「えぇ、また会いましょ。」 [ 20/20 ]

「フェローは・・・。」

ジュディスが口にしようとした言葉は、招かざる客によって遮られた。

「遂に見つけたぞ!魔物を率いる悪の根源め!!」

石でできた頑丈な扉を蹴り壊し、黒いフードを深く被った細身の男が部屋の中に飛び込んできた。
そしてその後ろに、身の丈はある大剣を背負った大男がいた。

「ディソン!ボス!!」

その二人の男を見て、カロルが驚きの表情でそれぞれの名前を口にした。

「カロルの知り合い?」

近くにいたリタに問いかけると、彼が以前所属していたギルドメンバーだと説明してくれた。
彼らは『魔狩りの剣』と言って、魔物討伐を専門に行うギルドだと言う。

「これはカロル君ご一行。化け物と仲良くお話するとは変わった趣味だな。」

嫌味たっぷりに、ディソンと呼ばれた黒いフードを被った細身の男が話す。

「闘技場で凶暴な魔物どもを飼いならす人間の大敵!覚悟せよっ、我が刃の錆となれ!!」

ボスと呼ばれた身の丈もある大剣を持つ男は、その剣を抜くと戦闘態勢に入る。

「ナ・・・・ナンは?」

周りを見渡し、おずおずと怯えた表情で、カロルはディソンに質問する。

「お?気になるか?今頃闘技場で魔物狩りを指揮している頃だろうよ。俺ら『魔狩りの剣』の制裁を邪魔するヤツは、人間だって容赦はしねぇぜ!」

「かかって来ないなら俺から行く!さぁ相手になれ!化け物っ!!」

二人はそれぞれの得物を手に、ベリウスに突っ込んで行く。
私は腰元にある自分の得物に手をやり、彼らの攻撃を受け止める体制に入る。

「ロゼは下がってろ!」

私の行動に気付いたユーリは、静止の言葉を私に投げかけ、自分はベリウスに攻撃を仕掛けたディソンの刃を己の刃で受け止めていた。
そして、残りの刃はベリウス自信がその手で受け止め攻撃を防いでいた。

「こやつらは、わらわが相手をせねば抑えられぬようじゃ。そなたらはすまぬがナッツの加勢に行って貰えぬか。」

「あんたは大丈夫なのかよ!?」

ベリウスの言葉に、ディソンの刃を牽制しながらユーリが叫ぶ。

「たかが人などに後れはとりはせぬ。」

穏やかに告げられた言葉だが、そこには人如きに屈指はしない、と言う『始祖の隷長』としてのプライドのようなものが滲み出ている。

「わかった、行くぞ!!」

ディソンの刃を払いのけ、ユーリが声高々に皆に号令をかける。
先頭をきって、部屋を飛び出すユーリの後に続き、私達はナッツ達が戦っている闘技場へと足を向けた。







「ノードポリカに用があるのは騎士団だと思ったんだがな。」

上ってきた階段を下りながらユーリが話す。

「まさか、『魔狩りの剣』が出てくるとは、正直予想外よね。」

ユーリの言葉にレイヴンが答える。

「事情は知らねぇが、ベリウスに用があるのは間違えなさそうだったな。」

「もしかして、騎士団・・・・いいえ、フレンの狙いもベリウスなのでしょうか?」

二人の会話にエステルが不安げに問いかける。

「詳しい事は会って聞けばわかる。とにかく今はこの騒動をそうにかするぞ!」
ナッツと別れたベリウスの私室へと続く扉の前まで来ると、1人の男が血を流し倒れていた。

「酷い・・・・これを、ナンが?」

顔を青ざめ、カロルが呟く。

「しっかりしなさい!」

私はその男にかけより、その手を取る。
血の気がうせ、青白いその顔を見れば彼が助からないのはあきらかだった。

「ナッツ・・・・様が闘技場を守るために・・・・魔狩りとたたか・・・・って。」

「今私が・・・・。」そう言って治癒術をかけようとしたエステルを、ユーリが無言で止める。

「ありがとう。あなたの望は必ず叶えるわ。」

そう伝えると、彼は一瞬安心したように微笑み、静かに息を引き取った。

「ナッツって人を助けなきゃ!」

リタの言葉に全員頷き、闘技場へと向かう。

「闘技場は現在『魔狩りの剣』が制圧した!速やかに退去せよ!!」

闘技場に到着すると、そこは酷い土煙と、人々の怒号の声が交差する戦場のようなありさまとかしていた。
入り口のすぐ側には、小柄の可愛らしい1人の少女が半円形を模した武器を持って、『魔狩りの剣』達を指揮している。

