「『あれ』は何だ。」 [ 5/20 ]


この世界には大きく六つの大陸が存在する。
それぞれの大陸が円を描くように点在しており、大陸の内側にある海を『内輪の海』、外側を『外輪の海』と呼んでいる。これから向かうノードポリカは、トルビキア大陸から内輪の海を挟んで対極にある、デズエール大陸にある街だ。
どんなに速い船でも到着まで、一週間近くかかる大移動だ。
帝都を中心に任務をこなしていた私は、この大陸に行った事はなかった。何より、ノードポリカといえば『五大ギルド』の一つ、『戦士の殿堂(パレストラーレ)』が街そのものを建設し、闘技場を運営している。
帝国騎士には無縁の街だ。

「潮風が気持ちいい。」

今日は晴天。まさに移動日和。波も穏やかで平和そのものといった感じだ。

「気を付けてね、船の端にいると、不意打ちに魔物に襲われるわよ。」

護衛の依頼人、カウフマンが注意を促した次の瞬間、船全体が大きく揺れ、船底から何体もの魔物が甲板の上に上がって来た。

「よし、敵さんのお出ましだ。皆気ぃ付けろよ!!」

ユーリの掛け声と共に、仲間たちは一斉に武器を構え、魔物を倒しにかかる。
もちもん、私も愛用の剣を鞘から抜き構える。





どれくらい時間が経っただろう。
彼らは幾多の戦いを斬り抜いてきているだけに、強かった。
特に、ユーリの剣技は独創的で、型にはまった私の剣技とは大きく違った。
確実に魔物を倒してはいるが、数が多すぎる。
次から次に船底から現れる魔物に、体力を奪われていく。

「もぉ!!次から次へと限がないわね!!」

「わぁっ!?リタやけくそにならないでよっ!!火の玉僕の方に飛んできたよっ!!」

「うっさいっ!!」

イライラを募らせ、リタが暴走し始めた。
慌ててカロルが注意をするが、油に水を注ぐ結果となってしまった。

「大丈夫か、ロゼ。」

不意にユーリが近づいてきて、声をかけられる。

「大丈夫よ。ね、私結構強いでしょ?」

「あぁ、今度お手合わせ願いたいところだ。」

話終えると、ユーリは再び魔物へ向かっていった。
騎士で鍛えていただけに、これくらいの戦闘で根を上げたりしない。
が、これ以上となると厳しいものがある。
何より仲間たちの体力にも限界があるからだ。

(何とかしないと・・!!)

「この中で、魔物に詳しいのは誰?」

広く散らばる仲間たちに聞こえるように、私はできるだけ大きな声で、話かけた。

「ぼ・・・僕だよ!!」

私の問いに答えてくれたのはカロルだった。

「前、『魔狩りの剣』っていう魔物討伐専門ギルドにいたから、僕詳しいよ!!」

「水棲型の魔物の弱点を教えて!!」

私は間髪入れずにカロルに問いかけた。

「えっと〜・・確か〜。」

「火と、風だ!!」

急に聞かれて混乱気味のカロルをよそ目に、矢を打ち抜きながら、レイヴンが教えてくれた。

「やっぱり、打撃より魔術ね。皆!!大きく円を描くように隊列を組んで!!そして円の中
心にリタを配置、リタは火属性、または風属性の魔術を中心に攻撃。前衛型のユーリ、ジュディス、カロル、ラピードはそのまま円を保つ様に敵を牽制して!!エステル、レイヴンと私で、リタの援護にまわる。以上!!質問は!?」

私はそこまで早口で話、皆を振り返る。
「ない!!」と言うユーリの声と共に、仲間たちは円陣を組み私の指示したように戦い始める。





「助かったわ〜♪あんなに魔物が出てきた時は、どうなるかと思ったけど、やっぱりあなた達を雇って正解だったわ♪」

何とか全ての魔物を退ける事に成功した。
船内に非難していたカウフマンは、戦闘が終わった頃合を見計らって、歓喜の声を上げながら現れた。

「疲れたでしょう〜♪中に飲み物とか、食べ物とか準備したから、一杯食べて休養をとって頂戴♪」

「やった〜!!僕もう、ヘトヘトだよ〜っ」

「私も・・流石に疲れましたぁ〜。」

カロルとエステルが軽く言葉を交わし、先に船内に進むと、それに続いて仲間たちも中へと入って行った。

(私も・・疲れたわ)

額に薄ら滲む汗を拭い、私も皆に続いて中に入ろうとした時・・・・。

「ロゼ、チョットいいか。」

後方からユーリに呼び止められ、振り向くと、真剣な面持ちの彼が居た。

「何?」

「『あれ』は何だ。」

「『あれ』?」

「さっきの戦いの時の指示だよ。まるで騎士の様だった。」

(や、やってしまった!?)

ユーリの言葉で、先程の自分の行動を思い出す。日頃の癖で、隊を指揮するような振る舞いをしてしまっていた。

「ロゼは只の貴族のお嬢様では無いよな?只のお嬢様があんなに剣の腕がいいのもおかしいよな?」

「エ・・・・エステルだって強いじゃない。」

「何でエステルが帝都の貴族だって知ってんだよ。」

「!?」

また、やってしまった。ユーリの表情はだんだん眉をひそめ、私の嘘を全て見透かしてやろうとする鋭い目線へと変わる。

「本当は騎士なんだろ。どうなんだ、ロゼ。」

これ以上は嘘を付けない。
だけど、本当の話はしたくない。
その事によって、優しかったユーリの態度が変わってしまうのではないかと思うと、とても辛かった。

(言えない・・・・だけど言わないと、彼をもっと怒らせてしまう)

そして何より、側に居られなくなる・・・・!!
いろんな感情が入り乱れ言葉を発せずにいる私。
何とも言いようの無い、気まずい雰囲気を漂わせていた時、急に辺りの雲行きが怪しくなり、眩しいくらいに照らしていた太陽は厚い雲に隠れ、辺り一面薄暗くなった。

「何だ?」

私たちも、急な天候の変化に気付き、先程までの緊迫した雰囲気を解き、空を見上げた。
ふと、前方を見ると、ゆっくりと一艘の船がこちらに近づいて着た。
ギギギギ・・・・という不気味な木がしなる音を響かせ、今の時代、あまり見かけない古い型の船に見えた。
マストは無残にも切り裂かれ、役目を果たせていない。側面はあちこち穴が空き、船としての機能が保たれている事に疑問を覚える程だ。
そしてその船と共に、濃い霧が辺りを包み込み、一面が真っ白になってしまった。
ユーリと二人、呆然とその船がすれ違うところを見ていると、ドオンという轟音と共に進んでいた船が止まった。
物音に気付き、仲間たちも外へと出てきた。

「うわ!!何これ!?」

「凄いわねぇ、一面真っ白よ。」

カロルが怯えながら言葉を発するのとは対照的に、ジュディスはのんびりとした口調で状況を確認している。
「チョ・・・・チョット!!あれ何よ!!」

リタが側面で停止しているオンボロの船を指差し、震えた声で皆に意見を求めている。

「幽霊船?」

またそこに、おっとりとしたエステルの声が答える。

「ゆゆゆゆ・・・幽霊船なんてあるわけ無いでしょぉーーーーーっ!!」

リタの絶叫が静か海に木霊する。




私は一人、ユーリにどう言い訳をしたらいいのかその事ばかり考えていた。



第6話につづく・・・・。


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