わらしがディヴァインに勝った。巨大なエネルギーを放出していたエクゾディアの実体化が終わり、カードに戻っていく。 炎が消えた先には、ディヴァインが気を失って倒れていた。わらしはカードをデッキに戻すと、膝から地面に崩れ落ちた。支え合っていた遊作も一緒に。
「っ、はぁ、はぁ、……」 「大丈夫か…」 「うん、何とかね…。遊作くんは?」 「俺は平気だ」
遊作の返事を聞いて、安堵する。しかしいつまでもこの状況でいる訳にもいかない。 わらしは自分の鞄からデッキを取りだすと、《風征竜−ライトニング》を召喚する。実体化したラーイは小さな征竜だったが、今のわらしにこれ以上頼れる相棒はいない。
「ラーイ、お願い」 『任せて』
わらしに頼まれるまでもなく、ラーイはディヴァインに向かっていった。そして、彼の前で風を起こすと、あっという間にディヴァインの体が光に包まれる。一瞬の突風がディヴァインを吹き上げ、その姿はどこにもなくなった。 驚いた遊作が声を掛ける。
「あいつをどうしたんだ?」 「心配いらない…病院に送っただけ。どこか、遠い異国のね」 『目覚めても何も覚えていないかもしれないけど、それは仕方がないことだね』 「!」
ラーイはあっけらかんとそう告げた。わらしがデュエルで相手を負かすということは、こういうことだ。いたたまれずに視線を逸らす。
『わらし、カードを』
ラーイに言われて、一番上のカードをめくった。引いたのは、《恵みの雨》だった。
「魔法カードを発動」
わらしがカードをディスクに通すと、優しい光が遊作を包み、みるみる傷が癒えていく。
「これは…、これもサイコデュエリストの力なのか?」 『わー、スッゲー便利』 「巻き込んじゃってごめんなさい…。私にはこれくらいしかできないけど」 「十分だ。全部治っている」
遊作は自身の体を確認して頷く。しかしここで、わらしの傷は治っていないことに気付いた。
「あんたの傷は? なぜ治らないんだ。《恵みの雨》は、互いのLPを回復させる効果なのに…」 『あ、そういえば』
遊作の言葉に、わらしは少しだけ困った笑みを浮かべて答えた。
「残念だけど、私には自分の傷を癒す力はないの。誰かを回復させることはできるけど」 「えっ」 『じゃぁわらしちゃんはこのままってことか?』 「うん、まぁ」
わらしが肯定すると、遊作とAiはわらしを気の毒に思った。 けれど当のわらしには慣れたもので、「先月よりは全然マシだから」と言って明るく振る舞う。 それから、ディスクからカードを外すと、デッキを元に戻して遊作に返す。遊作は無言でそれを腕に嵌めた。
「あんたには、色々と聞きたいことがある」 「うん、」 「昨日のこと、そして今のデュエルについても。…俺のデッキに、エクゾディアは入っていなかった。それなのに何故、エクゾディアを引くことができたのか。それも初手の五枚で」 「うん…」
遊作の言葉に、わらしも心を決めた。顔を上げて真っ直ぐに遊作の顔を見る。
「全部話すよ、遊作くんには。私のこと、私の持ってる力のこと」
もう彼には何も隠さないでおこう。 わらしの気持ちは、いっそ清々しい程澄んでいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
場所を移してここはわらしの家。大事な話をするのに、屋外の、それも住宅街では相応しくなかったので、わらしが遊作を自宅に招いた。 「うち、すぐそばだからそこでもいいかな?」と尋ねられた時、遊作は知っているとは言えずに、「構わない」と答えるしかなかった。何故知っているのか聞かれたら、答えようがなかったから。
リビングに通して、二人掛けソファに座ってもらう。紅茶だけ出して、少し待ってて欲しいと言いわらしは寝室へと消えた。 初めてくる知り合いの、しかも異性の家に、遅ればせながら緊張とも言えない妙な気持ちが湧きあがる。Aiがしきりにリビングを見渡しては騒いだ。
