LINK VRAINS崩壊の危機から一夜が明けて。わらしはももえとジュンコに、遊作と付き合うことになったことを報告した。
「まぁ、おめでとうございます」 「結局収まるところに収まったね。ま、良かったわ」 「ありがとう。二人には、何かと助けてもらったよね。ほんと感謝してる」
わらしがお礼を言うと、二人は心から祝福してくれた。
「でも、どうして昨日なんですの? 昨日はLINK VRAINSが大変な危機にあって、LINK VRAINSのみならずネットワーク世界の一大事でしたのに」 「いや、まぁ…、危機が二人を結び付けた的な?」 「はぁ?」 「…とにかく、色々あってね?」
二人の馴れ初めは絶対に言えないな、とわらしは思った。
「いやホント、昨日のPlaymakerは凄かったんだって! スピードデュエルでは引き分けたけど、その後のマスターデュエルであのリボルバーを倒したんだぜ!? さすが俺の親友! …ま、藤木はどーせ見てなかったんだろうけど」 「…そうだな」
体育の授業が始まる直前。グラウンドにて、昨日のPlaymakerの活躍を熱弁する島に、遊作は興味なさそうに相槌を打っている。そこへ、移動教室の為通りかかったわらしが声を掛けた。
「遊作くん!」 「……わらし」
遊作と島が振り返ると、友人と一緒にいたわらしが手を振っていた。 わらしの登場に島が驚きの叫び声を上げる。
「え、えええええ!? 屋敷先輩!? な、何で藤木なんかに…!?」
混乱する島を無視して、遊作が尋ねる。
「移動教室か?」 「うん。遊作くんは体育だよね。がんばって!」 「…ほどほどにするさ」
首に手をあてて、ちょっと面倒くさそうに答える。今日も日差しは強い。
「わらし、行くわよー」 「あ、待って。今行く! それじゃぁね、遊作くん」
ばいばい、と手を振るわらしに応答するように、遊作も軽く振り返す。 小さくなっていくわらしの背中を見送って、振り返れば。島が凄い形相で遊作を見ていた。
「おい藤木! 今の一体何なんだよ! 何で屋敷先輩がお前に話しかけたりしたんだ!? しかも屋敷先輩のこと名前呼びで! ま、ままままさかお前…屋敷先輩と付き合ってるとか言わないよな!?」
鼻息を荒くして問いただす。その顔は興奮して真っ赤に染まっていた。 遊作は少し考えてから、相変わらず面倒くさそうな顔をして答えた。
「さぁな」 「さぁなって、何だよそれー!!!」
放課後。わらしと遊作が二人で帰路を辿りながら、少しずつ互いのことを話していた時のこと。遊作がわらしに尋ねた。
「わらし。この後時間あるか?」 「え? うん。大丈夫だけど」 「なら、一緒にCafé Nagiに行ってくれないか? …草薙さんにわらしのこと、ちゃんと紹介したいんだ」 「草薙さんに?」 「…ダメか?」
わらしの反応を気にして、少しだけ不安そうにする遊作。その表情は、年相応の恋する青年のものである。 そんな遊作の姿に嬉しくなって、わらしははにかみながら了承した。
「嬉しい。遊作くんの大切な人に紹介してもらえるなんて」 「…別にそこまで大袈裟な話じゃない。草薙さんは、ただ、ずっと世話になってる人だから…」 「だからだよ。それって、遊作くんの世界に私が入っても良いってことだよね?」 「……もう入ってる」
照れ臭そうにそっぽを向く遊作に、わらしは微笑みかけた。
「屋敷わらしファンクラブ規則その1! 屋敷さんの迷惑になる行為は決して行わないこと! 自重して活動しないと、今度こそファンクラブが解体されることになるからな!」 「規則その2! 屋敷さんについて知り得た情報は、ファンクラブで共有すること! 絶対に抜け駆けは無しだぞ!?」 「規則その3! ………」
放課後の空き教室で、今日も今日とてファンクラブの会合が開かれていた。男たちの熱気溢れる異様な空間に、通りかかった生徒や教師までもが引き気味に通り過ぎて行く。野太い声が廊下の先まで木霊していた。 偶然そこを通りかかった陸上部の早乙女レイは、不審者を見る目で一言。
「何なの、あの人たち…」
デンシティ・ハイスクールは今日も平和のようだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『…ってことで、とりあえず、わらしと遊作のことはしばらく保留にして問題ないかな? ってボクは思うんだけど』 『異論はないな』 『“運命の扉”が閉ざされたのなら、何も問題がありませんからねぇ』 『この時代の“扉”の出現は、あれっきりにして欲しいものだ』
