま、良いクリスマスを。」
マネージャーは笑ってそう言うけれど、(何せ黄瀬にとって笑えない冗談だと言うことに気付いていない)今度こそ黄瀬の口からは舌打ちが漏れた。
ただし、ちゃんと聞こえないように。
床を蹴って、スタジオを飛び出した。ただただ、会いたい。
その一心だった。
***
その日は、雪さえ降り出しそうな気温だったのだ。最寄り駅。到着して一瞬、黄瀬は身を震わせた。
そこから、自宅まで、距離にしておよそ800メートル。
頬と鼻を真っ赤に染めて、黄瀬はただひたすらに駆け抜けた。
時計はもう11時30分をとっくに回った。
当たり前だが人一人いない住宅街は、なんだかとても寂しすぎて。
それでも走って、家の前まできて、足を止めて。
黄瀬は、ようやく気付いた。
(もう、帰ってて当然じゃないスか。)
夜中、だ。
いくら遅くなると言ったって、ここまでなんて誰も思わない。
大体黄瀬だって、もっと早く終わると聞かされていたのだ。それが機材トラブルやなんかが重なって。
それで、気付けば12時前。
とっくに帰っていて、いや、もしも火神がまだ黄瀬の家にいてくれたとして、寝ていて、当然の時間だ。
練習で疲れているのなら、なおさら。
「・・・そ、スよね。」
舞い上がっていた自分を、さっきまで必死で走っていた自分を、馬鹿だとさえ思った。
同時に、辛い。そんな感情が駆け抜ける。
けれど、そうだ。
なにも変わりないじゃないか。これは、去年までの黄瀬。今年も、同じ。
365日の中の他と何ら違いのない、ただの一日に過ぎない。
ひとりぼっちのクリスマスには、寂しさなんて感じないくらい慣れている、そう、そのはずだから。
ギィ・・・。
いつもより重く感じた玄関のドア。
そろそろと開いた扉のスキマからは、なぜか、煌々と明かりが漏れて。
「・・・ぇ・・・ッ・・・?」
「おー、お帰り。」
火神が、そこに座っていた。
黄瀬を見て、笑って。出迎えて、くれて。
「かえって、なかったんスか・・・?」
「待ってるっつったろ。」
「じゃあ、寝て・・・」
「ンなことしたらオマエ泣くだろうが。」
その視線は、まっすぐに、黄瀬だけを見据えて。その瞳が痛くて、そして、心地よかった。
火神だ。
そればかり頭を支配して、いっぱいだ。
「ばか。」
「は!?・・・おい。黄瀬。」
ぎゅう、と抱きついて。火神の匂いが支配する。あったかい、やさしいぬくもり。
久しぶりに、包まれた。涙さえ、出そうだった。
「ばか。単細胞。割れまゆげ。・・・しあわせ、だよ。ばかがみ。」
思いつく限りの罵倒と共に呟いた、あたたかな思い。
しあわせで、しあわせで、しあわせで。どうにかなってしまいそうだった。
経験したことのない温かさ。いつのまにか背中に回っていた手が、熱くて。心地よくて。
熱に浮かされて、このまま。どうにかなってしまいたい。
「黄瀬。」
変わらない目線で笑う。いつもの、笑顔。
「オマエ、明日もはえーんだろ。」
こくり。
うなずき返せば、じゃあ、ともういちど笑う。
「はやく喰っちまおーぜ。・・・それから、な。」
二人の体は離れた。
加熱しにむかう火神の背中を目で追いかけながら、黄瀬は笑う。結局なんだかんだ言って、火神のペースだ、と。
このあと黄瀬は、プレゼントよろしく頂かれるであろう己を想像した。想像して、脱力。いいかとさえ思える。
これだけのことをしてもらった。これだけの愛を教えてくれた。
そんなのもう、どれほど献上したって足りないくらいだ。
「・・・ありがと。」
おそらく誰にも拾われることのないであろう礼を零して、時計を見上げる。
あと十数分でイヴが終わる。朝になったら黄瀬は、また仕事に行かなければならない。
だけど、それでもよかった。
少しだけ好きになれたクリスマス・イヴ。その原因は。
枕元、ではないけれど。サンタの足首を捕まえてせがんだのに、それでも優しく、丁寧に渡してくれたプレゼント。
それは”しあわせ”であり、初めての”特別な24日”。
そしてもう一つ。
渡してくれたのが他でもない、ぶっきらぼうで、でもいつだってやさしくてまっすぐな、黄瀬だけのサンタクロースだったからに違いなかった。
あとがき
黒バス:火黄
では、まずはじめに、末広さん、リクエストありがとうございました!!
せっかくクリスマスネタ頂いたので、25日中にはなんとか・・・!と思っていたのですがダメでした
申し訳ないです・・・!
火黄の黄瀬はそこはかとなく「〜っス」がとれるので楽しいです
甘・・・くなってましたでしょうか?
ととと取り敢えず私の持ちうる甘さだけはなんとか詰め込んだ・・・つもりです
受け取っていただけたら幸いです
返品、書き直しの要求等ございましたら、末広さんのみ受け付けます
あ、お持ち帰りも末広さんのみでお願いいたしますー
夜中のテンションでいろいろおかしいですが、愛だけはたっぷりと入っております
末広さんありがとうございました大好きですーの気持ちを込めて!
らぶちゅっちゅvv
H23.12.26 夕月
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