『へー、ここがわらしちゃんの家かぁ。遊作んちと違って、何だかとっても雰囲気いいよなぁ。ザ・女の子の部屋ってカンジ〜』 「あまりキョロキョロするな」 『なんだよ、今ならわらしちゃんいないから見放題だぜ? あ。もしかして。遊作ったら、女子のうちに来て何もしないでいるとか、そんな聖人君主みたいなこと言っちゃう? オレならぜぇーったい何かないか探しちゃうもんね!』 「お前はクラスメイトの部屋を漁る男子学生か…」
遊作はあきれ顔で言った。 しばらくして、私服に着替えたわらしが、予備のデュエルディスクを携えてリビングに入ってきた。遊作の前のソファに座る。その足には真新しい包帯が巻かれていた。
「足、痛むのか?」
遊作が尋ねた。わらしは首を振って答える。
「ちょっとだけね。でも、こんなのすぐ治るよ」 『んー、でもそこだと不便だろ。歩く時痛そうだなぁ…。っていうかあのディヴァインとかいう男、ホント最低だな! 女の子の体に傷つけやがって!』
Aiがディスクから体を出し、プンプンと怒る。その可愛らしい姿に、わらしは思わず笑った。
「ありがとう、えっと…」 『あぁ、オレのことはAiって呼んでくれ』 「うん。よろしく、Aiちゃん」 『Ai…ちゃん……?』
ちゃん付けされたAiは変な顔になった。
「話を戻して良いか」
遊作がわらしがに問う。 わらしは頷いて、デュエルディスクにラーイを召喚した。実体化された小さな征竜に、遊作とAiに緊張が走る。それに苦笑して、わらしは言った。
「大丈夫よだ。この子を実体化したのは、この子がいた方が説明しやすいと思ったから。…ラーイ、挨拶して」 『改めて、初めましてだね。藤木遊作とそのAI。ボクは《風征竜―ライトニング》。まぁ気軽にラーイとでも呼んでよ』
まるで人の子のように自己紹介したラーイに、遊作とAiは驚かずにはいられなかった。
「さっきも思ったが、お前は喋れるのか…」 『そうだね。ボクたち征竜は、ドラゴン族の中でも人の言葉を操れる。キミのファイアウォール・ドラゴンは無理だけど、僕を通せば通訳できるよ』 『えーとさ、んでも、ちょっと待って。そもそもお前、カードなんだよな? カードが喋るなんてこと、あるのか? それも人間みたいに』
Aiがラーイを見て言う。人工知能らしい、もっともな意見だ。
『ボクたちデュエルモンスターズの精霊にも、心はあるよ。カードはボクたちの力の一部がこめられたものに過ぎない。カードを通じて、ボクたちは遥か昔から人と心を通わせてきた。…もっとも、現代じゃぁボクたちの声を聞ける人間はほとんどいなくなっちゃったけどね。わらしはその数少ない人間の一人だよ』
そう言うと、ラーイはすり、とわらしの顔に擦り寄る仕草を見せる。わらしも嬉しそうに表情を綻ばせる。
「デュエルモンスターズの精霊…そんなものが存在するというのか」 『そんな非科学的な話、オレには到底信じられねーぜ』
硬い表情をする遊作に、Aiが賛同する。科学の結晶である人工知能には、物理法則を無視した現象は受け入れがたい。
『でも、キミだって、似たようなものじゃない?』
ラーイがそう言うと、Aiは『オレの場合はちゃんと元にするプログラムがあってだな…』と反論しとうとするが、それを遮って遊作が口を開いた。
「さっきのデュエルで、サイコデュエリストがこの世に実在することを知った。にわかには信じられない話だが、そういった力が存在するのは、もはや否定できない。事実として受けとめるしかないだろう」 『まぁ、それ言っちゃったらそうかもしれないけど…』
遊作にもリンクセンスがあるしな、とAiもしぶしぶと納得する。
「それで、あんたがサイコデュエリストだということはわかったが、デッキに入っていないエクゾディアのカードを引き当てた理由は?」
遊作の言葉に、わらしはディスクにセットされたデッキをテーブルの上に置いた。
「一番上のカードをめくってみて」
わらしの意図を図りかねるが、遊作はその通りにする。カードは《嵐征竜−テンペスト》だった。
