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「来たか…どれだけ待たせるつもりだ。」
眉間に皺を寄せて偉そうに座る風間を見て先ほどの天霧さんの言葉を思い出す。
風間の前での俺は隙が多い・・・ね。
まぁ新選組にこんな偉そうなやつは土方さんくらいだがあの人も局長の弟である俺には強く当たることもなかった。
みんな、俺のことを一目置いていたと言えば聞こえはいいがどことなく避けてもいた気がする。
歯を食いしばれば切れた舌がヒリヒリとして口の中に血の味が広がる。
喋れるほどまでは痛みに慣れたがやはり痛いものは痛かった、馬鹿か俺は。
痛みのせいで顔が歪んでいたのか、座っていた風間が俺のすぐ側まで来ていた。
するりと左手で俺の顎を掴み、長い指が頬を押す。
そのせいで閉じていた口が軽く開いてしまう、またあの眼だと、赤身の中にある金色を見つめる、それがいけなかったと後悔してももう遅い。
「舌が痛むのか。お前は馬鹿だな、これでは思うがままに接吻も出来ん。」
「・・・は?」
あの金色が閉じられた瞬間俺の口を塞ぐ彼奴の薄い唇はこの遊女顔負けの白い肌からは想像もできないくらい熱くて怪我してる俺の口内を容赦なく攻め立てる。
頭に血が上り、振るいあげた右手を彼奴の頬に振り落としたくてもろくに飯も食べていない俺の力ではそこらの女子よりも容易に絡め取られてしまう。
彼奴の長い舌は器用にも切れている部分を触れないように動いており、それでもやはり少しやりにくいのか口の端から零れる唾液が酷く気持ち悪い。
でも時折彼奴の舌が上顎に触れるのが気持ち良いとも思う自分がいることに酷く羞恥を覚えた。
視界がぐらぐらと歪み出した時、彼奴の眼が漸く開き金色が俺を見据えた。
ぞくりぞくりと腰に響く感覚は初めてで思わずへたりこんでしまい、まるで自分が女子になってしまったのかと錯覚するほどだ。
「ほぉ・・・疎いだろうとは思っていたがこれ程とはな・・・。」
「っ・・・!なんで、いきなりっ!」
心臓はバクバクと五月蝿い、身体は熱湯風呂に入ったみたいに暑い、口にも、手首にも彼奴にまだ触られている感覚が残っている。
「いきなり、か・・・決まっているだろう」
お前に欲情している
さあ飯を食うがいい、冷める前にな。
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