君が笑えば世界は色付き世界は愛を知る 君が世界の中心さ! 「ほぇー、凄いねぇ…」 夕飯の食器を片付けながら夜の予定を立ててたところ、今日子のそんな声が聞こえてきた。 見れば今日子はドラマを観ているらしい。 きっとまた何か、今日子の気を引く内容でも起こったに違いない。 そう思っていたら、テレビに釘づけだった今日子が、急にこちらを向いた。 「ねぇねぇ富松、今の聞いてた?」 「今のって、そのドラマか?」 「そう。吹雪くんが言った台詞」 吹雪ってのは、今女に絶大な人気を誇るイケメン俳優だ。 どうやらそいつが出てるドラマだったらしい。 俺は適当に吹雪の「キラーン☆」とした顔を思い浮かべて、話を合わせた。 「何て言ってたかは知らないけどな」 「うんとね、好きな女の子に愛を伝える言葉なんだけど…内容はものっっっ凄いキザだったの!」 「はぁ?」 「普通、あんなことをサラっと言える人なんかいない…」 「テレビの中だからだろ」 「そうじゃないの、私が言いたいのはつまり…吹雪くんなら、歯が浮いちゃうような台詞だって、自然と決まるんだなって思ってさ」 今日子の話は要領を得なかったが、言いたいことは何となくわかった。 これでも三年一緒に暮らしてるんだ。 夫婦になったのはつい一年前だけど。 「今日子は、吹雪にそんなキザな台詞を言ってもらいてぇのか?」 「まさか!私には富松がいるし」 まぁそうだよな。 その返答は予想してたけど少し安心した。 だけど、 「そもそも富松があんな歯の浮くような台詞、言える訳ないしね」 …オイ。 「言っても、似合わないんじゃない?」 と、今日子はいけしゃぁしゃぁと言った。 そりゃ、俺はキザな台詞なんて言えねぇし、言ったって笑われるのがオチだと思うけど… 面と向かって言われると、何となくむかつく。 「まぁでも、吹雪くんくらいとは言わないから、せめてもう少し伝えてくれたら嬉しいのかなぁ」 「その前にお前は俺の呼び方を直せよ」 「え?」 「いつまでも富松富松って…お前だって富松なんだぞ?」 結婚して一年経つって言うのに、今日子は未だ俺のことを名字で呼ぶ。 独身の時からの癖なんだろうが、いくらなんでも変だろ。夫婦なのに。 「あぁ…、ごめんねぇ。何か富松って『富松』な気がして」 「なんじゃそりゃ?」 「私の中から、『富松』が抜けないんだよねぇ…富松は富松って呼ばないと気が済まないというか」 つまり、今後も俺は嫁さんから名字で呼ばれ続けるということか。 何か情けねーな… 内心溜息を吐いてると、それを察したのか今日子は何故かにこりと笑った。 「大丈夫だよ、ちゃんと必要な時は名前で呼べるから。夜とかね?」 「ばっ…!」 こ、こいつは何を言い出すんだよ!? しかもそんな平然と…お前の方が色々言えるじゃねーか! 「ふふ、富松顔真っ赤」 「う、うるせぇ!」 「やっぱり富松は、私の知ってる富松じゃないとね。言葉なんていらないから、もっと態度で示してよ」 ね?と可愛く首を傾げた今日子を、俺は直視できなかった。 チクショー…こっぱずかしいんだよ!! |