「ラピード!あの黒髪ロン毛野郎を捕まえて!」 [ 13/20 ]

ユーリが私の事を好き?


そんな訳ないわ。
ユーリの歳は21歳で、私より3つも歳が違うのよ。
年上の女より、エステルやジュディスみたいな、若くて可愛らしい女の子の方がいいに決まってる!
だって・・・・。
ユーリは、背が高くて、それなりにカッコイイ顔だし、性格だって男らしくて皆に頼られて、優しくて・・・・。

モテないはずがないんだからっ!
きっと何かの間違いよ!うん。
私、勘違いしちゃ駄目よ。冷静に、冷静に・・・。


「ロゼ・・・ロゼったら!」

「えっ?何!?」

急に右腕を掴まれ、体が後ろに倒れそうになる。驚き、腕を掴んだ犯人であるカロルを見下ろすと、怪訝そうな表情で、私を見上げていた。

「水筒に水を汲むだけだよ。何で湖の中に入ろうとするの?」

そう言われ、自分の足元を見ると、あと少しで湖の中に左足が入る寸前だった。
私達は、昨日お世話になった宿屋の店主から、砂漠に行くための準備品として、一人一つ、水筒を貰っていた。
そして、その水筒に水を汲もうと街の中にある湖まで来ていたのだが・・・・昨日の出来事について考えていて、まったく周りが見えていなかった。

「あっ・・・・チョット考え事してて足元見てなかったわ。ごめんなさい。」

「大丈夫?これから砂漠に行くんだよ?」

心配そうに覗き込んでくるカロルに、心配無いと伝えようとしたら、後方から「くくくっ」と笑う声が聞こえた。
「気をつけろよ、ロゼ。何考えてたか知らないけどな。」
そこには、既に水を汲み終わったユーリが、ニヤけた表情で笑っていた。その余裕な態度に、あれこれと悩んでいる自分が馬鹿らしくなったと同時に、ユーリに対し怒りが込上げてきた。

(何で私、こんな年下の男に振り回されなきゃならないのっ!)

