ぽかぽかと太陽の光に照らされながら平助君は縁側で寝転び、洗濯物を干す私を見ている。
時々目が合うと、優しく微笑んでくれる。他人から見れば当たり前のような一時だけれど、いつ死ぬかも分からない体。
もしかしたら私が目を逸らした瞬間砂になって消えてしまうかもしれない。頭の中に不安と恐怖が巻き起こり目を離せなくなる。



それに気付いたのか、平助君は立ち上がり私の元に来て頭を優しく撫でた。
「大丈夫、俺はここにいるよ。いきなり消えたりしないからさ………だから…………笑って?」
そう言って平助君は私を抱き締めた。
私も答えるように平助君の背中に腕を回し、ぎゅっと抱き締めた…………








はずだった。



平助君は砂になって、さらさらと地面に落ちていく。
さっきまで、私を抱き締めてくれていたはずだったのに…………。

―――――――――――――――

「っ!!」

目が覚め、今さっきまで見ていたものが夢だったことを知り安堵した。

平助君は生きている。ため息を吐き横を見た……………。

「………いな………い?」

どうして?
どうしてどうしてどうして?
何で、何でいないの!?


私は部屋を飛び出し家の中を走りながら叫ぶ。

「平助君!?平助君!!どこ行ったの!??……お願い……………お願いだから!!…………………出て来てよ…!!」


どれだけ叫んでも彼は現れない。

ふと庭を見ると所々砂が落ちている。その砂は家の裏にある山へと続いた。
私はその砂を頼りに山を登って行く。途中右足の下駄が脱げてしまったが私は気にもとめず登り続ける。

山麓から頂上までの中間に位置する場所に一本だけある桜の木はとても大きく立派で平助君はよく好んで私を連れてここに来た。
辿ってきた砂は桜の木の下まで続いており私は桜の木まで走った。

そこには木の根に隠れるようにして眠る平助君がいた……。
「へい………す…け……くん?」


私が声を掛けると彼はゆっくり目を開いて歪んだ笑顔で私に言う。
「何で…来ちゃうかな…………」
「何でって……起きたら平助君居ないし、呼んだって出て来ないし、だから……私凄く心配して…………」


「……俺もう駄目なんだ。もうすぐ俺は砂になって消える。
名前、俺が消えたら絶対泣くだろ?だから最期に見る名前の顔は笑顔が良い、そう思ったから名前が寝ている間に抜け出してここまで体を引きずりながら来たっていうのにさ…………。
やっぱり最期に見る名前の顔が泣き顔なんて俺には辛いよ。」
「いや………最期だなんて言わないでよ……私を一人にしないで…」

ぽろぽろと流れる涙は止まらなくて平助君の顔に私の涙が落ちる。
それを優しく指で拭い、そのまま私の顔を引き寄せ口付ける。
触れるだけの口づけの後、平助君は優しくきつく私を抱き締めた。
「お願い……笑って?大丈夫、体は消えようと心は消えないから。
だから………名前は一人じゃない………ずっと傍に居るから。」

顔を上げれば平助君は微笑んで「な?だから笑って」と私に言う。



私は涙を堪えて、平助君に笑いかけた。









(いつかまた必ず会おうな、平和な世で)

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