「リタ!相手の弱点を知りたいわ!火属性から順に魔術を敵にぶつけて!!」 「わ、わかったわ!!」 「ジュディスを軸に、ユーリ、ラピードで敵を引き付けて!」 「了解!ラピード右に回れっ!」 「ワォーン!!」 「じゃ、私は正面ね。」 「エステル、カロル、レイヴンは援護を!負傷した仲間を優先的に治癒していって!!」 直感でわかる。 この敵は危険だと。 灼熱の砂漠を長時間歩き続けた事で、仲間達の体力もほとんど残ってはいない。 戦うにしても、限界がある。 なるべく体力を消耗しないよう、弱点を付きながら効率よく戦いたい。 「ダメッ!今度は火属性を吸収し始めた!!」 弱点を付くように連続的に攻撃を仕掛けると、学習をするのか、今度はその属性魔術を吸収し始める。 リタが、次の攻撃プランを考査している隙に、敵が大技を仕掛けてきた。 (マズイッ!!) 「皆!避けてっ!!」 瞬時に警告の声を上げたが間に合わず、リタとカロルが敵の攻撃を受け、砂地に体を強く打ち付ける。 「今、回復します!」 体制を整え、エステルが二人に駆け寄り、治癒術を唱えようとした時、更なる追い討ちをかける様に連続攻撃を仕掛けてきた。 何とか、敵の攻撃を回避し、回りを見渡せば 私とユーリの以外の仲間たちは、灼熱の砂地に体を横たえ気を失っていた。 「ロゼ・・・・大丈夫か?」 「何とかまだ・・・・戦えるわ。」 尋常じゃない暑さに加え、飛行する敵を相手に、体力の消耗が激しい。 戦闘時、常に余裕をみせるユーリだったが、その額からは止め処なく汗が流れ、歪む表情から消耗の激しさを窺わせる。 そんな私も、体力は既に限界に近かった。 汗の量からして、軽い脱水症状にも似た眩暈を感じ初めていた。 (ここは・・・・覚悟を決めるしかなさそうね・・・。) 私は剣をその場に捨て、ユーリへと視線を向ける。 「ユーリにお願いがあるの。」 「何だ?」 「私が今の力全てを使いきって、敵の動きを止める術を発動させるわ。発動と同時に、ユーリにはその隙に敵を倒して欲しいの。」 「はは・・・・、それはまた責任重大だな。」 「二人で時間をかけて倒すより効率がいいと思うの。頼むわよっ!」 「任されたっ!!」 私が詠唱の準備に入ると同時に、ユーリが敵に飛び込んで行く。 正直、今発動しようとしている術は、体力消耗が激しく、なるべく使用を避けたかったが、仲間達の命がかかっている。 負けるわけにはいかない。 詠唱に集中し、頭の中で術式を組み立てていく。最後の一章節を唱え終わった時、自分の周りに浮かぶ術式を見て、成功の確信を得る。 「ユーリ!行くわよ!!」 私の合図を聞き、敵から距離をとるユーリ。 『ストップフロウ』 最後に術名を唱えた所で、私の意識が途絶えた。閉じていく視界の隅で、私が発動した術式により動きを止める敵が見えた。 そして電光石火の如く、ユーリが敵へ攻撃をくらわせ、敵がその場から姿を消す。 (よかった・・・・倒せたんだ・・・・。) 最後、自分を呼ぶユーリの声が聞こえた気がしたが、私はそのまま意識を手放した。 * ふんわりとした暖かい所にいた。 周りを見渡しても何も無く、ただ薄明かりの空間にぼんやりと私が佇んでいた。 ここはどこなんだろう?天国へ繋がる道なんだろうか? そんな事をぼんやりと考えていた時、急に強い光りが私を照らした。 『ロゼ、またこんなに汚して。土いじりはやめなさいって言ったでしょ?』 眩しさに、目を閉じた時、懐かしき母の声が意識の中に流れてきた。 『ごめんなさい。母様。』 『はは、そんなに怒る事じゃないだろ。お花を育てていたんだよな、ロゼ。』 そして幼き自分の声と、また懐かしい父の声。 『ロゼ・・・・自分が正しいと思うことをしなさい。父さんはいつまでもロゼの見方だよ。』 ぼんやりとした視界の中に、優しい父の笑顔が浮かぶ。 そうか、ここはきっと天国なんだ。 