「ナン!もうやめて!!」

「カロル?なんでココに・・・・。」

カロルはその少女を見つけるなり、駆け寄って行き非難の言葉をかける。

「ギルド同士の抗争はユニオンじゃ厳禁でしょ!」

「何言ってるの!これはユニオンから直々に依頼された仕事なんだから!!」

「何だと?」

カロルとナンと呼ばれた少女の話を聞いていたレイヴンが、彼女から発された言葉を聞いて驚きの表情を浮かべる。
すると、ナンの後方から金髪の、鼻の上に赤色の染色で一本線を入れた少年が現れた。

「お前・・・・ハリー!?」

その少年を目にし、更にレイヴンが驚きの表情を浮かべる。
「誰?」と問いかけるリタに、「ドンの孫」だとレイヴンは説明した。

「ちょっと、何がどうなってるの?」

少し苛立ちを抑えながら、レイヴンがハリーに問いかける。

「お前もドンに命令されただろ、『聖核(アパティア)』を探せって。」

「あぁ、でも『聖核』とこの騒ぎ、何の関係があるってんだ?」

その時、ジュディスが何かを見つけ、そちらの方へ1人駆けて行く。
皆がそちらの方へ目線を向けると、ナッツが『魔狩りの剣』のメンバー達に取り囲まれていた。

「行くぞ!」

ユーリの掛け声に従い、皆がナッツを助けるためジュディスの後を追う。「えぇい!!こっちの話、終わってねぇってのに!」
イライラを抑える事無くレイヴンは吐き捨て、皆の後を追う。

「待て!退去しろと言っている!!」

ナンは、私達の行動に静止の言葉を叫ぶが、それをハリーがいさめた。

「レイヴンもいるんだ、あいつらは味方だろ。ほっとけ。」

色々な不満があったが、ドンの孫であるハリーの言葉なら、とナンは口を閉ざした。
周りを見渡すと、あちらこちらに傷を負った人が何十人も倒れている。
そのほとんどが、どうやら『戦士の殿堂』に所属するギルドメンバーのようだ。

「後1人じゃ物足りねーだろ!?俺らが相手してやるよ!!」

ジュディスが先に進んでいたが、足の速いユーリがそれを追い抜き、先にナッツのもとに辿り着く。
そして、剣を素早く鞘から抜き、戦闘態勢に入る。

「きさまらもベリウスの配下か!」

「ぼ・・・・僕らは『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』だ!!」

少し怯えながらも、カロルが自分達のギルド名を名乗る。

「何か知らねーが、魔物に味方するヤツは死ぬ!!」

この言葉を合図に戦闘開始となった。
次々と集まってくる『魔狩りの剣』達を次から次へと倒していく。
最後の1人をユーリが仕留め、エステルが膝を折り、傷ついたナッツのもとへかけよる。

「あんた治癒術師だったんだな。おかげで命拾いしたよ。」

エステルの力により、命を取り留めたナッツはお礼の言葉を述べる。
正体を隠している、と言う事もあり、積極的に前衛に出て戦う事が少なくなっていた私の額には、薄っすらと汗が滲み、息も少し上がっていた。

「大丈夫か?ロゼ。」

そんな私の様子を見て、ユーリが声をかけてきた。

「少し疲れただけよ。それにしても・・・・どういう事なのかしら、レイヴンはギルドの・・・・ドンの命令でベリウスに書状を持って来たのでしょ?何故ユニオンの命令でベリウス討伐みたいな流れになっているの?」

「『聖核』がどうとか言ってたな・・・・・。」

ガシャーン!!

ユーリと話しをていた時、上の方からガラスが割れる大きな音と同時に、割れた破片が落ちてきた。
驚いて見上げようとした私を、ユーリが抱き寄せその身でガラスの破片から私を守ってくれた。

「ガラスが落ちてきてるってのに、見上げる馬鹿がいるか!?」

「ご、ごめんなさい!」

ユーリが庇ってくれたおかげで、私の体には破片一つ被る事はなかった。すぐに彼の腕の中から離れ、彼の体に付いた破片を払いのける。

「怪我はないか?」

「それはこっちの・・・。」

台詞だと言い掛けた時、ドーンという大きな音と共に、何か大きなものが地面に落ちた音が聞こえた。
何かと思い、その落ちた方向に目をやると、傷ついたベリウスが傷口から血を流しながら体を懸命に起き上がらせようとしていた。

