凍り付いた空気を動かしたのはランカの悲鳴だった。
 バジュラが鋭い爪のついた手を振り上げ、展望台のドームを叩き割ろうとする。

「やらせん!!」

 オズマのバルキリーがバジュラに衝突し、ドームからバジュラを引き離す。

『デルタ1! 艦の至近でバジュラを押さえた! 援護射撃を要請する!!』

『カナリアだ。いつでも出られる。発進許可を』

 S.M.Sの母艦、マクロス・クウォーターにオズマが入電した直後、未だ艦内で待機しているカナリアからも通信が入る。

「モニカくん」

「混乱しているみたいで、大統領府からの発進許可が出ません」

 ワイルダー艦長の確認に、モニカが答える。

「くそ! 無能な政治家共め……っ!!」

 暴れるバジュラを押さえつけながらオズマが悪態をついたとき、二機のバルキリーが飛来した。

『『隊長!』』

「ミシェル、ルカ! こっちの押さえにも限界がある。お前達でやれるか!?」

『はい!!』

 ガウォークに変形したルカのバルキリーがバジュラへと照準を合わせる。しかし、破損した船団の破片やオズマの機体が邪魔になってエラーが起きた。

『……って無茶ですよ! こんな……、』

『やります』

『えぇ!?』

 ミハエルの声にるかはぎょっとして目を見開く。
 ファイターからバトロイド形態へと変形したミハエルのバルキリーは船団の壁面へワイヤーを飛ばして機体を固定すると、銃を構える。
 バジュラへ照準を合わせている途中、その背後の展望公園内からバジュラを見上げているアルトに気づいた。

「! あいつ…!」

 だが今はそれどころではない。
 バジュラへと意識を戻し、その頭部をロックオンした瞬間に引き金を引く。
 発射された弾丸は見事にバジュラの頭部を撃ち抜いた。

『……よくやった、ミシェル』

『当然のことをしたまでです、隊長』

『ふん、後で一杯奢ってやるぜ』

 全員の緊張の糸がふっと緩む。

「終わった…のか……?」

「…? いや、でもアレ……」

 アルトの呟きに首を傾げたセシルが口を開いた時、活動を停止したかに見えたバジュラの体が突然動き出した。
 アーマードを弾き飛ばして銃弾を浴びせたバジュラは身を捻り、アルト達のいる展望公園に自らの尾を叩き付ける。

「な…!?」

「あー、やっぱり生きてたか。だよなー」

「呑気なこと言ってる場合!? ちょっと止めてよ、冗談じゃ……!」

 亀裂が入ったドームの中心から内部の空気が抜けて行く。今は小さなものでも数秒としないうちに穴は広がる。そうなればあっという間に外へと放り出されてしまうだろう。外は真空だ。無事では済まない。

「二人とも、こっちだ!」

 周囲を見回して待避シェルターを見つけたアルトはランカを抱きかかえて叫ぶ。
 その瞬間にドームが砕けて穴が開いた。一気に抜けはじめた空気に煽られながらアルトがシェルターの中に飛び降りる。

「えぇ…ちょっと……」

「さっさと行けっての」

 風に煽られるスカートを押さえながら、躊躇うようにシェルターを覗き込むシェリルの背中を、焦れたセシルが乱暴に突き飛ばした。

「きゃぁあああ!?」

「うるさい」

 悲鳴を上げるシェリルに顔を顰めて一言返し、セシルもまたシェルター内に飛び込んでいった。
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