「新しく入った、蛙吹梅雨さんよ。みんな、なかよくね」


シナ先生にそう紹介してもらって挨拶をした私は、同じく5年生のくのたまたちにはあまり歓迎された様子はなかった。歓迎されていないというより、興味を持たれなかったというべきか。
前日教えられたように、上級生のくのたまは人数がとても少ない。低学年は2クラス程あると聞いたが、上級生になると人がほとんどいなくなって、一クラスに統合されてしまうのだという。
それにしても、私が興味の対象から外されてしまった理由というのは。


「ねぇ、蛙吹さんて今までどこかで忍術をかじったことあるの?」


休み時間、隣にいたくのたまの子に話しかけられた。私は、一応基礎は習っているよ、と年相応の話し方で答えた。
すると、周りにいた子たちも話に参加してくる。


「基礎って、知識だけ?」
「簡単な実習ならやったことある」
「体術はどれくらいできるの?」
「そこそこ。でも、しばらくやってないから、なまってはいると思う」
「じゃぁ、色は?男と寝た経験ある?」


――つまり、そういうことだった。

彼女たちが一番に聞きたがったこと、だ。

ここは、忍術学園で、くのたまとはいえ本気で忍を目指す女子は、くのいちとして必要な‘色’の実習を受ける。それは恐らく、行儀見習いで入学した子たちは受けず、そもそも進級前に学園を辞めていくのだろう。上級生として学園に残り、卒業を目指している者ならば必然的に受ける色の実習を受けたかそうでないかは、ある種くのたまのプライドに関わる。
なんというのだろうか。きっと、彼女たちの思いはこうだ。

『今さら編入してきた基礎だけの女に、自分たちと同じ色の実習ができる訳がない』

そう思って、見下されたのだ。


「私たち、去年から色の実習が始まってるんだけど、蛙吹さんにできるかしら」


一人の子がそう言った。誰もその言葉を咎めることはなく、無言で肯定した。
私は、この学園に来た目的が一人の人間を捜すことだから、あまり風波を立たせたくなかった。どうせ一か月しかいないとはいえ、日々の生活は大切だ。
だから、なるべく相手に嫌われないように、できるだけ弱そうな顔を作る。


「そうね…私にできるかわからないけど、できる限りはやってみるわ。だめだったら、きっとそこまでね」


と、相手を受け入れつつ――どうかこの中に、夫の想い人がいないことを、願った。


正義感だけで君は救える

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