「ベリウス様!!」

ナッツは傷ついた体を支えながら懸命にベリウスの名を叫ぶ。
彼の呼び声に気付き、振りかえると彼の無事を安堵し、ベリウスは静かに微笑んだ。

「ナッツ・・・・無事のようだの。」

「この・・・悪の・・・根源・・・・・め・・・。」

ベリウスが落ちてきた方向とは逆に、同じく傷を負ったボスとディソンが睨みをきかせていた。

「あいつが悪の根源?んなわけねぇだろ!よく見てみやがれ!!」

聞き手の腕を負傷したのか、剣を握る手を逆手に取り、再び攻撃を仕掛けようとする彼らに、苛立ちを込めユーリが叫ぶ。

「魔物は悪と決まっている・・・・!ゆえに狩る・・・・!魔狩り・・・が我ら・・・の・・・・。」

気力だけで立ち上がっていたのだろう。
そこまで話すと、限界がきたのかボスは言葉を切り、その場に倒れてしまった。

「この・・・魔物風情がぁ!!」

残ったディソンがベリウス目掛けて攻撃を仕掛けようとしたが、ジュディスの蹴りを受け、その場に倒れる。

「ベリウス様!!」

その間も、傷つき苦しむ自信のギルドの統領を気遣い、ナッツが痛む体を引きずりベリウスのもとへと近づこうとする。
そんな彼をその場に留め、エステルがベリウスへと駆けて行った。

「すぐに治します!」

そして、エステルが治癒術を使おうとした時。

「ならぬ、そなたの力は・・・・・!!」

ベリウスが静止の言葉を言うが、既に詠唱を始めたエステルには届かない。
それを見たジュディスの表情が強張り、エステルを止めようとするが時既に遅く、彼女が術をかけ終えた時だった。
すると、術をかけられたベリウスの体が光りをおび始める。そして・・・。

「ぐあぁああぁぁっ!!!」

急に苦痛の声を上げて、ベリウスが苦しみだした。

「こ・・・これは・・・いったい・・・?」

苦しみだすベリウスを眺め、何が起きたのか状況が掴めず混乱するエステル。

「エステルの術式に反応した・・・・?でも、これは・・・・!?」

「遅かった・・・。」

リタの呟きに、落胆したジュディスの言葉が続く。

「わたし・・・・のせい?」

光りに包まれながら、苦しみの声を上げるベリウスをみて、その場から動く事無くエステルが呟く。

「エステルっ!!」

苦しみもがくベリウスの近くにいては危険だと、ユーリが彼女のもとへ駆け寄り腕を引き距離を取る。

「ベリウス様ぁ!!」

気がふれたように暴れるベリウスに、ナッツが懸命に声をかける。

「あのまま暴れられると闘技場が崩れちまうぜ!?」

軋む建物を見渡しながらレイヴンが叫ぶ。

「やるしか・・・・ないのか。」

独り言のようにぼそりと呟き、ユーリはエステルから離れ剣を構える。

「ロゼ!!援護を!!!」

名前を呼ばれ、呆然と状況を見ていた私は、剣を鞘へ納め詠唱の準備に入る。
事細かくどうして欲しいかなんて説明されなくても、彼が求めている事がこの時の私はわかった。
そして、砂漠で出合ったあの魔物に唱えた渾身の術を私は唱え始める。

「その、術式・・・!?」

私の周りに浮かぶ術式を見て、驚きの声をあげるリタを他所に、私は最後の一音を声に出す。

『ストップフロウ』

約5秒間時を止める術。
私が使える最も高位の術だ。
唱えたと同時に、苦しみもがいていたベリウスの動きが止まり、その隙にユーリが渾身の一撃でもってベリウスを仕留める。
あの時に比べ、体力に余裕があるといっても、かなりの大技を唱えた事で私は疲労からその場に膝を付いた。
時が動き出すと、ベリウスの動きは止まり、彼女から発せられる光りがより強いものに変わる。

「こんな結果になるなんて・・・・。」

目線を下に向け、悔やむようにジュディスが言葉にする。

「ごめんなさい・・・・私・・・・私・・・・!」

自分の力でベリウスを傷つけてしまったと、後悔し涙するエステル。

「気に・・・・病むでない。そなたは・・・わらわを・・・救おうとしてくれたのであろう・・・。」

「でも、ごめんなさいっわたし・・・。」

「力は己を傲慢にする・・・・・。だがそなたは違うようじゃな。他者を慈しむ優しい心を・・・・大切にするのじゃ・・・・フェローに会うがよい・・・・己の運命を確かめたいのであれば・・・・・。」

