「みふまふろふ?」

「……喋るのは別に良いけど、せめて飲み込んでからにしろよ」

 昼休み。航宙科のカタパルトでコンビニのパンを頬張る同輩にミハエルは溜息をつく。咀嚼していたパンをお茶で流し込むように飲み込んで、セシルはミハエルに改めて目を向けた。

「…ミス・マクロスが何だって?」

「今週末、一般公開で最終選考やるだろ。それを皆で見に行かないかって話になってるんだよ」

「去年までは暇つぶしに中継見る程度だった気がするんだけど。何でまた今年になって」

「ランカちゃんが出るんだよ、ミス・マクロスに。最終選考まで残ったらしい」

「ランカ?」

 誰だそれ、とセシルは眉を寄せる。相変わらず人の名前はさっぱり記憶に残らない。名前がわからないから、その人物の顔も覚えていない。
 ミハエルがまた溜息をつきたそうな表情でこちらを見ているが、記憶に無いものは無いのだ。どうしようもない。

「ほんっとに忘れるの早いよな、お前」

「今更だろ。それで? 『ランカ』って誰だ」

「隊長の妹だよ。この間船団がバジュラに襲われた時、お前も一緒にいただろうが」

「オズマ・リーに妹なんていたのか。一回目と二回目どっちだ?」

「どっちも」

「どっちも……?」

 怪訝な顔をしたセシルに、これは思い出さないな、とミハエルは思った。理由は無い。直感だ。もともと期待してはいなかったのだが。

「まあ良いさ。それでだ。一応念のために聞いとくけど、セシルは最終選考見に行、」

「絶対行かない」

 ミハエルの台詞を食い気味に言って、セシルは鼻を鳴らす。

「この間のアルバイトに付き合ってやっただろ。それにVF-25の修理がもうすぐ終わりそうなんだ。くだらないイベントに割く時間なんか無い」

「そりゃ残念。にしても、忙しいねえ整備班は」

「これで丁度良いくらいだよ。機体そのものは明日にでも上がるし。……ところでミハエル・ブラン」

「うん?」

「少しは参考になるかと思ってシュミレーターの結果見たけど、何なんだよあの有様は」

 撃墜数二十超えとか初めて見たぞ、と唸るセシルにミハエルは悪びれもせずに笑う。

「心配しなさんな。ありゃちょっと難易度設定が高いだけだ。腕は良いぜ、あのお姫様」

「だといいけどな」

 新入りだからか、それともまだ実際にバルキリーの操縦技術を見たことが無いためか、セシルのアルトに対する信用度はいまいち高くないらしい。別にこれはアルトに限った話ではなく、ミハエルやルカがS.M.Sに入隊した当初もこんな感じだった。

(……ま、頑張れよ、アルト)

 かつての自分やルカの苦労を思い出し、ミハエルは心中でそっと呟いた。
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