爆撃妄想





ヘリコプターが行った後、携帯からコツコツと音が聞こえてきた。

多少ノイズが入ったり、画質は最悪だけれどそれが人だとはっきり確認できる。


私や千鶴と同じスカートを穿いてるのが目に入り、女だと分かった。

後は人数だが、携帯画面にも限度があるようで、正確な人数までは分からないけれど4〜5人程度だ。


「ここに来るみたいだね……。」

「早速の敵って感じだなー、」


溜息を吐いて銃を構える。
運良く途中の階段にある爆弾を拾ってくれればいいのだけど・・・。



ジジッ…

『ねぇ、リュックがある。』


『ホントだ。でも何でこんなところにあるの?』
『誰か落としたんじゃないのー?』
『あはは、超馬鹿じゃんそいつ!』

『食べ物入ってないかなー?』


ガタッ…


「当たり…かな?」


私が呟いたすぐに、携帯からと屋上のドアから凄まじい音が聞こえてくる。
それとともに地面が揺れ、私が考えたとおりリュックを持ち上げて手榴弾が倒れたことがわかった。
携帯の画面を私と千鶴はただ見つめ、敵の生死を確認しようと必死だ…。


しかし、爆発の衝撃か階段に置いた携帯電話は飛んでしまい先ほどとは違う位置にある。

一分ほど続いた煙のせいで白黒の世界だった画面は、少しずつ色がつき始めやっと現状を見ることができた。


血が壁や階段に滴り、周りは真っ赤に染まっていた。
これで死んだかと思ったけれど、僅かな声がする。




『っ………何?今の……リュックを持ったら爆発が………』


『みんな?………死んだの?』




携帯の画面の端に映る女は運よく爆発から逃れたらしい。
体を起こし、現状を理解した女は動かずその場に座り込んでいた。


顔を伏せて震えてるように見えた。
微かな罪悪感が芽生えたが、携帯から聞こえる声により私の気持ちは揉み消された。



『やった!死んだわ!!これで私は自由よ!なんていい日なのかしら!!
ウザくてウザくてしょうがなかった女共が死んでくれたわ!!!
私より可愛くもないくせに化粧して可愛く見せて!!
それに何れ私の物になる総司君や平助君や一君や歳三先輩や新八先輩や左之助先輩に媚売って!!!!
どうせあんた達なんて相手にしないのよ!無駄なのよ!!
あんた達なんて所詮私を一番可愛く見せる道具に過ぎないのよ!!アハハハハッ!!!!!』




笑い声が携帯から聞こえてくる。

携帯電話から、そして扉から。
卑屈な笑い声が響いて響いて……気分が悪くなる。



嗚呼、気持ち悪い



殺したい




沖田君のことをそういう目で見ているこの女に苛立ちが募っていく。


「千鶴、私行ってくるね。」


「名前ちゃん………土方先輩が……」
「あんな最悪な性格をした女に………土方先輩は見向きもしないよ…。
それは千鶴が一番よく知ってるでしょ?」



私の言葉にうんと、千鶴は頷く。


私は友達に恵まれた。
千鶴が友達でよかったと心から思った。


銃を構えて、私は………扉を開いた。



ゆっくりと、静かに階段を降りて行く。

耳障りな声がひたすら響いて今すぐ銃声でかき消したくて堪らなかったけれど、その気持ちを押さえ込み、彼女がいる場所へと向かう。


携帯画面で見たよりも鮮明に映るのは真っ赤な血で染められた階段と壁で、窓から射す太陽の光がそれをキラキラと輝かせる。


私はその血を僅かに受けた携帯を拾い上げ、画面に映った千鶴に言った。

「一回、電話切るね。」


千鶴から了解の返事を受け、私は電源ボタンを一度軽く押す。

私が声を出した途端に消えた笑い声。
彼女の方を向けば、見開いた瞳を私に向けている。


「あんた…誰?」


「残念だけど、答える義理はないの。」

「……私が誰か知っての物言いなの?」


あなたは何様なんですか?と言ってやりたい。
彼女の顔も声も初めて見て聞いた。
名前なんて知るわけがない。


「自意識過剰にも程があるのね。
あなたのことこれっぽっちも知らないわ。」


そう言えば、信じられないというような顔をし鼻で笑う彼女は可愛さなんて欠片もない。

男はこんな女が好きなのだろうか、と疑問が頭に過ぎった。


「自意識過剰?あんたみたいなブスが何言ってるのよ?
あぁ!あんたの顔どっかで見たことがあると思ったら平助君や総司君と同じクラスでしかも平助君の隣、総司君の後ろの席にいる女じゃない。
平助君や総司君に優しくしてもらったりでもしたの?
だったら思い上がってるんじゃないわよ、平助君は優しいの。
あんたみたいなブス眼中にないでしょうね、」


「あらそう、でも私が知る限り藤堂君や沖田君は貴女みたいな性格ブス人も眼中にないでしょうね。」


私はこの手の話題にあまり興味がなく、軽くあしらえば眉間に皴(しわ)を寄せてなんとも滑稽な顔になった。

「ブスがいい気になってんじゃないわよ!!!」

「性格ブスに言われたくないわ。
取り敢えずあなた自分の顔を綺麗にする前に性格を改めたほうがいいと思うけれど…。
まぁもうすぐ死ぬ女にはいらないお節介だったわね、ごめんなさい」