フェローとう言葉に、俯き涙を流してエステルが表を上げる。
ベリウスはそんなエステルの顔をじっと見て、静かに微笑んだ。

「ナッツ、世話になったのう・・・・この者達を恨むではないぞ・・・・。」

「ベリウス様!!」

彼女は最期に腹心であるナッツに声をかけると、さらにいっそう光りをおび始めた。

「ま、待って下さい!ダメ、お願いです!逝かないでっ!!」

エステルが懇願するようにベリウスに手をかざす。

「ベリウス・・・・さようなら・・・。」

全てを受け止めたかのように、静かにジュディスが別れの言葉を口にする。
そして光りが強くなり、一瞬全てのものがその光りで見えなくなると、次の瞬間、ベリウスの居た場所に鉱石のような石を模した深い碧色の光りを放つ不思議な石が、宙に浮いた状態でそこにあった。

「これは・・・・幽霊船の箱に入っていたのと同じ・・・・・。」

「『聖核』だ・・・・。」

リタとカロルの呟きで、皆が確信する。
それはまさに『澄明の刻晶』と同じものだった。

≪わらわの魂、『蒼穹の水玉(キュアノシエル)』を我が友、ドン・ホワイトホースに≫

どこからともなく聞こえてきたベリウスの言葉。その言葉が消えたと同時に、その『聖核』はエステルの腕の中に納まった。

「ハリーが言ってたのはこういうわけか・・・。」

1人納得したようにレイヴンが呟く。

「人間・・・・その石をよこせ・・・・。」

先程まで意識を失っていた『魔狩りの剣』のボスが、剣を支えに立ち上がりこちらを睨みつけていた。

「こいつがてめぇらの狙いか。素直に渡すと思うか?」

怒気を含んだ声でユーリが答える。

「では・・・・素直にさせるまでの事。」

再び剣を構え、戦闘態勢に入ろうとした時。

「そこまでだ!全員武器を置け!!」

タイミングを計ったかのように、空色の鎧を身にまとった騎士団たちか闘技場の中へとやってきた。

「ちっ来ちまいやがった。」

ユーリは舌打ちをして、騎士たちを指揮している少女を見る。
右サイドだけに編み込みを施したその特徴的な髪型から、副官の子であろう。

「闘技場にいる者を全て捕らえろ!」

「さっさと逃げないと、俺達も捕まっちまうよ?」

レイヴンの言葉に皆頷き、出口の歩行へ足を進める。

(エステル・・・・!)

ベリウスが姿を変えた『聖核』を腕に抱き、エステルはその場から動こうとしない。

「エステル!何をしているの?早く逃げるわよ!」

私はエステルのもとに駆け寄り、彼女の腕を掴む。

「嫌です・・・・私どこにも行きたくない・・・・!私の力やっぱり毒だった・・・!!」

自分の力のせいで、ベリウスを死なせてしまった。その後悔の念でエステルはその場から動けずにいた。

「助けられると思ったのに、死なせてしまった!救えなかったっ!!」

(エステル・・・・。)

私は悔やむ彼女にどう声をかけていいのか悩んでいると、私達に気付いたユーリが徐に己の剣で自分の腕を傷つけた。
加減なく、傷つけた彼の腕からは止め処なく血が流れる。

「何するんですか!?」

彼の行動に驚き、エステルが無意識に治癒術をかける。
すると、ユーリの傷はあっけなく塞がった。

「ちゃんと救えたじゃねぇか。」

「え・・・?あ、私・・・。」

「行くぞ二人とも!」

「・・・はい。」

そしてユーリは何事もなかったかのように、他の仲間達を追いかけて出口へと走っていく。
一連の行動を見ていた私は呆気にとられ、エステルに声をかけられるまでその場に立ち尽くしていた。

(本当に、こういう時の彼は大胆で、関心するわ。)

悔やむエステルにどう言葉をかけていいのか思いつかなかった私。
それに比べ、彼は言葉ではなく態度で示した。
そんな些細な彼の行動が、人として、1人の男性として素敵だと思ってしまう私は、すでに彼の手中にはまっているのかもしれない。







騎士団から逃げるため、私達は港へとやって来た。
そこで船に乗り、海へと逃げる計画だ。
途中レイヴンが姿を消したが、いつもの事だと仲間達は特に気にしていない。
船が停泊している港に繋がる長い下り階段を下った時、目の前に金髪の空色の鎧を身にまとった、1人の騎士が私達の行く手を阻んだ。

