自分の縁談話が持ち上がった時、俺は最初から乗り気ではなかった。
忍術学園を卒業し、忍として一人立ちするようになってから三年。何かと気を遣ってくれる上司からの助言だった。


『兵助、お前は好いた女の一人でもいないのか?』
『…そのような質問に答える必要はありません』
『そうか。なら、見合いを受けてみてはどうだ? 俺の知り合いの娘が、今年十五になるんだが、まだ貰い手がなくてな』


この上司は、基本的にはとてもいい人なんだが、人の話を聞かないことがある。見合いの話を渋る俺を無視して、勝手に縁談をどんどんと進めていった。
まぁ、上司の顔をつぶす訳にもいかないから、会うだけ会って断ればいい。
当時の俺は気軽にも、そう考えていた。

しかし――

実際に見合いの席で顔を合わせた梅雨に会った時……俺はそれまでの考えを、一気に捨て去った。




『初めまして……梅雨と申します』


立派な着物に身を包んだ娘は、三つ指をついて俺を迎え入れた。家は商家だが、末娘として甘やかされる反面、立ち居振る舞い等の教養はしっかり身につけさせられたようだ。
俺は梅雨と顔を合わせるなり、戸惑いに言葉を失った。
参ったな…正直言うと、梅雨は今まで会ったどの女子よりも可愛かった。可憐で、淑やかで。心を揺さぶられたのは言うまでもない。
梅雨に見とれて言葉がでなかった俺に、梅雨は首をかしげて不安そうな顔をした。その時、横にいた上司がこれでもか、という程にんまりとした笑顔を浮かべ、口を出した。


『なんだ、兵助。梅雨さんが綺麗で言葉も出ないか?』
『っ! ちが、』
『梅雨さん、ご心配なさらず。兵助は初めて会う貴女に一目惚れしてしまったようです』
『まぁ…』


上司の言葉の後、梅雨は僅かながらに頬を染めて下を向いてしまった。
嗚呼もう、なんてことだ!


『まぁ、後は二人で話すといい。俺は席を外すから』


上司はそう言うと、俺の肩を軽く叩いてから座敷を出て行った。最後に、矢羽根で念を押すのも忘れずに…。


≪しっかりやれよ、兵助≫


その言葉に背かず、俺はその日、初めて会った梅雨との縁談を進めることとなった。
何もかもが上司の思い通りなのは気に入らなかったが、それよりも俺は梅雨と夫婦になる方を選んだ。
梅雨の方は、なるほど世間知らずとあって、年頃の異性に会うのもほとんどなかったという。当然、見合いも今回が初めてで、それなのにあっさりと俺との縁談を進めても良いのかと聞いた時、小さな声で答えたのだ。


『あの……私、兵助さまだったら……』


その時の顔が真っ赤で、少なからず自分に好意を持ってもらえたのだと自覚し、俺はたまらずその手をとって握っていた。


『必ず、幸せにする』
『はい…』


梅雨の笑顔は可憐で、どの花よりも美しく見えた。






それから、三ヶ月。
俺と梅雨は式の準備を進めながら、幾度となく俺は梅雨の部屋で夜を過ごした。
幸い、娘思いのご両親からも気に入られ、ことあるごとに祝いの品だと様々な物を贈られる。その度に俺は断っているのだが、いいからと押し切られ、今では梅雨の部屋と俺の部屋に、半分ずつ置いてある。


「ここもすっかり俺の物で埋まってしまったな…」


部屋の隅に並べられた私物を目に呟けば、それまで俺の耳を掃除していた梅雨が言った。


「私は、この部屋に兵助さまの物が増える度に、嬉しくなりましたけど……兵助さまはそうではありませんでしたか?」
「いや、そういう訳じゃないけど」


梅雨の部屋が狭くなってしまうから、というのはこの大きな商家には通じないんだろうな。
片側の耳掃除を終えた梅雨が俺の体を反対にしようとしたその手を掴んで、そのまま態勢を入れ替えた。突然の事にきょとんとしている梅雨の額に口付けを落とし、抱き上げて布団へと向かう。


