月日が巡るのは早いもので、梅雨が山を下りてから1年が経った。 三郎は1才になり、よちよち歩きで歩ける程にまで成長した。 冬に幾度か風邪を引いてしまったが、ある意味それは仕方ないといえる。三郎の母親は三郎を産んですぐ亡くなってしまったので、十分な初乳を与えることができなかったのだ。 初乳は赤子にとって免疫力を決定づける重要な栄養源だ。 周囲のはからいで、多少なりとは与えることは成功したものの、十分な量を飲ませてやることができなかった。 結果、三郎は風邪にかかりやすい子供になってしまったのだ。 とは言っても、十分に注意していれば大事には至らないし、数日も経てば治ってしまう。 免疫力も、徐々にではあるが高まってきているはずだ。 「三郎、ほら、こっちにおいで」 「あ、う、」 まだ歩くこともおぼつかない三郎に向かって手を叩き、三郎の意識を向けさせる。 梅雨はこうして三郎と遊び、面倒をみることが幸せだった。多分、今が一番可愛い時期なのだろう。 どうせ、3才になったら忍としての訓練が始まるのだ。それまでめいいっぱい、遊ばせたい。三郎は私の子だ。 三郎は梅雨の声がする方へとたどたどしく足を進めていく。 だが、一人歩きするにはまだ程遠いようで、途中何度もよろけては尻もちをついてしまう。その度に梅雨は心配するが、三郎を想って手助けはしなかった。 やがてたっぷりと時間をかけた三郎が梅雨の元までたどり着くと、梅雨はぱっと表情をほころばせ、三郎を抱き上げて自分のことのように喜んだ。 「凄いね、三郎!頑張ったね!」 「うう、」 「うんうん、いい子だよ!」 梅雨は三郎の頭をよしよしと撫で、三郎も満足そうに笑った。 そして、何を思ったか、梅雨の着物の袂に手を伸ばし、そこに入れようとする。梅雨は少しだけ苦笑した。 「もう、三郎はいつまで経っても乳離れができないのね」 歩けるようになったとはいえ、まだ1才。乳離れにはもう少し時間が必要なようである。 |