「元に戻して」
言われた通りにする。今度は、わらしが同じ操作をする。すると…
「!」 『な、ななな何で!』 「カードが変わっている…」
めくったカードは、《焔征竜−ブラスター》だった。
『え、オレたち今手品見せられたの?』 「残念ながら、種も仕掛けもない…私はカードを引いただけ」 『でも…』 「お望みなら、何度でもやってあげる。結果は変わらないでしょうけど」
わらしは苦笑しながら言った。わらしの言葉の真意を汲み取って、遊作は表情を硬くした。
「なるほど。これがあんたの言っていた‘イカサマ’ということか…」 『え? え? どゆこと…??』 「あんたには、望んだカードを引くことができる力がある。それがたとえデッキに入っていないカードでも」 『ええええ!?』 「…ラーイはこれを、シャイニングドローと言っていた」
『最強デュエリストのデュエルは全て必然。ドローカードさえもデュエリストが創造する。それがシャイニングドローだよ』
「この力のせいで、私のデュエルはデュエルにならなくなってしまったの」 『そりゃー、いつでも好きなカードを引き当てられちゃな。しかもデッキに入ってないカードでも引けちゃうんじゃ…』 「だがカードを引くこととプレイすることは別だ。エクゾディアのような特殊勝利条件を満たすカード以外なら、相手にもまだ勝機はある」 「…ところがそうはいかなかったのが、私の残念なところかな」 「何?」
わらしは《焔征竜−ブラスター》を掲げて言った。
「重なった熱き思いが世界を希望の未来に再構築する… リ・コントラクト・ユニバース」
次の瞬間、《焔征竜−ブラスター》は《瀑征竜−タイダル》へとその姿を変えた。カードが書き換わったのだ。
「!」 「この通り」
今度こそ種も仕掛けもない超常現象を目の当たりにして、遊作とAiは言葉を失う。
「既に手にしているカードまで自由自在か…」 『もう何でもアリかよ…』
Aiは脱力感一杯の声で呟いた。
「問題なのは、これらの力が私の意思と関係なく発動してしまうということ。自分が不利な場面で『あのカードが今手札にあったなら』、『このカードではなく違うカードが欲しい』、そう思った時には…」 「全てが都合の良いように修正された後ということか」 「うん。…今回ばかりは、助かったけど」
わらしは俯きがちに言った。
『もう一つ、わらしには相手の手札とセットカードが見える力、マインド・スキャンがあるけど、まぁそれはあってもなくてもあんまり変わらないから、おまけみたいなものだよね』 『それもじゅーぶん、ぶっこわれ能力だと思いますけどー…』
ラーイの補足に、Aiのツッコミが入った。 わらしが語る。
「私ね、こういった力が小さい頃からあったの。物心つく前から周りにはカードの精霊がいて、忙しい両親よりも彼らと過ごす時間の方が多かった。だから、それがずっと当たり前だと思ってたの。 でも、成長して言葉を話すようになると、両親も私が異常だっていうことに気付いた。誰もないところに向かって何かを話したり笑ったりしている私を見て、おかしいと思ったんだろうね。彼らはそれをやめさせようとした。でも、幼い私には何がいけないのか理解できずに、精霊たちと遊び続けた。そしてそれが原因で、両親は私を遠ざけるようになってしまった…。 両親からの愛が得られなければ得られない程、私と精霊の絆は深まり、気付いた時には両親との関係は修復が不可能なまでに陥っていた。 小学校に上がる前、弟が生まれて…、まぁそこで色々あって、私は両親と暮らせなくなったの。幼心にショックだったのを覚えてる。でも、そんな時でも私を見守り励ましてくれたのは精霊たちだったから…私にとって、ラーイたちデュエルモンスターズの精霊は、家族同然の存在なの」
わらしの語りを、遊作とAiは黙って聞いていた。
「両親はあんたを見捨てたのか?」
普通は聞きにくいことを、遊作はあえてハッキリと聞いた。