「あ、あの、兵助さまっ…」


事態を察した梅雨が腕の中で暴れるが、離してやる気は毛頭ない。


「梅雨、好きだよ」
「あ……私も、です……でも、今はまだ、耳のお掃除が終わってませんし…」
「続きはまた明日してよ」


また、梅雨の膝枕で。
布団に横たえた梅雨の耳元で囁けば、梅雨は真っ赤になって逃げ出そうとした。そんなこと、無駄だっていうことに…いつになったらわかるんだろうか。


「梅雨」
「っ…!」


再び捕えた彼女に覆いかぶさり、赤く熟れた唇に何度も口付けを施す。息もできない程に深いものを幾度も繰り返せば、頬は蒸気し、潤んだ梅雨が恨めしげに俺を見上げていた。


「兵助さま…ずるいです……」


そんな目で睨まれたって、全然怖くはない。むしろ、男を高ぶらせるだけなのに、梅雨は無意識で俺を誘う。
ごめんごめん、と微笑みながら謝れば、余計に機嫌を損ねてしまった。全く、なんて可愛くていじらしい。


「梅雨…」


名前を呼びながらあちこちに唇を落とせば、やがて拗ねた声からくぐもった声へと変わる。


「あっ……あっ……兵助さま……」


純真無垢な梅雨は俺しか男を知らない。故に梅雨を花開かせたのは俺だ。
職業柄、色事に慣れた女を相手にしたことはあったが、こうまでも何も知らない女子は梅雨が初めてだった。
手を繋げばうろたえ、接吻すれば頬を真っ赤に染める。初めて抱いた時は……痛みが大半を占めたせいで、ほとんどずっと涙を零していた。けれど、その姿でさえ酷く愛おしい。


「梅雨…可愛いよ」


素直に言葉を囁いてやれば、首に回した手に力が入った。
少しずつ肌蹴てきた首筋に唇を落とし、ゆっくりと梅雨の肌に指を這わす。念入りに手入れされているのだろうか、梅雨の肌はいつ触れてもきめ細やかで、しっとりと俺の肌に吸いつく。
調子に乗ってあちこちに舌を這わせていたら、胸の谷間に達した時、梅雨はいやいやと頭を振った。


「兵助さま、それ以上は…」
「まだ恥ずかしい?」
「っ、はい……」
「でもごめん。俺も止まれそうにない」


息を飲んだ梅雨の胸を揉みながら、先端を優しくねぶる。徐々に漏れだす甘い声を耳にしながら、俺はまるで赤子のようにそこに吸いついた。梅雨の体がもどかしく揺れる。


「あ…やん、あっ、あ……へいすけさま……っ」


つ、と足元に指をやり、太股を撫でる。その刺激にも敏感に反応した梅雨は、ひゃんっと声を漏らした。何もかもが新鮮な反応。
何度か太股を上下に撫でた後、さらにその奥に指を忍ばせた。くちゅり、と湿った音がする。


「梅雨…嫌がってた割には、もう凄い濡れてるよ」
「あ、だって……ん、」
「うん、梅雨は嫌なんじゃなくて、恥ずかしいだけだっけ?」
「そんな……」


羞恥にまみれた梅雨の顔が、簡単に手折れそうな花のような気がして、俺は深く口づけた。


「んんっ…ん、ふぅ…っ」


その間、手を動かすことはもちろん忘れずに。入り口の辺りを指で何度も往復させた。それだけで梅雨は泣きそうな顔をして俺にしがみつく。


「やっ、あっ……へいすけ、さま……あん、あっ……」


十分にそこを慣らしてから、俺はさっきからずっと主張している俺自身を梅雨に宛がった。


「あぁん!」


前置きをせず、一気に中を貫く。梅雨は快感に酔いしれた表情をしているが、まだ多少痛いようだ。
奥まで楔を打ち込んだ俺の手を取って、しきりに俺の名を呼んだ。


「兵助さま…兵助さま……」
「大丈夫、待ってるよ」


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