暗い沼の底で、声が聞こえた。
『――やっと私の声が直接届くようになったわね。良い兆候だわ。私とあなたを混同していない証拠よ。え? 私が誰だかわからない? …いずれわかるわ』
『――こうなることは、最初から決まっていたの。でも現実には中々上手くいかなくてね…何度も実験を繰り返して、やっと理想通りの結果が得られそうなのよ。何がって? …あなたのことよ』
「―――」
『そうね。あなたがそう思うのは無理のない話。でもいずれ何も感じなくなるわ。そんな些細なこと。そう、全ては些細なことよ…』
『そうそう、あなたはあの言葉の意味を知りたがっていたわね。聞かせてあげましょうか。まだ全部をものにするには足りないところだけれど、今のあなたでもこれくらいは理解できるはずよ。…さぁ、耳を澄ませて。
彼の地、選ばれし者のみが入ることを許される、 その者、天理天道に触れ、 真なるものを手にするだろう それは理外の理、■■■への理 それは力、■■■へ至る王権 そして、賢者は語る 全てに於いて意味があり 凡てに於いて忌みが明ける
…わかった? そう、良い子ね』
『折角こうして話が出来るようになったところで水を差すようだけれど、目が覚めたらいつも通りよ。私の声も、話した内容も全て忘れてしまう。でも、そんなこと日常茶飯事でしょ? あなたにとっては。相手があなた自身か、そうでないか、その違いよ』
『…それで良いのよ。今はまだ、その時ではない』
その声を最後に、急速に世界が改変した。
>>epilogue |