「そういうことになるね。でも幸いなことに、私は私を理解してくれる親戚に引き取ってもらえて、不自由ない生活をさせてもらってる。最初は両親を恨んだこともあったけど…、今は私も仕方がないとわかってるから、忘れることにした」
だって、そんなの無駄でしょう?とわらしは笑う。
「両親よりも、私を引き取ってくれた後見人の方がよっぽど愛情を注いでくれたんだもの。今ではとても大切な存在だよ」
わらしは嬉しそうに言う。その様子にどこか安堵を感じながら、遊作が呟いた。
「エド・フェニックスか」 「知っていたの?」 「…、前にたまたまネットで写真を見た」 「あぁ、多分どこかのパーティーで撮られたやつだね。有名人と一緒じゃ、避けられないってわかってはいるけど…。私はそのエドに引き取られて、中学までは一緒に世界中を転々としていたの。さすがに高校からは一か所に落ち着きたかったから、一人暮らしを始めたんだけど、そこでドジ踏んじゃって」 「?」 「事故に遭いそうだった女の子を、サイコパワーで助けたの。そうしたら噂が広がっちゃって、数日後にはアルカディアムーブメントの面々が押しかけてきちゃって」 「あぁ…」 「あとはさっき、ディヴァインの言ってた通り。組織に入れ、入らないの押し問答の末、春に組織と一戦交えてね。ディヴァインだけを取り逃しちゃったから、入院後に転校することにしたの。あの時は色々大変だった…」 『ボクはもうちょっと計画的に行動したら?って言ったんだけどね。わらしはちょっと考えなしのところがあるから』 「…わかってるわよ、ラーイ」
ラーイのツッコミに、わらしはやや恥ずかしそうに視線をそらした。
「事情はわかったが、それこそ後見人に相談しなかったのか?」 「自分で蒔いた種だったし、ただでさえエドはプロリーグで忙しいから…。自分で何とかなるかなって」 『わらしは遠慮したんだよ』 「遠慮っていうか、言う程のことじゃないと思ったし…」 「なるほど」
遊作は頷く。
「だが現にあんたは一カ月の入院を余儀なくされ、住所まで変えざるをえなかった。それにも関わらず、襲撃されたんだ。これは遠慮とかいう問題ではない気がするが?」 「! う…」 「…もう少し、周りの状況を把握した方が良い」 『ボクもそう言ってるんだけどね、わらしは変なとこ強情だから』 「ラーイ…!」
わらしが悲痛な叫びを上げる。 そういえばあのディヴァインという男にも同じことを言われていたな、と遊作は思い出した。
「とにかく、今回の事情はわかった。あとは何故、俺がPlaymekerだと知っていたかということだが…」 「あ、それは単純に、遊作くんがファイアウォール・ドラゴンを連れていたから」
遊作の背後を指さしてわらしが言う。
「俺が…ファイアウォールを?」 「うん。デュエリストってね、みんな自分が大切にしているカードの精霊を連れているの。私には普段ラーイが。遊作くんは最初、精霊を連れていなかったから、デュエリストじゃないと思ったんだけど、ラーイが精霊の気配がするとか言ってて…」 『それが結局ファイアウォール・ドラゴンだったってこと』
そう言われると、確かに辻褄が合う。 遊作がPlaymekerとしてリボルバーをデュエルで倒したのは二日前の夜のことだ。ファイアウォール・ドラゴンのカードはその時に手に入れた。 もしファイアウォール・ドラゴンが遊作の傍にいるとすれば、それは二日前からのことで、それ以前では、わらしが遊作がPlaymakerだと言うことに気付けるはずがないのだ。
「本当は半信半疑だったんだけどね。私には、精霊の気配っていうのは読めないから。ほんとにデュエリスト〜?って。だから遊作くんのことはちょっと気になって見てたの。まぁ、気になった理由はそれだけじゃないんだけど…」
そう言って、わらしは遊作との一連のやり取りを思い出す。その中で、先日キスをした時のことが頭に浮かび、ちょっぴり恥ずかしさがこみ上げた。それを悟られないように平静を装う。しかし。