「ユーリ・・・・チョット顔貸しなさい。殴ってやるから・・・・!!」

「おぉ、怖い顔だぞロゼ。それじゃ嫁の貰い手もないんじゃないか?」

「余計なお世話よっ!!」

怒りのままに私はユーリへと駆け出していた。
もちろん、拳を振り上げながら。
それをユーリはいとも簡単に避け、ケラケラ笑いながら逃げて行く。

「絶対!絶対!殴らせろぉーーーっ!!」

意地になって私もそれを追いかけた。

「ねぇ・・・・何あれ。」

そんな私達の様子を遠めで見ていたリタが、呆れながら呟く。

「青春ってヤツじゃない?」

両手を頭の後ろで組んで、ニヤけた表情で答えるレイヴン。

「そうですね。青春です。」

自分の水筒のキャップを閉めながら、エステルが微笑ましいものを見るような眼差しで言う。

「青春って・・・何?」

「青臭い事を言うんじゃないかしら。」

リタと同じように、呆れた表情のカロルが呟くと、ジュディスがそれに答える。

「ラピード!あの黒髪ロン毛野郎を捕まえて!」

「ワォーン!!」

「チョッ!ラピード使うの反則だろっ!?」

私がラピードに声をかけ、ユーリを挟み込む。
予想外のラピードの参戦に、バランスを崩し、隙が出来たユーリに、その拳を顔面に叩き込んだ。

「ふぅ・・・・少しスッキリしたわ。それじゃ、水筒に水を汲まないと。」

左頬を押さえ、倒れこむユーリの隣で、今の追いかけっこで吹き出た汗を拭いながら、私は水場へと戻る。

「マジで殴りやがった・・・・・。」

苦痛に耐えるユーリの隣では、ラピードが心配そうに鼻声を鳴らして慰めていた。

「何したか知らないけど、嬢ちゃんは繊細なんだから、あまりオイタはしない方がよっくてよ。」

レイヴンが近寄り、小声でユーリに言葉をかける。

「まぁ、いい思いした代償は大きいって事で。」

「ヤだよー!離してよー!!」

その時、どこからか子供の叫び声が聞こえ、真っ先にユーリが駆け出して行った。





「外出禁止令を破る悪い子供は、執政官様に叱って頂かないとな。」

「イヤだ!僕達はお父さんと、お母さんを探しに行くんだ!!」

二人組みの騎士が、幼い二人の兄妹の腕を掴み、力任せに、どこかへ連れて行こうとしている。

「執政官様とやらに代わって、俺が叱っといてやるよ。」

そこへ、騎士の進路を阻むように立ち塞がるユーリ。

「よそ者は口出しするな!」

「許してあげて下さい。私がこの子達にかわって執政官に頭を下げます。」

ユーリを押しのけ、先へ進もうとした騎士は、凛としたエステルの言葉に動きを止めた。

「あなた様は・・・・もしや・・・・。」

二人の騎士は、エステルの存在を確認すると、頭を下げ、その場から立ち去って行った。

「もしかして・・・・不味かったでしょうか?」

今は身分を隠して旅をしている手前、それを利用した結果となってしまった事を気にするエステル。

「結果オーライだな。」

エステルとは対照的に、ユーリは気にするも無く二人の兄妹を見下ろす。

「ありがとう!お兄ちゃん、お姉ちゃん!」

助けてくれた二人に感謝を述べる少年。
そこへ、遠めから様子を伺っていた私達はゆっくりと彼らに近づく。

「坊や達お名前は?」

兄妹に目線を合わせ、優しい笑顔でエステルが問う。

「僕はアルフ、妹がライラって言うんだ。」

兄のラルフが元気よく答え、妹のライラはそんな兄の影に隠れ、不安そうな眼差しで、私達を見上げている。

「お父さんとお母さんはどうしたの?」

エステルに習うように、私も二人の前にしゃがみ目線を合わせ話かけた。

「んーとね、執政官様の馬車に乗せられて砂漠に連れて行かれちゃった。フェローの調査をするんだって。」

「フェロー・・・って!」

エステルが驚きの声を上げ、ユーリを見る。

「でも、フェローの調査って何する気よ?」

「そうだよね。しかも街の人を利用にてって事だよね、それって酷くない?」

レイヴンの疑問に、カロルが少し怒り気味に答える。
フェローは、エステルの命を狙った大きな鳥の魔物で、人の言葉を話すと言う。
彼女は旅の目的は、フェローに会い何故自分の命を狙うのかそれを知る事だ。
長年、騎士に在籍していながら私はその様な魔物を見たことが無かった。

(エアルクレーネの暴走と何か関係しているのかしら・・・・?)

そして、ふとカドスの喉笛で会った魔物を思い出す。
あの時の魔物は、己の口でエアルを吸収していたように見えた。
つまり、エアルを吸収する事で、己の体を巨大化させ、さらに進化すれば人の言葉を話せるようになるのでは?

「・・・って事でいいよね?ロゼ。」

「へっ!?」

己の仮説について考え込んでいた私は、皆の話が耳に入っていなかった為、何について同意を求められたのか理解が遅れた。

「ロゼ・・・・また一人で考え事?」

怪訝な表情で、カロルが私を見上げる。

「ご、ごめんなさい。」

「アルフとライラのご両親を私達が探してあげましょう、って話よ。」

慌てて謝る私に、ジュディスが優しく話の内容を教えてくれた。
どうやら二人の幼い兄妹は、フェローの調査の為に、砂漠へ連れて行かれた両親を、自分達で探しに行こうとしていたらしい。
内容を理解した私は、それに同意し、兄妹と別れ仲間達とコゴール砂漠へ向かう事にした。

「どうかしたの?」

皆とは少し離れて歩いていたユーリに、声をかける。

「いや、ココの執政官は何を企んでいるんだろうってな。フェローを探したりしてさ。」

「確かに・・・そうね。それに、帝国がベリウスを捕縛に乗り出したって言う情報も気になるわ。」

昨日お世話になった店主から聞いた話によると、以前のマンタイクには執政官など居なかった。
帝国が『戦士の殿堂(パレストラーレ)の統領ベリウスを捕縛に乗り出し、その波紋でマンタイクに新しく執政官が赴任してきたと言う。

(ベリウスが人魔戦争の裏で糸を引いていた・・・って言う情報も気になるわ・・・。)

10年前、人と魔物が戦った『人魔戦争』。
人の勝利で終わったが、この戦争にはわからない事が多い。
争いの発端は何だったのか。
何故、人と魔物が戦ったのか。

(父様も戦いに参加していた・・・そしてアレクセイも・・・。)

