白い天井を見つめながら、ありとあらゆることを思い出す。ここは、俺の部屋じゃない。昨日一緒に居た人の部屋だ。昨日は久しぶりに飲んだ。飲む前、も、飲んだ。ああそうだ、一度ゼミの連中と飲んで、その後、先輩に引き摺られるようにして別の店で飲んだんだ。浴びるように飲む先輩と、その様子を伺いながら飲む俺とじゃあ、俺がタクシーを手配して先輩を帰さなければならないのはごく当たり前の事。大通りで俺は先輩を確かにタクシーに乗せたはずだ。先輩の酔い具合を見て俺もそのタクシーに乗った。それで先輩の家に来て、先輩の鞄から家の鍵を探し当てて、はじめて入った先輩の家で俺は先輩に水を飲ませて、帰ろうと思った。帰るつもりだった。けど俺は今、先輩の部屋で寝ている。隣には先輩のものであろう寝息が聞こえる。俺は服を着ていない。


どうしてこうなった。


思い出せ、思い出すんだ。いや、思い出したら危ない。だってどう考えたって今は朝だ。思い出すとおかしいことになりかねないから、そうだ、ぼんやりとだけ、思い出そう。うん、この展開はそうだ、俺は先輩と、致してしまったのだろう。だって俺だけ全裸とかありえない。先輩だって多分服は、着てないだろう。俺と先輩じゃ俺の方が記憶は鮮明だ。鮮明にしたらまずいけど、だんだんと夜中の珍事が思い出される。台所で座り込んだ先輩。ベッドまで引き摺った俺。「帰ったら許さないぞ」「でもそれはまずいです」「なんでさ」「おかしなことになっちゃいますよ」先輩の事は嫌いじゃなかった。人として好きだった。女の人である前に先輩は先輩という人間として俺の中に居て、それなのに、俺は、先輩にとって後輩のままでいられなかった。「馬鹿になっちまえよ」半分呂律の回らない、信憑性なんかない、あんたが馬鹿になってんじゃねえかって思うような態度で言われた言葉に抗えなかった。ああ、なんとなくのはずが、具体的になってきた。アルコールのにおいと、先輩のぐちゃぐちゃになってしまった髪と、普段の様子からじゃ想像できない、柔らかい声。


いかん、いかんぞ。これはいかん。天井を見つめていた俺は隣の人を起こさないようゆっくりと寝返りを打った。すると、飛び込んでくる置き時計。



「12時!?」


起こさないように、そう頭の中にあったはずなのに。俺はデジタル時計の表示に思わず声を上げて飛び起きた。12時丁度どならよかった。けどもう12時は半分以上過ぎていた。朝だと思ってたのにこのザマか、バイト休みで本当に良かった、良かった、…いや、良くない、か。


「…食満」


隣で寝ていた先輩(全裸)が起きてしまった。やべえ、これはやべえよ、俺は慌てて下半身だけ布団の中にちゃんと収めて先輩へ視線を向ける。先輩はぐちゃぐちゃの髪の毛の隙間から不機嫌そうな顔で俺を睨む。そ、その真意は。


「…おはよう、ございます」
「…おはよ……何時」
「12時、…半過ぎです」
「おそようじゃん…あー……」


寝た気がしない、先輩がそう呟くので俺は今度は先輩が居ないほうへ視線をやった。当然だ、寝たは寝たけど、寝る前に大分アレな運動みたいなソレを、致していた、わけですから。


「食満、こっち向いて」
「はい…」
「お酒抜けた?」
「俺は一応。…先輩は」
「だるいからまだだと思う…」


顔を顰めて、枕へと頭を押し付ける先輩。俺は思わず大丈夫ですかと問いかけた。くぐもった声で発せられる「誰のせいだよ」という言葉に、俺は何も言えなくなる。先輩は覚えているらしい、夜中の珍事を。


「食満」
「は、はい」


起き上がった先輩が俺の顔を覗き込む。服を着ていないから胸見えてますよとかそんなことを言うのも叶わず、視界を埋める先輩の言葉を待った。


「留って呼んでいい?」
「え?」
「昨日呼んだじゃん。あと私のことも名前で呼んでね」
「え、あ、え…ええ!?」


呼ばれたっけ、とか、俺が昨日どんな風に先輩に接してたっけとかそんなことを考えていたら、先輩が勢い良くぶつかってきて、そのまま俺は押し倒された。酒に溺れたキャリアウーマンみたいな表情はどこへやら、悪戯を思いついた子どもみたいな顔をした先輩が俺の上にいる。


「すーきっ」


俺は何も言えなくて、でも先輩を引き摺り降ろすこともできなくて、今この瞬間までの出来事を頭の中で再び再構成し始めた。片手はちゃっかり、先輩の腰に回しながら。







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nornirのみどりちゃんへの捧げ物です!お待たせしてごめんなさい><これからも仲良くしてもらえたらなあと思ってますゲヘヘ!リクエスト有難うございました^^

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