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「近藤さん、なまえは?」
「……総司…戦はどうなった…」
戦が起きるかもしれないと上からの命令があり新撰組ほぼ総出で仕事を行った。
起きるとは行っていたものの肝心の戦は起きず、無駄足となったから如何せん。
ちょっぴりイライラしている者も何人かいる。
僕?もちろんその一人だよ。
「何もなく、けが人もいませんでしたよ。」
そうかと顔色の悪い顔を無理やり笑顔にした。
近藤さんに対してこういう言葉を使うのはあまりよくないのだとわかってはいるけれどこういう言葉しか今は思いつかいない。
そう、なんとも見苦しい笑顔だった。
「近藤さん、なまえは?」
「……廻谷くんを、探しに飛び出した…。」
「!?」
「駄目だと止めたが、私は…あいつの涙に、めっぽう弱い。」
あの女が屯所から姿を消したことは聞いていた。
そんなこと僕にとっても他のみんなにとってもどうでもよいことだ。
ただ、一人を除いて。
「なまえは廻谷くんのことを好いていると泣きながら私に言ってきたのだ。」
すべてが崩れ落ちた瞬間だった。
気付いてしまった、なまえが。
何に?あの女を好いていることに。
悔しい、羨ましい、妬ましい。
汚い憎悪が暗闇が僕のお腹あたりを蜷局のようにぐるぐるとまわっている。
「近藤さん、僕なまえ一人じゃ心配だから探してくるよ。」
僕は近藤さんの見苦しいと思った笑みよりももっと見苦しい笑顔で言った。
近藤さんは頼むと僕に軽く頭を下げる。
さぁ、行こうか
僕のこの汚い心を浄化しに。
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