「取り合えず、アルフとライラの両親を探す事が先だな。」

考え込む私の頭をユーリが優しく撫でる。
驚いて、彼を見上げると優しい笑顔があった。

「さっきはごめんなさい。殴ったりして。」

彼の少し赤くなった左頬を見て、気付くと謝罪の言葉が口をでた。

「あ〜ホント痛かったなぁ〜・・・。」

「だから、ごめんなさいって言ってるでしょ!」

「ロゼがキスしてくれたら直るも。」

殴られた左頬を指差しながら、ユーリが意地悪な顔で言う。

「調子に乗らないの!」

それを見て、さっきの罪悪感は吹っ飛び、再び私はユーリの頬に鉄槌をお見舞いした。

「イッテぇーーー!!」

「おっさん・・・青年がマゾだったなんて知らなかったわ。」

「馬鹿っぽーい。」

そんな私達の様子を、呆れ顔の仲間が見ていた。



ピィィーーーッ。
コゴール砂漠の入り口に来た所で、鳥の鳴き声が遠くから聞こえてきた。

「今の、フェロー?」

エステルが真っ先に反応する。

「やっぱり、フェローはこの砂漠に居るんだ!」

カロルが汗を拭いながら空を見上げる。
コゴール砂漠に着いてから、一気に気温が上がった様に感じる。
一面砂漠の海。影は一つも無く、あるとしたら水分を蓄えたサボテンのみ。
このサボテンを生かし、水分補給をしながら先へ進む。

「フェローも気になるけど、まずはあの二人の両親よね・・・。」

いつもの元気はドコへやら、リタが消えそうな声で皆に話しかける。

「取り合えず、先へ進むぞ。」

ユーリの号令のもと先へと足を踏み入れた。





「ねぇ、あそこにいるのって・・・!」

砂漠を大分進んだ時、砂の中に埋もれている二組の男女をカロルが発見する。
エステルがすぐに治癒術をかけ、気がついた二人はユーリと私が渡した水筒から、勢いよく水を飲み干した。

「ぷはぁ〜!生き返るな!!」

「えぇ、潤ってきたわ〜。」

水分を取った事で、元気を取り戻した二人の話を聞き、予想通りアルフとライラの両親である事を確認する。

ピィィーーーーッ。

無地に両親を見つけだす事ができた安心感が、仲間達を包んだ時、ドコからかフェローと思われる鳥の鳴き声が聞こえてきた。

「近くない?」

「この先みたいねぇ。」

カロルとレイヴンが、さらに奥に続く道を見つめながら呟く。

「ようやくご対面か。干からびるとこだったぜ。」

ラピードが先に足を踏み出し、ユーリがそれに続いた。

「お二人も一緒に。」

不安がる夫婦を安心させる様に、優しくエステルが声をかける。

「つかず、離れずにでな。戦いになったら邪魔になる。」

遠慮なく、ユーリは夫婦に告げる。
皆緊張していた。
私はフェローを見ていないから、どんな魔物なのかわからない。
だが、彼らの緊張感からとんでもなく強い魔物だと言う事は想像できた。

ピィィーーーーッ!

「何かおかしいわ・・・・気をつけて。」

声がする方へ大分近づいて来た時、鳴き声が少し変わった。
それをすぐに感じ取ったジュディスが皆に警戒するよう注意をする。先頭を歩いていたラピードが、急に立ち止まり、低い呻り声を上げて威嚇し始めた。

「フェローじゃない?」

「あぁ、声の調子が変わりやがった。」

場の変化を感じ取ったエステルが、声の主がフェローでは無い事に気付く。
それはユーリも同じだったようだ。
そして次の瞬間、何もない空間からいきなり魔物が姿を現した。
その姿は、生き物と言う概念から外れた異様な姿をしていた。
丸い胴体部分と思われる構造に、羽らしき両腕でもって、鳥の様に宙に浮遊している。
そして、その異様な生き物には目や、口などは無く、前後まったく同じ姿形をしていた。

「何!?気持ち悪いっ!」

魔物の姿を見て、リタが我慢できず叫ぶ。

「あんな魔物・・・・僕知らない!!」

恐怖のあまり、カロルは震えだした。

「魔物じゃないわね、あれ。」

「魔物じゃないなら何よ!?」

冷静に分析をするジュディスに、レイヴンが問う。

「ワン!ワン!ワン!」

「ラピードがビビルなんて・・・・ヤバそうだな。」

後ろに後ずさりながら、ラピードが懸命に威嚇の声を上げる。

それを見て、ユーリが剣を構えた。

「お二人は離れていて下さい!」

怯える夫婦に私は声をかけ、ユーリに習い、鞘から剣を抜いた。
夫婦が駆け出したと同時に、魔物らしき生き物が私達に襲い掛かってきた。

「チッ、やるしかねぇって事だな!」

ユーリの号令で、皆が一斉に各々の武器を手に取る。
そして私達は、今だかつて戦った事のない強敵と対峙する事となる。



第14話につづく・・・・。

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