「セックスしたいな」


梅雨が唐突にそう言ったのは、昼下がりの午後のことだった。
僕は、突然頭に入ってきた言葉に絶句する。だけどすぐに嗚呼、と理解して、テレビの前で体育座りをする梅雨の肩を抱き寄せた。
思えば、最近はすれ違いばかりで、こうして二人っきりになることすらなかった。当然、情事なんてもっての他で。久しぶりだからこそ、求めるのは自重して今日はゆっくりしようか、と僕の中で結論付けられたところに、今のセリフだ。
ここで流してしまえば、男としてのプライドは何もない。何より梅雨を傷つけることになるだろう。
少しだけ拗ねた様子の梅雨の耳元で、僕は囁く。


「じゃぁ、する?」


梅雨は恐る恐る見上げてきた。その目は、既に潤んでいて、ここで拒否されても恐らく僕の方が我慢できないな、とどこか他人事のように思っていた。





「ん…らいぞ、きもちいい…?」
「すごくいいよ。梅雨の一生懸命な顔が可愛くて、すぐに出しちゃいそう」
「いい、よ……でも、私がいない間、一人でしてたでしょ…」
「そりゃぁね。けど、ここ一週間は何もしてないよ」
「ほんとに…?」
「うん。だから、イクのが早くても許してね」


梅雨の髪を撫でて、そっと先を促してやれば、すぐに再開される口の動き。
梅雨は口でするのが好きだ。誤解されそうだけれど、行為そのものが好きな訳ではなくて、僕のにするのが好きなのだという…まぁ、惚気以外の何物でもないと思うけど、とにかく情事の前には必ずといっていい程、自分から求めてくる。男として彼女の口で愛撫してもらうというのは堪らなく快感で、また喜んでそうしてくれるのは、言葉に表せられない嬉しさがある。
竿を舐め、亀頭に吸いつき、舌を使う梅雨は、僕の体を熟知している。あ、いいなと思ったポイントはずらさずに繰り返してくれるし、口は離しても手は休まずに動かしてくれるから萎えることはないし、多少なら動いても合わせてくれる。都合の良い女って訳じゃないよ。僕は梅雨だからそうしてもらいたいし、そうされたいと願う。
だから、梅雨が本気で集中し出した後は、もう登り詰めるしかない。時折梅雨の髪や頬に触れながら、与えられる刺激に耐える。前に梅雨が言ってた。頑張ってる時にそうやって甘やかされると、とても嬉しいのだと。
僕は梅雨の名前を呼んで、求める。そしてついに耐えられなくなった時、僕はその熱を解放するのだ。


「んっ…」
「んむ……んぐ、っく……」


梅雨の中に欲望を放った後は、決まって梅雨はそれを飲みこむ。初めての時、飲まなくていいよと言ったのだが、梅雨はさも当然のように飲みこんで、後始末までしたのだ。それにはびっくりした僕だったけど、梅雨は笑っていた。いわく、だって雷蔵のだもん、だそうで。
何が僕だから、なのかはよくわからなかったけど、何故だか無性に心の底からわき上がるものがあった。梅雨を愛しく思う気持ちだ。
だから僕は、梅雨が口でした後拒否するキスを、舌を使った深いものまできっちりと堪能し、ベッドの上に縫い付けた。少しだけ変な味がしたのは、まぁ、自分のものだからと言い聞かせて、梅雨を抱きしめる。梅雨が僕だから、と言って様々なことをしてくれるように、僕だって梅雨に色々としてやりたい。僕自身がしたいって気持ちももちろんあるけど、それ以上に梅雨を好きで好きで理性が働かなかったんだ。


「梅雨、大丈夫?水飲む?」
「うん…少し、」
「はい」
「ありがと……、雷蔵、今日、いっぱい出たね」
「え、そう?」
「うん。出し切ってから飲もうと思ってたのに、どんどん出てくるから、途中で飲み込んじゃった。味もちょっと濃かったし…やっぱり溜まってたのかな」
「はは、そうかもね。しばらく出してなかったし」
「でも、嬉しかった」


水を飲み終わった梅雨が、ベッドに上がって、甘えてくる。それに応えるように僕は梅雨を抱きしめ、何度も好きだよと言う。
好き。好き。梅雨。
誰にも渡したくない。ずっと僕だけを愛してて欲しい。
本当に好き……梅雨が、一番好き。

梅雨を抱きしめたまま柔らかいスプリングに押し付けて、唇を重ねた。最初は啄ばむように、その後は何度も角度を変えて。梅雨の可愛い声が耳をくすぐり、その度に言いようのない興奮を覚えた。


「さっきは梅雨に頑張ってもらったからね。今度は、僕が梅雨を満足させてあげるよ」


そう言って、押し広げた両足の間に顔を埋める。梅雨は、自分がするのは良いがされるのはとても恥ずかしがるという、なんとも可愛い特性を持っていた。だから、僕は容赦なく梅雨を愛す。
スカートの上から僕の頭を押しのけようとするけど、そうはいかないよ。


「感じて、梅雨。僕の舌で、指で、梅雨が僕にしてくれたように、もっともっと可愛い声で啼いてごらん?」


ふわり、と笑顔で告げたら、梅雨は顔を真っ赤に染めた。
そして、僕から目を反らす。

今までの抵抗は、嘘のようになくなった。



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