26



もしも俺がもっとみんなより背が大きいとして。


もしも俺がもっとみんなよりも頭がよかったとして。


もしも俺がもっとみんなより剣の腕が優れていたとして。


もしも俺がもっと、もっと…みんなを包み込めるような心を持っていたとして。



そうすれば、俺は雑用としてではなく隊士としてみんなと並べただろうか。






わたしは憧れた。

みんなが道場で木刀を振るうのを見てはなんでわたしはしてはいけないのだろうかと何度疑問に思っただろう。


母が道場のことは兄に任せればいいのだと言ったことがきっかけだった。
わたしの体は男の体。
なのに娘が欲しかった母はその吐口としてまだ幼いわたしを使った。

綺麗な着物を身に纏わせ、綺麗な髪飾りをつけて、白粉を篩い、赤い紅を唇にひいて。
母が満足するまでわたしはじっとしていなければいけない。


言葉も振る舞いも女子らしくあること。
だから一人称も“わたし”にして、女子のやるべき仕事を熟す。
いつかはわたしも兄みたいな男らしい体になるのだろうという希望を胸に抱き、それまでの辛抱だと我慢し続けた。




月日が経ち、わたしは十二になった。


そして漸く女子としての生活が終わったのだ。

もう我儘に付き合わなくてもいいのよと、母が少し寂しそうに言った…その時の顔はいつまでも脳裏から離れようとはしないだろう。


これからは自分のやりたいことができるのだと思うと嬉しくてたまらない。まず一人称を俺に変えた。
口調も男らしくした。

いきなり全部を男らしくするのは無理だと思った俺は少しずつ女から男に戻ることにした。

口調にも慣れた、体も男らしくなろうと鍛錬も毎日することにした。


それを繰り返し三年の月日が経ったというのに俺の体格は以前と全く変わらなかった。
素振りを続けた腕は相も変わらず細い、胸も平たい、腹は柔らかい、足も細い。

まるで女のような体。


白い体は染み一つできず、目立つ傷もない。
そんな変わらない体でもなぜか筋肉はついていたのか、誰よりも力持ちになってしまった。


剣の腕もそこそこあるようで、平助や左之さんに何度か勝ったこともある。


けれど見た目が見た目なため、女と間違われるたびにそれは俺の心を抉った。
これが母のせいなのか、将又元からこんな体になる運命だったのか。そんなこと俺が知るわけない。



そんな俺に言った兄の言葉にその時はどれだけ励まされたことだろう。
武士に見た目や身分などは関係ない、お前は立派な武士だ。そう兄が俺に言って頭を撫でてくれたとき兄の胸の中大声を上げて泣いた。


そして京都に行って、武士として一歩近づいた俺たちだったけれど…。




俺は武士にはなれなかった。



見た目や身分は関係ないと言ってくれた兄が俺に隊士としてではなく自分たちの補助としていてくれと頭を下げてきたのだ。
その意見に俺以外の全員が賛成した。


『兄上、俺を武士として認めてくれたのはないのですか?』


『そうではない!お前が…なまえは刀を持って戦う姿を見たくはないのだ。』



そんな理由で俺は武士になれないのかと俺は嘆いた。兄の背をずっと追い続け、いつか共に戦場に立つことを夢見ながら生きてきたというのに夢は叶わず散った。


みんなが危険をおかしているときに俺は此処にいなければいけない。
俺は戦えない。


前に俺が重宝されているように見えたのか、ある隊士が羨ましいと言ってきた。
その言葉は俺にとってあまりにも残酷であることをそいつは知らなかったらしい。
俺は、心で泣いていた。それを表には出そうとはせず、ただただ心を悲しみで埋めた。
俺が見回りに行ったり、間者を追ったり、天子様のために身を呈して戦うみんなを羨んだように。そいつもまた、俺が洗濯や掃除などを屯所でやり、戦いにも出ず平和にいることを羨んでいるのだ。


ならば代わってくれと思った。一日でいいのだ、それで俺は満足できるから…頼むから代わってくれと…。



なぜ俺がそこまでして拘るのか。
理由は言わずとも知れている、皆を待つのが怖い。
確かに皆強い、けれどそれが絶対に死なないという理由にはならない。俺がいないところで誰かが死ぬのが怖い。
みんなが帰ってくる時思わず人数を数えてしまう癖がいまだに抜けない。

武士の女房になれば毎日のようにこんな苦しみを味わなければいけないのだと女の気持ちがわかってしまう。
その気持ちを知ったあと、もし女を嫁に迎えることがあれば俺は刀も武士の心も捨ててその女のために働こうと思っている。
けれど今俺には好いた女もいない、今一番大切なのが新選組の皆なのだからつまり、俺は女房の立場で皆を待ち続けなければいけないということに変わりはないのだ。




頼むから、俺が知らないところで死なないでくれ。



きっと俺は悲しみから抜け出せなくなってしまう



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