「エステリーゼ様と、手に入れた石を渡してくれ。」

感情の読み取れない、淡々とした口調で金髪の騎士、フレンが告げる。
今日は新月の夜、という事もあり、辺りは暗く彼の表情も伺う事はできない。

「フレン・・・・どうして『聖核』の事を・・・。」

彼の指し示す石を抱えなおし、エステルが複雑な表情を浮かべ問いかける。

「騎士団の狙いもこの『聖核』ってわけか。」

皮肉を込めた口調でユーリがフレンに投げかける。

『聖核は人の世に混乱をもたらす、エアルに還した方がいい。』

その時、デュークの言葉が頭を過ぎる。
ギルドと騎士団が求める『聖核』の存在・・・。
しかもそれはベリウス・・・・『始祖の隷長』の死と共にこの世に姿を現したもの。

『アレクセイが巨大鳥の死骸を欲しがってるんだよ。口惜しいげど僕は命令通り仕事をこなしているにすぎない。』

巨大鳥・・・・それはフェローを示す言葉。
フェローは『始祖の隷長』だった。
つまりフェローも死ねば『聖核』に変わると言う事。

(だから、アレクセイはフェローの死体を欲しがった。)

フレンに足止めをされてるうちに、後方から彼の副官と、長い杖を持った幼い少年がが私達の逃げ場を塞ぐ。

「渡してくれ。」

再度フレンは『聖核』を渡すよう告げてきた。
しかも今度は、剣の柄を握り臨戦態勢の状態で、だ。

「うそ!?本気??」

それに驚き、カロルが声を上げる。

「お前、何やってんだよ。」

緊迫した空気の中、ユーリが一歩前に出てフレンを睨みつける。

「街を武力制圧って冗談がすぎるぜ。任務だかなんだが知らねぇけど、力で全部抑えつけやがって・・・・!」

そのままユーリはフレンへと更に近づく。
後方では、副官のソディアがフレンに指示を仰いでいる。
だが、フレンは口をきつく結んだまま話そうとはしない。

「それを変えるために、お前は騎士団にいんだろうが!こんな事俺に言わせんなっ!お前ならわかってんだろ!!」

「っ・・・・。」

「何とか言えよ・・・・これじゃ俺らが嫌いな帝国そのものじゃねぇか!!ラゴウやキュモールにでもなるつもりかっ!!」

「ならっ!僕も消すか?ラゴウやキュモールのように、君は僕を消すというのか?」

今まで口を閉ざし、感情を見せなかったフレンがここで初めて怒気を含んだ声で返してきた。
その瞳は、彼の複雑な感情を現すかのように揺らいでいる。

「お前が悪党になるって言うならな。」

「ダメよ、ユーリ!」

今まで黙って二人の会話を聞いていたが、また、自分の手を汚す道を選ぼうとする彼に居た溜まれず、つい私は彼らの前に出た。

「こんな所で話し込んでいてないで、急ぐんじゃないの?」

私は熱くなるユーリをいさめ、フレンへと視線を向ける。
すると、彼は驚いた表情で私を見下ろしていた。

「何故・・・・あなたがココにいるんですか?」

彼の口ぶりからいって、私が誰なのか気付いてしまったのだろう。
仲間達がこの隙に、と船へと向かう中、私とユーリはその場に留まっていた。

「フレン・シーフォ。あなたは帝国騎士?それともアレクセイの駒?」

「!?」

ハッとしたように、私の言葉にフレンが目を見開く。

「きさま・・・・隊長になんて口を!」

侮辱的な私の発言に、副官のソディアが怒りを表す。

「いいんだ、ソディア。」

それをフレンがいさめるが、視線は私に向けたままだ。

「僕は・・・・いえ、私は帝国騎士です!」

ハッキリと、そう答えた彼に微笑みを向け、私は「そう。」と一言呟いた。
そして、私達のやり取りを静かに見ていたユーリへと振り返り。

「ユーリ、私はここでお別れよ。今まで有難う。皆にもよろしくね。」

彼の手を取り、できるだけ笑顔でお別れの言葉を口にした。

「また、会えるんだろ?」

「えぇ、また会いましょ。」

そして、取った手を握り返したユーリが、私を引き寄せ強く抱きしめる。
人と人との出会いは一期一会という言葉がある。
もしかしたら、このまま別れたらもう2度と会えないかもしれない。
そんな思いが急にこみ上げてきて、私は彼の体温を忘れまいと強く抱き返した。

「ユーリ!ロゼ!」

なかなか来ない私達を呼ぶカロルの声が聞こえた時、不意にユーリが私から体を離し、そのまま仲間達が待つ船へと走って行った。
ユーリの後ろ姿を見送りながら、私は改めてフレンへと振り返る。

「いろいろ聞きたいことがあるのはお互い様だと思うわ。」

「そう・・・・ですね。」

「そうだわ、まず自己紹介からやり直しましょう。」



私の名前は----・・・。




第2章につづく・・・。

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