『あぁ、それでわらしちゃん、あんなに遊作に迫ってたんだ』
Aiの爆弾が落とされた。
「あ、Aiちゃんそれは…」 『え? オレなんか間違ったこと言った?』 「ううぅ……私別に、そんな迫ったつもりはなかったんだけど…」 「Ai、お前は黙ってろ」
遊作の不機嫌な声がAiの追撃を阻止する。遊作もバツが悪そうに目をそらしていた。
「あ、あの、遊作くん…。あの時は本当にごめんなさい。私も何であんなことしちゃったのかわからなくて…。本当は昨日、改めて謝ろうと会いに行ったんだけど…」 「いや、もういい…。気にするなというのは変だが、お互いもう忘れよう。あれは事故みたいなものだ」 「う、うん…」 「ただ、あの時も言ったが、俺があんたに会ったのは、数日前が初めてだ。以前会ったことがあるというのは、きっと間違いだ」
わらしがやけに遊作のことを気にしていたことに対する答えだろう。 わらしはまだ少し思うところがあったが、本人からそう言われてしまっては仕方がない。「そうね、遊作くんがそう言うのなら、きっとそうだろうと思う」と、これ以上は考えるのをやめた。
「それで、ね。その…遊作くんのことは、誰にも言わないよ?」
Playmakerの正体に触れ、わらしはそう言った。
『言ったら、わらしも力のことを説明しなくちゃいけなくなるからね。それは推奨できない』 「それもあるけど、人が秘密していることをわざわざ誰かに話そうって思わないよ。遊作くんがLINK VRAINSでPlaymakerをやってるのは、何か事情があるみたいだし」
ラーイの言葉に補足する。遊作もそれを聞いて応えた。
「俺も、あんたのことについて口外するつもりはない」 「本当? ありがとう」 「別に感謝する必要はない。…大体、あんたは有名すぎるんだ」 「え?」 「誰かに言えば、発信者である俺が必ず注目される。俺は目立ちたくないんだ」 「………」
きょとんとした表情で、わらしは目を丸くした。
「もしかして、私が話しかけたりするの、迷惑だった?」 「…そうは言ってないが、」 「もし遊作くんが話しかけるなって言うなら、そうするよ。でも、もし、できれば、他に人がいないところだったら…話しかけてもいい?」 「それくらいなら構わないが…」 「良かった。…あのね、私、遊作くんのファンになっちゃったみたい」 「!」
にっこりと。わらしは微笑んで遊作を見た。
『え、なになに、わらしちゃん遊作のファン!?』 「うん」 『うへぁ〜…遊作なんかのどこを気に入っちゃったのかな…』
Aiがげんなりした様子で項垂れる。
「遊作くんは優しいよ。今日だって助けてもらったし…今日だけじゃなくて。もう、三度目だね。助けてもらうのは」 「…、別に言う程のことじゃない」 「ううん、私にとってはいつも嬉しかったよ。ありがとう、遊作くん」 「……、」
わらしの素直な言葉に、遊作は恥ずかしさを隠すように目をそらした。
「…話が終わったなら、帰る」 「あ、うん」
遊作が立ち上がったのに続いて、わらしも席を立つ。 玄関まで見送りがてら、遊作のディスクについて言及した。
「そういえば、遊作くんのAIって変わってるんだね」 『え』 「何か人間と話してるみたいで、全然違和感がなかったよ。最近のAIって凄いんだねー」 『そ、ソレホドノコトデハアリマセンガ』 「………」
急にわざとらしく片言で既存のAIを真似したAiを、わらしは何も疑いなく送り出した。屋外に出て、人目がなくなったところで一言。
『なぁ遊作、わらしちゃんあれ、お前とリボルバーが何の為に戦ってるのかぜっんぜん理解してないぞー…』 「…それならそれで好都合だ」
結局、LINK VRAINSに疎いわらしはリボルバーのこともイグニスのことも、本質を何もわかっていなかった。
『わらし、いい加減エドに連絡した方がいいんじゃない?』 「……そうする」
>>8 |