あの戦いで自分は命を落とし、父様と母様がいる天国に来たんだ。 そう思い、優しく手を差し伸べる父の手を取ろうとした時。 『それで、ロゼはこれからどうするんだ。』 後方から聞き慣れたある人物の言葉が耳をついた。 『正体がバレて、帝都に帰るのか?』 (・・・・ユーリ・・・?) 『俺の側から、消えるのか?』 そうだこの声はユーリだ。 ユーリが私を呼んでる。 そう思った時、ぼんやりとした視界が晴れて、眩しい光りで目の前が一杯になった。 * 「う・・・ん。」 「ロゼ、気が付いたか?」 思わず眩しい光に、あけようとした視界を再び閉じる。 目を擦ろうと、動かそうとした右手にはしっかりと自分より一回りも大きい拳で握れら、動かす事が出来なかった。 はっきりしない意識のまま、自分の手を握る人物の方へ頭を動かす。 「あまり無理はするなよ。今水を持ってきてやる。」 そう言って手を離し、その人物は部屋を出て行った。 (ユーリ・・・?) だんだんはっきりとしてきた意識で、今自分が置かれている状況を確認する。 見慣れないベッドに寝かされていた私は、そのまま視界を右へ移動させ、さらにベッドが3つ並んでいることを認識する。そこには、リタとカロルがすやすやと眠っていた。 (たす・・かったの?) そこまで状況を確認し、意識が途絶える前の出来事を思い出す。 魔物かも不明な、謎の生命体との戦いに勝利した後に、ユーリが皆をこの場所まで運んできたのだろうか? いや、彼もかなり体力を消耗していた。 いくらなんでもラピードも入れて、7人もの人間をマンタイクまで運べたのだろうか? そこでふと、再度周りを見渡す。 昨日お世話になったマンタイクの宿屋と内装があまりにも違う。 それに、砂漠独特暑さも今は感じられなかった。 (マンタイクじゃ・・・ない?) そう確信した時、部屋の扉が開く。 「気分とか悪くないか?」 トレイの上に、水の入ったコップと、何種類かの果物が乗った皿を乗せたユーリが戻って来た。 「大丈夫よ。チョットふらつくくらい。」 「水と果物を貰ってきたから、食べろよ。」 ゆっくりと上体を起こそうとした私の背中をユーリが支え、起き易くしてくれた。 ユーリから水の入ったコップを受け取り、私はそれを少しずつ体内に流し込んでいく。 乾ききった体に水分が吸収されていくのを感じながら、先程の疑問をユーリに投げかける。 「ココはどこなの?皆は無事なの?」 「実は俺もついさっき目が醒めて、いまいちココがドコなのかわかんねぇんだが・・・・取り合えず、皆無事だ。」 どうやら、ユーリもあの後意識を無くし、気が付いたらこの街にいたという。 「今、レイヴンとラピードが情報収集にまわってる。アルフとライラの両親も無事だ。」 「そう、よかったわ。」 私は皆が無事であった事に安堵して、自然と笑みがこぼれた。 「よかった、じゃねぇよ。俺がどれだけ心配したか・・・・。」 「あら、心配してくれたの?」 「おまえなぁ・・・。」 「う・・・・ユーリ?」 ユーリとそんなやり取りをしていると、私達の話し声で起きてしまったのか、カロルが目を覚まし、その後リタも目を覚ました。 * 「どうやらココが『ヨームゲン』って街らしいぜ。幽霊船の日記にあった。」 全員が目を覚ました所で、情報収集に出ていたレイヴンとラピードが戻って来た。 そこで聞かされた街の名前を聞いて、仲間達はあまりの偶然に目を丸くした。 「おかしいわね。砂漠の巨山部は無人地帯だって聞いた事があるんだけど・・・・。」 砂漠に詳しいジュディスが、地形から判断し、ここが砂漠東部にある巨山部である事はわかっていた。 更に詳しく街について情報を集めようと、私達はお世話になっていた宿屋を出る事にした。 「変ね、ココ結界が無いのね。」 空を見上げながらリタが呟く。 「結界無しで暮らしているなんて妙だな。」 同じようにユーリも空を見上げながら呟いた。 