とある日、事件は起きた。



「あっ!!」


体育委員である私は、体育の授業の後片付けをしなければならない。
ネットとかはみんなでやるけれど、ボールとか点数表だとかは体育委員の仕事なのだ。


そして今日はバレーの練習で、散らばったボールを籠に入れて倉庫にしまわなければならない。


ゴロゴロと籠を押しながら倉庫に入れば、タイミングよく積み上げていたボールが崩れてしまい四方八方へと転がっていった。




「あーあ、原田ってばドジだな」


入り口から声をかけてきたのはもう一人の体育委員、藤堂平助だ。
ちなみに腐れ縁という名の幼なじみだ。


「う、五月蝿いな!!いいから手伝ってよ!」
「それが人に頼む態度かよ………」



グチグチ言いながらも手伝うのが藤堂のいいところ。



それを横目に私もボールを拾い始める。
どうやら奥まで転がっていったらしく、奥にある跳び箱の後ろにまでボールはあった。


しかも2つ仲良く……。



2つも持てるかななんて思っていれば前から藤堂が来た。

一つよろしくと言えば、この野郎……と顔を引きつる。
そして二人同時に屈んだら、

バンっ


「「!!!」」

突如、勢いよく扉が閉まりがちゃりと鍵を閉める音もした。












「閉じこめられた?」














「「えぇぇぇぇ!!!?」」


「ちょ、どどどうしよう!!暗くて何にも見えないよ!!」


キョロキョロと周りを見ても、光一つ入らない倉庫は真っ暗に変わりはない。

「落ち着けよ!次の時間に他のクラスが来るだろ!!」

「そりゃ安心してられるね!い つ も な ら!!
今週はテスト期間で、授業は特別に午前中だけ!しかもテスト期間は勉強に集中するために部活は一切ない!
つまり今頃みんなは仲良く先生のお話を聞いてる最中なの!!!」



大声でしかも早口でいったため息が切れて、ハァハァと何度も呼吸を繰り返す。
















「誰か出してぇぇえ!!!!」


「うるさっ!!」


目が慣れてきてぼんやりと周りが見えてきた。
とりあえずマットに腰をかけた。

「どうやって出ようか……」
「考えるだけ無駄じゃんか…俺ら餓死して死ぬんだよー」



お前だけ死ねよ!!!

死んでたまるかこの野郎!!



「携帯なんて持ってないから、助けは呼べないし…!」


「あ、俺持ってる!!!ちょっと待てよー……」

「よくやった藤堂!!お兄ちゃんに早く電話してよ!!」
「左之さん限定かよ!!まぁいいけどさ………」



パカリと藤堂が携帯を開き、カチカチと電話帳を漁るのを横から見ていた私。

ふと目線を上画面へ向ければ有り得ない二文字が目に入った。



「藤堂って役に立たない………。」
「はぁ!?何でだよ!!?俺が携帯を持ってるおかげでお前助かるんだぞ!?」













「圏外なのに助かるわけないでしょうが!バカァァア!!」

頼みの綱も切れ気力をなくした私は近くのマットに寝転ぶ。






「………なぁ…一つさ聞いてもいいか?」

「何よ、藪から棒に。」


藤堂も私の横に座り、役立たずの携帯を開けたり閉めたりを繰り返している。

「何で俺のこと昔みたいに呼ばなくなったんだ?」



「!」

嫌な記憶が私の頭を駆け巡った。
そうだ、昔は平ちゃんって呼んでていつも一緒に遊んでたな。

小学生まではその関係が許されたけど中学生になったらみんな恋とかに興味持ち出して。
みんなの中心にいた藤堂は女の子にモテモテだった、高校になっても変わらないけど。
そんな中心人物の人間と私が仲良くしているのが気に入らなかった人達に、幼なじみだからって馴れ馴れしくするなと何度言われたか。

中学生で女の怖さを実感してしまった。
まるで昼ドラみたいにドロドロしてて、しょうがなく私は平ちゃんから藤堂に変えた。

後一緒に登下校もしなくなった。

お兄ちゃんは美形なのに私は本当に同じ親から生まれたのかってくらい似てないし、お兄ちゃんを好きな人達からと藤堂を好きな人達からの僻みを受け続けた。


藤堂は気づかなかったけどお兄ちゃんはそれに気づいてくれてその人たちにキレたこともあって、今じゃ被害ゼロ。
お兄ちゃん様々だ。


「平ちゃんって子供っぽいでしょ、」


簡潔にそれだけ述べた。
このまま本当のことを言ったらきっと怒るし自分を責めるから、心の中に閉まっておかなくちゃ。


「本当にそれだけなのか?つかだからって名字で呼ばなくたっていいだろ!?普通に平助って……」
「そんなんだからいつまでたっても子供なのよ!
いずれはお互い恋人ができて結婚したりで離れていくの。
私がいつまでも名前で呼んだりしてたら彼女できないわよ」



そうよ、あんたよりいい男見つけてやるんだから!
初恋は実らないってよく言うし、いい加減彼氏も欲しいし、藤堂ばっかり見てたらいつの間にかおばあちゃんになる!!



