触れられないから見続けるだけ | ナノ

越しの水面
緑→黄。緑高、笠黄前提。疵付いて、漸く分かった。



「あ、こっち!!こっちっスよ緑間っちーッッ!!!!!」


街中の喧噪。そのなかでも一際大きく上がった声。
目的地としていたカフェから聞こえたその声に、緑間は黙って耳をふさいだ。


「黙るのだよ黄瀬。」
「えーッ。なんでっスか。折角緑間っちが誘ってくれたのに、テンション上がんないわけないじゃないスかー。」


ぶーと口を尖らせた。そして直後に、笑う。
本当に、楽しそうな声で、緑間の気持ちなんか知らないで。楽しげに、笑う。


「・・・オマエは、俺がなんで呼び出したか解っているのか。」
「とーぜんっス。てか、緑間っちが俺にメールよこしたんじゃないスか。全部書いたのアンタっしょ。」
「理解していなければ意味がないのだよ。」


はぁ。
ひとつこぼれるのは溜め息。心の声は、聞こえたのか否か。


「・・・で?」


す、と表情を引き締めて黄瀬が問うた。まなざしは、真剣そのもの。


「・・・なんでまた、高尾っちとケンカなんか。」


緑間を射貫いたのは、真っ直ぐな視線だった。
その目はあまりにも汚れがなさ過ぎて、真っ直ぐに、緑間だけを捕らえていて、思わず、目を逸らした。
耐えきれなかった。溢れ出しそうだった。


「・・・理由は書いただろう。些細な口喧嘩、なのだよ。」
「・・・ッそ。」


尖ったまなざしが一転、悲しげなものに変わる。
けれど、それは意志を持った瞬き一つですぐに消えて、残ったのは、困った様な笑み。


「・・・ほーんと、緑間っちはガンコっスね。」
「どういうことだ。」
「せっかく俺が、自分のノロケ話一つもせずに聴いてあげてるんだから、隠さずにぜんぶ言っちゃえばいいのに。」
「・・・本当だな。明日は大雨なのだよ。」
「どー言うことっスか!!」


途端に噛み付いてくるかつてのチームメイト。くるくるとせわしなく変わる表情は、昔のまま。
緑間は、口角が緩みかけた自分に気付いた。
そうして思いだすのは、口げんかの発端。
高尾・・・つまり、今の恋人が、似合わない悲しげな目をして、緑間に言い放った言葉。




『真ちゃんはいっつも、俺じゃない。俺を通り越して、違う誰かを見てるよね。』




図星だった。解っていた。解っていて、知らない振りをしていた。
よくよく考えれば解ったはずなのに。
スキルを差し引いても常人より聡い高尾がいつか気付かないはずないと、解ったはずなのに。


「・・・オマエが羨ましいのだよ。」
「へ?」


笑うのを止めて、じぃと緑間を見遣る。疑うことを知らない、真っ直ぐな瞳。


「幸せそうで、オマエが羨ましいのだよ。」


こともなげにそう呟けば、今度こそ明らかに、表情が崩れた。
今にも泣き出しそうな顔。


「・・・それ、昔俺を手ひどく振った人間が言う言葉じゃないっスよ?」


そう、中三の最後に、緑間は黄瀬をふっている。
だからこの気持ちに気付いたのは、もっと経ってからだ。
いないと物足りないと思い始めたのは、黄瀬のことを好きだと気付いたのは、いつだっただろうか。
願わくば気付かないままでいたいと思っていたのに。
今になって、緑間は黄瀬の気持ちが痛いほどわかっていた。
あの時の黄瀬は、今の自分とおなじだ。言葉ではっきり拒絶されたぶん、もっと。


「あの時は」
「うん。解ってる。だって俺、言うつもりなかったんスもん。ヒかれるって解ってたから。だから、想定内、っス。」


瞳は相変わらずに悲しげな色を秘めたまま。
それでも笑顔を作って、黄瀬は言う。


「それにさ、アンタが手ひどく振ってくれたおかげで、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、未練も、消えたんス。」
「・・・そうか。」


今の緑間にはそう返すことしかできない。文句も罵倒も、甘んじて受け止めるつもりだった。


「それに、俺は今幸せだから。あの人に出会えたからやっぱり、アンタに振られてよかったんスよ。」
「黄瀬
「強がり!・・・言わせて、ほしっス。じゃなきゃミジメじゃん、俺。」


儚く笑った。けれど笑顔は、どこか幸せで溢れたままで。


「きっと、あの時のアンタへの気持ちと同じくらい、俺、あの人がだいすきなんス。」
「・・・オマエは今、・・・幸せ、なのか?」
「・・・もちろん。」


愚問だった。
一度見たことのある、黄瀬の思い人。あれはおそらく海常のキャプテンだろう。
緑間は知っている。黄瀬は今、緑間の時のような、叶わない恋をしていないことを。
幸せでないはずがないのだ。


「センパイは、うん、俺の事思ってくれてるから、だから、すっげぇ、幸せっス。」


そう言って見せた笑顔は、真実を物語っていた。届かないと改めて認めざるをえない笑顔だった。
もう緑間がいる場所からでは、この笑顔に手は伸ばせない。伸ばしても、絶対に届くことはない。
解っているから、手を伸ばしたくなる。あの時、あの瞬間に戻りたいと切に願う。


「だからアンタも、さっさと高尾っちと仲直りすればいいんス。高尾っちだって解ってるはずっスよ?緑間っちのツンデレ。」
「五月蠅い黙れ。」
「ちょ、アンタここでそれはないんじゃないっスか!?」


解っている。高尾が言ったことだって全部。
高尾を通してこの元チームメイトを見ていることくらい。それで、高尾をギリギリまで傷つけていることくらい。
どちらに対しても、償いきれることではない。
解っているから堪えなきゃいけない。高尾を愛さなくてはいけない。
それでも、もう、ぎりぎりだった。気持ちを堰き止めるダムが決壊しそうだった。


「ね、だから仲直りしたら、ダブルデートとかしないスか?久々に、高尾っちにもあいたいし。」


楽しそうに、笑う。
緑間だって、諦めることを受け入れられないくらい子供ではない。
だから何かが崩れる前に、願う、思う。切に。



「・・・黄瀬。」







(・・・頼むからもう、そんな顔で俺に笑いかけるな。)








あとがき

黒バス:緑→黄
完全片思いのちょっとどろっとした奴が突発的に書きたくなって、やらかした
高尾があまりにも救われない緑高・・・ごめん高尾
緑間にこの役どころを振るの、実は迷いました・・・一瞬
まあ、楽しかったので結果オーライ
(2011.10.15)



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