年をごまかすくらいの簡単な変装をして、忍術学園の門戸を叩いた。出てきた事務員に入門表を渡され、旧名でサインをする。間違っても夫の姓は使わない。
それから、忍術学園に入学したいという旨を伝えれば、すぐに学園長に会わせてくれた。
学園長はお年を召した人だったけど、年の割にお茶目で、少し話を聞いた後入学を許可してくれた。さっそく今日から、ここの長屋で生活することになる。


「はじめまして。くのいち教室で教師をしている、山本シナよ」
「蛙吹梅雨と申します、よろしくお願いします」
「梅雨さんは、扱いは編入ということになっているけれど、以前忍術を学んだことがある?」
「はい。基礎は一通り習いました」
「そう。どうりで足音が静かなはずだわ」


足音を消して歩くことは、癖になっていた。短い期間とはいえ、結婚する前はくのいちとして忍務をこなしていたから、その時の動きが染みついている。夫が帰ってくれば、それこそつられて消してしまうし。
シナ先生はふっと笑って、私を長屋へと案内してくれた。編入生ということもあって、私に用意されたのは一人部屋だった。気が楽でいい。
そういえば学年はどこになるのだろうと思って尋ねると、私は編入とはいえ既に基礎を習っているのだから、会議で五年生で良いだろうと言われたらしい。少し前に転入してきたという忍たまは、15才だけど忍術の経験がまるでなくて、4年生に編入したという話も同時に聞いた。


「他のくのたまには、明日紹介します。といっても、5年生は本当に少ないから、そんなに緊張する必要はないわ。今日はゆっくり休んで、何か必要なものがあったら私の部屋まで来てね」
「はい、色々とありがとうございます」
「では、また明日」


シナ先生が戻って、私は一人広い部屋へと腰を落ち着けた。本来なら2人で使用するという部屋は、一人では中々広い。それでも、夫の帰ってこない家に一人でいるよりは、全然気が楽だった。
風呂敷を広げて荷物を出す。持ってきたのは、着替えと日用品、そして少しのお金だ。
正直手持ちがあんまり少ないと大変かな、とも思ったけれど、これは夫が命をかけて稼いできたお金であって、それを不必要に使ってしまうのは気が引けた。何より、元はくのいちなのだから、休日に忍務でも引き受ければ、普通にアルバイトをするよりはよっぽど稼げるだろう。腕がなまってなければいいけど。

それよりも、だ。


(忍術学園にやってきた目的を、早く果たさないと)


私に残されたタイムリミットは一か月。夫が忍務に行っている間。それ以上は、家に帰って私がいないことがバレ、捜されてしまう。そうなる前に私は夫の想い人を見つけ出し、接触する必要がある。あんまり悠長なことはしていられない。
まずはどうやって、その想い人を捜し出すかを考えなければ…

見つけたら、どうしよう。
話をする?一体どんな…
あの人を愛しているか、確かめる?私があの人の妻だって、言って…
もしもあの人のことを受け入れなかったら……想像は尽きない。


私は部屋の真ん中に寝転がって、体を伸ばした。



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