わびぬれば 今はたおなじ 難波なるみをしても むとぞ思う


「何故彼女を殺めるのですか…!」


人を殺める、それが忍の役目であることは重々承知している。
けれども私は愛しい彼女を守るために忍になったのだ。

そう、愛しい一国の姫を守るために。
私のこの感情を受け止めてくれた姫を守ろうと幼いころから誓ったのだ。

なのに…!


「鉢屋、命令だ。姫を…殺せ。」


姫の父親である彼が実の娘を手にかけようとしている。
その殺す役目を、私に言った。
殺せるはずがない、愛する彼女を殺せるわけがない。


「命令に従えないなら、他の者に言うまでだ。」

その言葉を聞いて、ぴたりと一瞬だけ私は考えを止め、何も言わずに姫のもとへ向かう。
あの無垢な笑顔で私に笑いかける姫を抱きしめながら、彼女を刀で刺した。


「すまない、すまない、どうか私と共に死んではくれまいか。」

弱い私ですまない、勝手な私ですまない、あなたが他の者に殺られるくらいならば、私がこの手であなたを殺して、あなたの後を追おうぞ。

嘘の仮面を被った私の頬は自身の涙でぬれていた。
彼女はそんな私の頬を拭い、相も変らぬ笑顔を見せて言った。


    


(あなたに逢えなくて、とても辛い思いをしているのです。もうどうなっても同じことです。いっそ、この身を滅ぼしてもいいからもう一度あなたに逢いたいと思っています)


彼女の言葉に私はまた涙を流した。


(百人一首より二十番元良親王)



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