立ち別れ いなばの山の 峰に生る まつとし聞かば 今帰り来む



「八左エ門様、仕事にございますか?」


夜も更け、誰もが寝静まった頃。
俺はそろりそろりと身支度をし、家を出ようとした時だった。


「!?…名前?」

「相も変わらず私が寝た時に行こうとなさるのですね。
それほど私は弱虫でございますか?」

「違う!腹には子供もいるし、心配をかけたくなくてだな!」

まだ幼さが残る可愛らしい目に涙をいっぱい溜めて名前は俺を見る。
この目を見たくないから内緒で行こうと思っているというのに…。


「わた、私は…このように隠れながら仕事に行かれると不安で…。」

「あ……悪かった…。」


「夫を見送り、そして迎えるのは妻の役目でございます。」

涙を零さないように目に力を入れて俺を見る。
嗚呼なんとも愛しい。

名前の体をぎゅっと抱きしめる。
腹にややがいるため負担をかけないよう優しく抱きしめる。

「行ってきます。」

「行ってらっしゃいませ。」






(君と別れて因幡へ行くけれどこの山に生えている「まつ」のように君が僕を待ち焦がれているのなら、君のもとへ飛んで帰ろう)


そして笑顔で出迎えてくれる君を抱きしめよう


(百人一首より16番中納言行平)
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