カチャリと私は銃口を彼女に向けた。
そうすれば、先ほどまで釣り上がっていた眉毛が下がり、泣き出しそうな瞳になる。

さっきの元気はどこに行ったのだろうと、溜息を吐いた。


「やめてよ、私が死んだらみんな悲しんで、きっとあなたを恨むわ………!!」

「光栄ね、それで容赦なく殺せるわ。」


「誰か!誰か!助けてよ!!私は2年の音楽科の…!!」


「バーンッ」


私の声と同時に銃を撃つ。
見事彼女の頭に命中し、血しぶきが私の体と地面や壁に飛び散る。
彼女の言葉は血と共に地面に流れていった。


「ごめんなさい、あなたの名前聞いとけばよかったのかもしれないわね。」



やっと気持ち悪いぐらいの高い声は消えて、心の闇が消えた。



そして、私は再びテレビ電話をするために携帯を捻る。
千鶴は直ぐに出てくれて、大丈夫?と私の心配をしてくれた。


「大丈夫だよ、ありがとう」




そして、私は元の場所に携帯を置いた。





「副長、どうやら例の二人は2棟の屋上にいるそうです。」


「そうか………って何で知ってるんだ?斎藤。」


僕らは今、呑気に食堂の自動販売機でジュースを買って飲んでいる。
今は戦争中だというのにまるでいつも通りの学校生活……。



「例の二人ねぇ………平助会いに行ってこいよ、」


新八さんを殺したくなってしまうのも変わらない日常。


「で?怪我も何もないの?」


「名字とやらが雪村を守っている形だが、二人共怪我はない。
ついさっき五人の女子を爆撃したそうだ。」



「………それ…名字がやったのか?」

「雪村はそうそう人を殺せない、それは俺たちがよく知っていることだ。
となれば、彼女以外ありえないだろう……。」
「そんな……んなことする子じゃ…!!」

「平助、彼女だって自分の命が尊いんだよ?
気持ちは分かるけど二十人しか生き残れない。
気を抜いたらそこで終わり…………でしょ?」



僕だって、彼女に殺しなんてしてほしくない。


何時までも、笑って、僕にお菓子くれたりして。
それだけでいいのに、こんな馬鹿みたいな戦争に巻き込んで……。


「総司の言うとおりだ、見習え平助。」


「いや……でも説得力ねぇぞ。
俺ら呑気に茶ぁ啜ってんだからよ…」


左之さんそれ言ったら駄目だよ。平助が名字名字って五月蠅いから黙らせようとしたのに…。



「でも…………我が儘だって分かってても!!俺は悲しむ顔を見たくないんだ!」


「馬鹿言わないでよ。僕だって彼女の悲しむ顔を見たくない。
今すぐ飛んで行って、彼女を守りたい…………けれどそうしたらあの子はもっと悲しむ。」



平助だけが名字ちゃんのこと好きだと思わないでよ。
一番彼女のことを知っているのは僕なんだから。
他の僕たちに寄ってくる女達とは違う。
綺麗に着飾ったりせず、狙ったような顔じゃなくて自然な本当の笑顔。


「おいおい!まさか総司もあの子のこと!!」

「さっきも言ったでしょ。好き、ですよ?」



新八さんは鳩が豆鉄砲を食ったかのような顔をしている。

笑いが込み上げてくるけれど、どうにかそれを堪える。


「おま…!!俺よかずっと綺麗な女だったり可愛い女にモテるくせに何で!!」


「新八さんには一生分からないだろうね。あの子の良さが」

「だよな…」



「このやろぉ!左之!!お前なら俺の気持ち分かるだろ!!!」

「悪いな、新八。俺結構あの子に世話になったことあるからお前に賛成出来ねぇ」


へぇー………平助は兎も角、左之さんまで名字ちゃんに手を出したら厄介だな。
女の子の扱いが上手いし、何より手が早い。

そして記憶が全部あるみたいだし。



どれだけ考えても、彼女に近づけては駄目ってことしか思いつかない。
平助は恥ずかしがって話すのもやっとみたいだし。

うん、やっぱり平助は論外だ。

「左之さん、まさか名字ちゃんに手を出したりしないよね?」


「あぁ?期待するだけ無駄だと思ってた方がいいと思うぜ」

「へぇー」



この人は嘘がつけない性格だから、今言ったのは全て本当。
だからこそ、苛苛してしょうがない。







「………なぁ、新ぱっつぁん。」


「おぅよ平助」


「俺、目が可笑しくなったのかな?虎と龍が見える。」

「俺もだ平助。」




僕と左之さんは、結構な時間の間睨み合っていた。


そんな中、近づこうか近づかまいか。
迷っている人達がいただなんて僕は知らない。



というよりも、興味がないだけ………なんだけどね




行き過ぎた妄想は身を焦がす




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