部屋でごろごろしながらファッション雑誌をめくっていたら、ふいに梅雨ーと呼ばれた。顔を上げた先には、ハチの顔がすぐ目の前まであって。私の唇は、あっさりと奪われていた。


「…何してんの」
「暇だったから、梅雨と遊ぼうと思って」
「それより、なんか今酸っぱい味がしたんだけど。何か食べた?」
「あぁ、さっきオレンジジュース飲んだ」
「そう、それか」


疑問に思った答えが返ってきて、すっきりした。私は再び雑誌に目を落とそうとして、ハチの手がそれを遮る。


「…何してんの」
「だって暇なんだぜー」


本日二度目のセリフに、ハチはさっきと同じ答えを寄こした。ひねりのない回答なんてつまらん!
私はさっとハチの手から雑誌を取り返し、開いていたページを探した。ハチは相変わらず私の腰に抱きついたままで、わんわんと喚き散らした。いい加減うるさい。


「あんた、さっきから何なの。暇ならどっか行けばいいじゃない」
「だってこっち誰も友達いないんだぜ?梅雨は一緒に出かけてくれなさそうだし」
「今日は休日。よって私はごろごろするの」
「ほらなー」
「いいから、手、離せ。お気楽な高校生と違って、私は平日はバイトもあるし、忙しいの、よ!」
「そんな事言うなよー」


でかい図体を必死に引きはがそうとしても、ハチの手は諦め悪く抱きついている。
ハチは私の幼馴染。年は二つ下だけど、ガタイがいいのであまりそうは見えないらしい。性格は甘ったれの子供なのにね。だけど陽気だから、地元に友達は沢山いる。では何故さっきハチがここで友達がいないと言ったかというと、ハチは幼い頃に引っ越してしまったからである。
友人は、今住んでいる地元で作った。だから、昔住んでいたこのあたりには、私以外に友達がいないのだ。
私とハチは、互いの両親が仲が良かった為に年に数回は顔を合わせている。私がハチの地元に行くこともあるけれど、大体がハチが私の住んでいる町に戻ってくる。今回もそのパターンだった。
そして、互いの母親は子供を家に置いて、楽しいショッピングに行ってしまったというのだ。こんなクソ暑い日に、御苦労なことだ。どうせなら、この暑苦しいのも一緒に連れてってくれればよかったのに。


「なぁー、梅雨遊ぼうぜー」
「うるさい。遊ぶなら一人で遊んでなさい」
「ちぇ…」


ハチはつまらなさそうな顔をして、私の腰から腕を離した。
大体、こいつは色々と間違っている。何があって、付き合ってもない女に突然キスをしたりするのだろうか。こいつ、実はとてつもなく女癖悪いとか…?「じゃー一人で梅雨で遊んでる」それともご両親の育て方が甘かったのか……て、は!?


「ちょ、ちょっと待った!あんた何してんのよ!?」
「ん?梅雨の服脱がしてるけど」
「何が『脱がしてるけど』よ!スカート引っ張るんじゃない!…あ、こら、服の中に手、つっこむな…!!」


これはもう雑誌どころじゃなくなって、慌てて身を起こしたところで既に手遅れ。私のTシャツはめくられて、ブラはずりおろされている始末。スカートのボタンは外れて、簡単に脱がされそうになっている。
さすがにまずい、と鉄拳をくらわせてやろうかと思ったら、再び重なっている唇。


「ん…っふ、んんっ…んぁ…っ」


しかも今度は深い方。オレンジジュースの味が、濃く伝わって来た。


「はは、梅雨、そーしてるとかわいーな」
「な…にを!」
「いいじゃん。たまには年下の俺に任せてさ、気持ち良くなっとけって」
「あんたに…そんなテクがあるとは思えない…」
「そっかぁ?じゃぁ、試してみろよ」


ぜってー満足させてやるからさ!

にかっと笑ったハチは、無邪気な子供のようだった。ずっと昔から、こいつの笑顔だけは変わらないと思っていたけど…こんな時までその笑顔は、反則、だ。ずるい!


「ひぁっ…や、あ…っハチぃ…!」


それでも私は、まだまだ未熟な熱に翻弄されて喘ぐ。
やっぱりこいつはタラシだ。天然のタラシだ。タチが悪すぎる。


「梅雨…好きだっ」


目の前がチカチカしてきたと同時に囁かれた、愛の言葉。
私はそれが本当かどうか確かめる術もなく、昇り詰めた。



果汁100l



「やっぱ梅雨は可愛いなー。あー、ぜってー離したくねぇ!」
「くー…」

「ただいまー、ハチー、梅雨ちゃーん」ガチャッ
「ゲッ…!」
「ちょっ…ハチ、アンタ何して…!?」
「うーん、梅雨…」ばたんっ
「きゃ、大丈夫!?しっかりして!!」
「お、おばさん!大丈夫ですか!?おい、梅雨、起きろ!おばさんが倒れちまったぞ!」
「くー…」
「ハチ、あんたって子はぁぁ!!」
「あぁぁぁぁもう…!」

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