つまり世界は少女Dと少年Pの恋物語で構成されているのです 「DとPって誰だよ」 「私と富松」 「はぁ?」 迷い気もなく答えた私に、富松は少し考えてから「おま、イニシャル全然違うじゃん!」と言った。 鈍い上に頭の固い奴である。 「イニシャルは違っても、この世界は私と富松の恋によって成り立ってるの」 「なんじゃそりゃ?」 「少なくとも私にとってはそう」 「つまり、今日子の妄想だと」 「違う!現実!」 「はいはい、わーったから。新しい小説のネタなんだろ?早くまとめちまえよ」 言って富松は途中だった洗濯物を畳み、私は再びパソコンへと向かう。 富松の奴…信じてないんだから。 我が家は、私が小説を書いて富松が家のことをしてくれる。専業主夫ってやつだ。 私が家事を苦手だったこともあるけど、富松が「今日子を一人家に残しておく方が不安だ」と言って、それまでしていた仕事を辞めてしまった。 富松だって、本当は仕事を続けたかったのだろうから、全ては私のわがままのせい。自分の夢を叶えたかったから。 だからこそ、私は富松との恋が私の世界を構成する全てなんだと思う。 話のネタでも何でも、それは真実だ。 富松は私が愛する世界。 「ねー富松。夕飯なぁに?」 「今日はハヤシライスでも作ろうかと思ってるけど」 「じゃぁ後で買い物行こうよ。一緒に!」 「あ?俺は別に一人でもいいけど…」 「いいから!」 富松の言葉を遮って、私は声を張り上げた。 私ね、知ってるんだ、富松。 富松がいつも一人で買い物もお掃除もお洗濯もしてくれるのは…私に負担がかからないようにしてくれてるからでしょ? いくら主夫だって、少しは奥さんに手伝えって言うもの。ずっと家の中にいたなら尚更。 でも、富松は家のことは本当に全部引き受けてくれて、なおかつ私の意見を聞いてくれる。 「今日子、何が食いてぇか?」 「何か必要なものあるか?ついでに買ってきてやる」 「飯できたぞ。風呂が入りたきゃ先行ってこい」 こんなふうに。 私は、そんな優しい富松が好き。 言い方はぶっきらぼうだけど、言葉の一つ一つに愛が溢れてて、私は幸せを感じられる。 こんなことを言ったら、またばかにされそうだけど。 (富松の場合は照れ隠しも入ってるから、余計に素直に受け止めてはくれまい) だけど、それでいいの。そんな日常がいいの。 私の毎日が、富松と一緒に作られていく世界なら。 「…ねぇ富松?」 「どうした?」 「好きだよ」 富松にも、そう感じてもらえたのなら。 「どうしたんだよ、今日はよく喋んな」 「んー?そんな気分」 「そうかよ」 「ねぇねぇ、富松は?」 「あ?」 「私のこと、どう思ってるの?」 スキ?キライ? それとも… 「ばーか。言ってやんねぇよ」 富松は意地の悪い笑顔を向けて、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。 期待してたのに… 富松は畳んだ洗濯物をかごに入れると、私の腕を引っ張って立たせた。 「ほら、一緒に買い物行くんだろ?」 「…富松の答え聞いてない」 「聞かなくても、わかってんじゃねぇか」 「あー!そういうこと言う!?」 ほんとに、富松ってば昔っからデリカシーないんだから! 私が富松に腕を掴まれたままじたばた暴れていると、少しだけ焦った様子の富松が言葉をかけた。 「どうどう、落ち着け今日子」 「私は馬か牛か!」 「いや、俺よく豚にも言ってたし」 「何それ!喧嘩売ってんの!?」 私が益々腹を立てて怒ると、富松は笑いながらあっさりと私を抱きしめた。 「冗談だっつの。そんな怒るなよ」 冗談でも、タチが悪いよ…私だって色々気にしてるんだから。 仕返しとばかりに、甘えられる時は遠慮なく甘えさせてもらおうと思った。 富松は普段、中々私を甘えさせてはくれないから。 (私が仕事中だっていうのもあるけど) 「なぁ今日子」 「…何、富松?」 「あ……愛してる、ぞ」 「!」 「俺だってな、好きじゃない女と結婚できるような性格してねぇし、つまりそれは…お前のことがす、好きだからだな…」 「富松…」 「は、早くスーパー行くぞ!特売始まっちまうからな!」 そう言って腕を掴んだままずかずかと歩き出す。 私は思わず笑顔がほころんだ。 いつもより素直な富松の気持ちを聞けた。 それだけで、十分私は幸せなのです。 富松と二人で築き上げていく、この世界。 |