「……俺、彼女とかいらない………原田が、あぁもう!名前以外の女なんかいらねぇ!!
俺はお前が好きだ!!」

「…あんた、この現状で冗談言うのやめてよ。笑えないから」



「冗談なんかじゃねぇよ!!最初に会ったときから俺はずっと名前が好きだった!
例え死ぬとしても最後にお前といれるなら本望だ!!」



こいつ……変な物でも食べたんじゃ……?
それともあれか最後の一瞬くらい彼女をとか?
人生の最後は彼女と過ごして一緒に仲良く死にましたとかいうラストでも求めていらっしゃるんですか?


「この際もう全部言っちまうからな!!ちゃんと聞けよ!?」

「え、全部?」


おいおい、あなたは何をするつもりだ!!



「俺は、何もないところで転んだときも、照れながらチョコくれたときも、俺の誕生日の時に躓いてケーキに顔突っ込んだときも、土砂降りの中捨て犬連れて俺ん家に来たときも、」
「ちょ!やめてそれは黒歴史なのに!!」

藤堂の口から次々と出てくる言葉に驚いて止めようと必死に叩いた。


「いつの間にか俺の布団で寝てるときも、スカート捲れてるのに気づかないで走り回ってるときも、」

「え!?ちょ、スカート!?何それ私知らないんだけど!そういう時は言ってよ!!」


いくつの時の話なのか分からない私は中学生のときだろうか、小学生だろうかと頭を悩ませた。

「なんか知らねぇけど泣ける映画を見て号泣していたときも、俺が旅行に行くときに駄々こねて離れなかったときも他にもあるけど、全部全部可愛くてしかたねぇんだよ!
しかも他の男共から狙われたのにも気づかないでニコニコ笑ってるし、俺からどんどん離れていっちまうからヤキモチ妬くし、不安だしでしょうがなかった!
あぁくそ、もうマジでお前が好き過ぎてどうにかなっちまいそうなんだよ……。」


ここが真っ暗でとても助かった。
今頃、私の顔は真っ赤だ。
もうこのまま沸騰して自分の中の血とか全部蒸発してしまうじゃないだろうかってくらいに熱い。


「藤堂……」


初恋は実らないって、誰が言ったんだ。
実ったじゃないか。
平助も私と同じくらいの年月、私を想っていてくれたんだ。


「藤堂じゃなくて、名前で呼べよ。」

暗くても浮かんでくる表情は、きっと頬を赤く染めながら照れていることだろう。


「へい…、すけ……私も、ずっと平助のことが!!」


「名前!!」

ガラリと扉が開き、久しぶりの光とご対面。
真っ暗の中にいたせいで突然のその光はとても眩しくて思わず目を手で覆った。


「お、お兄ちゃん!」


少しだけ目が慣れてくると、兄の姿がそこにあった。
ぽたぽたと汗を流し、必死な顔で。


「名前!名前!!やっと見つけたぜ!心配したんだぞ!」

私の姿を確認し、がばっと抱きついてきた。
とても力強いその抱擁に息苦しくなり、必死に背中を叩く。


「お兄ちゃん、くるじぃ!私死ぬ!!」


それに気が付いたおにいちゃんは、悪い悪いと言いながらやっと離してくれた。



「左之さん、タイミング悪すぎだろ…!」

「あぁ?なんだ平助。いたのか。」

「は!?俺がいたのに気づかなかったの!?名前が大事なのは分かるけどいい加減妹離れしろよな!」



平助の言葉にピクリと動きが止まり、気になったらしい単語を復唱した。


「名前?平助、今まで名前じゃなくて名字で呼んでいなかったか?」


「あ、やべっ!」


お兄ちゃんの前では禁句の名前呼び。
小さい頃は許してくれていたけどね、

中学のときとか他の男子が私の名前を呼んだだけでお兄ちゃんってば怒ってたっけ?
今回も怒るのかな?


私のいたずら心が揺さぶられ、思わず言ってしまった。


「あのねお兄ちゃん!私たち結婚することにしたの!」




お兄ちゃんがタイミングよく入ってきたので、好きじゃなくて、付き合ってるでもなくて、結婚。
その言葉はお兄ちゃんの心を傷つけるのには十分なくらいだったらしく、表情がどんどん般若のようになっていく。



「ちょ、名前!?結婚って……」

「いいでしょ、あんだけ大胆な告白したんだから。返事だって大胆に返さなくちゃ。」

「だからって、左之さんの前で!」



ゴゴゴという音が聞こえる。
地響き?地震?と思ったが、答えはとても近くにある。

お兄ちゃん、ご立腹です。


「平助、覚悟はいいか?」



その後、体育館の倉庫から聞こえた叫び声は学校中に響き渡った。





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