四征竜会議にて。ライトニングを始めとする征竜たちは、今までのわらしと遊作についての情報を共有・統合し、議論を重ねていた。 今後、如何にしてわらしを導き、遊作をどのような立場に据えるのか。二人をこのまま添わせて良いのか、という話が出た時、満場一致で静観することが決定した。
『次に“扉”が出現した際には、今度こそ書き換えが起こらないとも言えないが…』 『そうならないように導くのが、僕らの役目ですからねぇ。特にライトニング、この時代における君の責任は重いですよ。どうか頑張ってください』 『異論は』 『認められるはずがないだろ』 『……何かスッゴク損した気分』
他の征竜たちに言いくるめられ、ライトニングは不貞腐れた態度を取る。
『まぁ、今回何事もなく“扉”が消えたのも、お前の導きが良かったという証だ』 『次も期待していますよ』 『そうそう』
労われているのか、はたまた押し付けられているのか。 ライトニングは溜息を吐くと、面倒くさそうに頭を振った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…あれ? ラーイがいない」 「どうしたんだ?」 「何かカードの中に戻っちゃってるみたい。たまにあるんだよね、こういうこと。もう、いつも肝心な時に消えちゃうんだから。ちょっと、戻ってきてよ、ラーイ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『…呼んでいるぞ』
現実世界から呼ぶ声に、ストリームがライトニングを促す。ライトニングは呆れながらも四征竜の集いから離れ、現実世界へと向かった。その表情にはしかしどこか喜びが浮かんでいる。
『やれやれ、わらしにはボクがいないとホントだめなんだから』
カードを通してわらしの前に姿を現せば、わらしはやや不満げな様子で待っていた。
「もう、どこ行ってたの? ラーイのこと待ってたのに」 『わらしがボクを呼ぶ時って、いつも面倒くさいことに決まってるからね』 「む…」 『…で? 今回は何なの?』 「…ちょっと、この詰めデュエルで苦戦してて」 『遊作に聞けばいいじゃん』 「その遊作くんが出した問題なの。手伝ってよ!」 『……それってアリなの?』
相変わらず自分都合でラーイを振り回そうとしているわらしに、ラーイは首を傾げる。
「わらし、ライトニングに頼るのは無しだぞ」 「でも、遊作くんの考える詰めデュエルって難しくて…」 「自分で解かなきゃ、デュエルタクティクスは伸びない」 「うぅ…」
結局、わらしはラーイに頼らずに問題に取り組み始めた。時折遊作にヒントを貰いながら、四苦八苦する。 いくら現実のデュエルでは神がかったチートが使えても、カード一枚一枚の知識がなければ詰めデュエルは解くことができない。普段はコンボを意識せずともカードの方からアドバイスしてくれるので、詰めデュエルを解くことはわらしにとっては新鮮な試みだった。
「うーんと…《リビングデッドの呼び声》は、モンスターが場を離れても、それが破壊じゃなければ場に残り続けるから…」 「そうだ。それを利用して、《神炎皇ウリア》を特殊召喚する」 「でも特殊召喚に必要な表側表示の罠カードは三枚だから…、あ、もしかしてここで…」
『(……ボク、結局必要ないじゃん)』
二人が詰めデュエルに没頭している様子を眺めながら、ラーイは呼び出されたことが馬鹿らしくなった。 しかし、詰めデュエルを通じてあれこれと会話をするわらしと遊作を見て、今を生きる二人の未来を想像する。今度こそ、幸せな結末を迎えられるだろうか。運命を断ち切ることができるのだろうか。 願わくば、これから先も変わらずにあって欲しいと。
『(…仕方ない、もう少しだけ付き合ってあげるか)』
ライトニングは、二人の傍で見守っていた。
END
お疲れ様です。 一期沿いの話はここで終了です。 ここまで読んで下さりありがとうございます。 次からは一期〜二期の間のお話になります。 よろしければそちらもどうぞ。
2018.7.19脱稿 2018.8.1公開 >>その肌に触れたい |