それはいつものように、今日子が俺を呼んだ時のことだった。 「ねー富松」 「あ?どした」 「富松はさー…」 「俺は?」 「……ずっと私と一緒にいたい?」 唐突にそんなことを聞かれたので、俺は調理中にも関わらず振り向いてしまった。 やべ、今天ぷら揚げてるとこなのに… 今日子が唐突に何かを言い出すのは今に始まったことじゃないが、今は俺も手を離せなかった。 「一緒にいたいも何も、俺たち結婚してんじゃねぇか」 「そうなんだけど…」 「何だよ、また話のネタ作りか?付き合うのはいいけど、後にしてくれよ。今手が離せねぇんだ」 「ん…、わかった」 「今日子もほら、早く飯が食いたきゃ茶碗持ってこい」 話を中断して指示を出せば、今日子は大人しく自分のやるべきことをした。 だけど何か……どこかおかしい。 上手くは言えないけど、表情がいつもより、曇ってたんだ。 「大丈夫か?」 心配して声をかければ、今日子は数秒遅れて「え?」と答えた。 その時点で確実に何か変だと気付いた俺は、ひとまずコンロの火を消して今日子を椅子に座らせた。 体調でも悪いのか? 「熱あるのか?」 「ないよ」 「じゃぁ気分悪いとかは?」 「全然」 「にしては顔色あんま良くねぇけど」 「……、」 「何かあったのか?」 今日子が話しやすいように、なるべく優しく話し掛けて返事を待つ。 普段突拍子もないことを言い出す今日子だが、重要な話は中々核心に触れようとしないから、いつも俺は頭をひねらせる。 で、短気な俺はそれでよく怒っちまったこともあるけど…そうすると余計に何も言わなくなると悟ったので、焦れても急かさないことにした。 気持ちの整理がついたら、今日子はちゃんと言ってくれるから。 「あの…ね、富松」 「あぁ」 「もう一度同じこと聞くけど…富松はずっと私と一緒にいたい?ううん、いてくれる?」 「そんなの当たり前だろ」 自分でも驚くくらい自然に言葉が出た。 遅れて羞恥心が芽生えるが、目の前の今日子はホッとした様子で安心したようなのであまり気にしないことにした。 つか、そんなことを心配されてたんじゃ…この先やってけねぇだろ。 じゃぁ何で俺達夫婦やってんだって話になっちまう。 「なぁ今日子…」 「あのね富松!聞いて!」 俺の言葉を遮って、今日子は俺に詰め寄る。 その表情はイキイキとしていて、さっきまでとは大違い。 何がこんなにも違うんだ? 「聞いて、富松、私ね、私ね…」 「あぁ、ちゃんと聞いてやるからゆっくり話せよ」 「うん、私ね……富松の赤ちゃんができた」 「、え?」 「私、ママになるんだよ」 そしたら富松はパパだ、って今日子が明るい笑顔で言って、俺は、俺は… 「――富松」 「っとに、いつもいつも驚かせやがってよぉ…」 「とまつぅ…」 「だけど今日子、俺今スゲーお前のこと、愛してる…」 「うん…」 「ありがと、な」 俺の子供を身篭った今日子を、壊れないようにきつくきつく抱きしめて、新しい命に感謝した。 そしてそれを宿してくれた、今日子にも。 「富松…私、いいママになれるかな?」 「なれるさ。むしろ心配なのは俺の方だけど」 「富松は絶対いいパパになるよ!絶対に!」 「ほ、本当か?」 「うん!だって…富松はすっごく素敵な、旦那様なんだもの!」 「今日子だって、最高の嫁さんだぜ!」 二人して笑いあって、幸せな家庭を築ければいいと思う。 俺と今日子なら不可能じゃない… 俺たちは俺たちなりのペースでやってけばいいんだから。 「富松、とまつ……作兵衛!」 「おう!」 「これからもよろしくね!」 俺は今、幸せだ。 |