人が住む街には必ず、その街を守る『結界魔導器(シルトブラスティア)』がある。 正しくは結界魔導器があるところに街が出来る訳だが・・・・魔物から人々を守ってくれる結界無しに、ココの人々はどの様な生活をおくっているのか・・・・。 私達は更に情報を得るため、街の奥へと進んで行った。 「その箱・・・。」 丁度、街の中間あたりに来た時に、一人の少女が私達に声をかけてきた。 「この箱について何かご存知ですか?」 幽霊船の日誌に書かれていた街、と言う事でその時に持ってきた『紅の小箱』についても何かわかるのではないか、とエステルが大事に小箱を胸に抱いて持ち歩いていた。 「その箱はロンチーが持っていた・・・・それをドコで?」 ロンチーと言う名前に、私達はこの小箱について知っている者と確信した。 何故なら、あの船の船長の名前と一緒であったからだ。 「アームセルム号って船ですよ、美しい方。」 それまでダラダラと私達の後ろを歩いていたレイヴンが、さっと前に出て、今まで聞いた事もない凛々しい声で少女に話しかけていた。 (男の人って・・・。) 私は半軽蔑するような目で、レイヴンを眺めながら少女の返答を待った。 「!ロンチーに会いませんでしたか?私の恋人なんです!」 アーセルム号と言う名前を聞いた瞬間、少女の表情はパッと明るくない、おっとりとした話し方から、まくし立てるような早口へと話し方が変わった。 「あ、すみません急に・・・・・私ユイファンといいます。」 そこでさらに思い出す。 『ヨームゲンの街に、ユイファンの所に澄明の刻晶(クリアシエル)を届けなくては・・・。』 アーセルム号の日誌に書かれていた、ロンチーの言葉だ。 「あなたがユイファンさん・・・。」 恋人、と言う単語を聞いて、意気揚々と前に出てきたレイヴンは、あっさりと後退し、代わりにカロルが箱を見つけた経緯を話す。 もちろん、彼女への配慮を考え、その船にあった白骨死体の話はせずに。 「この澄明の刻晶って何ですか?」 箱をユイファンに渡しながら、エステルが皆が思っていた疑問について訊ねる。 「魔物を退ける物、と伺っております。結界を造るのに必要なものだと『賢人(さかびと)』様が仰っていました。」 箱を受け取ったユイファンは、スカートのポケットの中から一つの鍵を取り出し、箱にあった鍵穴にそれを差し込んだ。 カチ、と言う鍵が回る小さな音がした後に、ゆっくりと箱の蓋が開けられ、その中身が露になる。 「これが澄明の刻晶。」 中身を取り出し、それをエステルに渡すユイファン。 大きさは、少し小さめのメロン程の大きさで、鉱石のような石を模していながら透明であり、深い碧色の光りを放つ、不思議な石だった。 「結界を造るって事は、魔導器を造るって事よね?」 リタが先程の話から感じた疑問を、ユイファンに伝える。 「ブラス・・・ティア?さぁ・・・私にはよく・・・・とにかく結界を造るには澄明の刻晶が必要だと、賢人様が仰ったんです。」 ユイファンによると、その賢人様は砂漠の向こうからきたクリティア族の偉い方で、今は街の一番奥にある大きな屋敷に住んでいると言う。 私達は、その賢人様に話を聞く為に、賢人様が住んでいる屋敷に向かう事にした。 「何か引っかかる様な・・・・・。」 「ロゼもか?」 ユイファンの話を聞いて、幽霊船の謎が解けたような気がしていたが、よく考えると、何かがズレている様な・・・。 「あれって千年前の話・・・・だったよな?」 一人悶々と悩む私の隣で、ユーリが疑問の種を言う。 「そうよ!千年前の・・・・あれ?じゃぁユイファンは千年前の人?あれ?」 「まぁ、それも含めて賢人様とやらが答えてくれるかもな。」 やっぱりココは天国? そんな嫌な予感を抱きながら、私達は賢人様の屋敷へと到着した。 そして、この屋敷で出会うある人物の口から、私は父の死の真相を聞く事となる。 第15話につづく・・・・。 [*prev] [next#] |