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俺の知らない間に俺の居場所はどんどん心に取られていった。
まるで俺がいた場所を侵食していくように心は奪っていく。
これじゃあまるで子供みたいだと呆れる自分がいる、だけど寂しくて心を憎む自分がいるのも確かだ。
そして心と俺がしゃべることはめっきり少なくなっていく。
土方さんもあの中に入って行き、俺の拠り所は兄だけとなった。
山南さんは変わらないけれど研究に没頭していて邪魔したら怒るからできるだけ関わらないようにしている。
山南さんとは会ったら話すというくらいだったので別に前と変わりはしない。
なんだかみんな心を守るみたいにして、壁を作っている。
平助、お前とバカみたいな話をしたのはいつだったか。
左之さん、あんたに励まされたのはいつだったか。
一くん、一緒に稽古をしたのはいつだったか。
千鶴、一緒に団子を食ったのはいつだったか。
総司、一緒に茶を飲んだのはいつだったか。
考えても考えても、あいつらは帰ってきやしない。
「なまえ…気分転換に遣いにいってくれないか。久しぶりにあそこの萩の餅を食べよう。」
遠くからみんなを眺める俺を見ていられなかったのか、兄は俺の気を使ってくれた。
心配性の兄に迷惑はかけたくない。
しょうがないなと、無理して笑って見せ兄が差し出した金を受け取り懐に仕舞った。
下駄を履いて町に行く。
「あー…心が来てまだ一週間も経ってねぇのに1ヶ月くらい屯所にいる気分になってきた。まったく俺らしくねぇよなー。」
ため息をつきながら萩の餅がうまい店に向かっていると、裏通りのほうから金髪の男が現れ、俺はそいつに気づかずにぶつかってしまった。
俺よりもずっと相手の男は大きかったし、油断していた俺は尻餅をつくと思い痛さをこらえるため目をつぶった。
だが、尻にくるかと思っていた衝撃はいつまでたってもきやしない。
寧ろ腰に衝撃がやってきた。
ゆっくりと瞼を上げれば、金髪の男が至近距離にいた。
状況を把握しようとぐちゃぐちゃになっている俺の脳内を頑張って整理整頓していき、この金髪男は俺が尻餅をつかないように助けてくれたことを理解した。
「悪い、ありがとう。もう大丈夫だから離してくれ。」
「……お前…」
男は固まったまま動きもしない。
離してくれと俺は頼んだはずだ、礼も言った。
だがこいつは聞こえなかったのだろうか。
俺の顔をじっと見つめたままがっちりと腕は俺の腰に回ったまま。
にしてもこいつ力強いな…金髪だし、異人か?
異人とは関わらないほうがいいって兄や歳三さんにうるさいくらい言われてるんだけど…。
「あの、俺の顔に何かついてるのか?それとも俺の言葉が通じないのか?」
「……お前は……女か?」
その言葉が俺の耳に入り、脳に行き、分析するまでにそう時間はかからなかった。
爪先立ちしていた足をきっちり地面につけ、俺は男に片足をひっかけた。
女かもしれないと油断したため安定感をなくした男の体は簡単に地面に転がる。
腰に腕を回されていたせいで俺も少しばかり地面についてしまった。
だが怪我したわけでもないしどこか痛いわけでもない。
「俺は女じゃねぇ!正真正銘の男だ!!見た目で性別きめるんじゃねぇよ、覚えとけ金髪!」
尻餅をつくところを助けてもらいはしたが、女と言われれば話は別だ。
俺は男をそのまま置いて目的を達成するべく歩を進めることを再会した。
お姉さん、萩の餅5つ頂戴
なんだかあの男の言い方が妙に懐かしかった。
女と言われるのは至極嫌だというのに。
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