昔々、あるところに子供を欲しがっている夫婦がいました。 ようやく女の子を授かり、国王はそれはそれは親バカのように可愛がりました。 「勘右衛門は可愛いな〜ほらパパって呼んでごらん?ん?」 「三郎、さすがにそれは気持ち悪い…」 「何とでも言え。俺は今物凄い幸せを噛み締めているんだ」 と、国王は生まれたばかりの女の子にキスをしたりして、喜んでいました。 王妃はお産で乱れた髪を直しながら、やはり嬉しそうです。 そうこうしている内に、お姫様誕生のお祝いが開かれました。 国王はくじで適当に決めた12人の魔法使いを城に呼び寄せ、祝宴に招待しました。 そのお礼に、魔法使いたちはそれぞれ、女の子が幸せになる魔法をかけたのです。 「いけいけドンドーン!」 「ギンギーン!」 「だぁいせいこう」 「ぼそぼそぼそ…」 「ケマトメアターック!」 「ユリコサチコカノコ!!」 「ぐたぐたぐだぐだ」 沢山の魔法をかけてもらっている途中で、一人の魔法使いが現れました。 「三郎すまん、遅くなった!新発売の豆腐を買う為に並んでて…」 「あー、兵助。今回お前呼んでないぞ」 「え!?」 「まぁ三郎もそう言うなって…せっかくお祝いに来てくれたんだし、豆腐くらい食ってけよ。な?」 「はっちゃん…」 優しい王妃の言葉に感動した兵助は、豆腐の入ったスーパーの袋を置くと、「私も魔法をかけてやるよ」と言い、女の子に近付きました。 「え」 「待て、嫌な予感が…!」 「え〜と、それじゃあ私は…魚に豆腐味噌、」 「ヤバイ!」 「誰かあいつを止めろ!!」 「あんかけ豆腐に八杯豆腐、豆腐飯!!」 兵助が呪文を唱えるや否や、女の子の体は光に包まれ、次の瞬間には真っ白な豆腐になっていました。 「勘右衛門ー!!!」 「あ…もうダメ…」 国王は叫び、王妃は倒れる始末です。 他の魔法使いたちは慌てて、兵助を捕らえました。 「へ?何で私は捕まってるんだ?」 「いいからお前はちょっとこい!」 魔法使いのギンギン先輩に連れて行かれ、国王は豆腐になった我が娘の前で膝をつきました。 「ううっ、勘右衛門が…一体どうしたら…」 「待って三郎、僕の魔法がまだ残ってるよ!」 「雷蔵!」 「実はどんな魔法をかけようか迷っちゃって、決められなかったんだけど…これは何とかしないとね」 「雷蔵ぉぉぉ!もうお前だけが頼りだ!!」 「うん…待ってて!」 雷蔵は豆腐になった女の子の前で、どんな魔法をかけるか考えます。 ただ兵助がかけた魔法を解くのでは、彼女には何も残らない…豆腐から人間に戻した上で、素敵になる魔法をかけたいと、雷蔵は思いました。 そして再びそのまま固まってしまったのです。 「雷蔵!?」 「…………ぐう、」 「寝るなバカッ!」 考え疲れた雷蔵は思わず眠ってしまいました。 国王に起こされ、慌てて呪文を唱えます。 「えっと、じゃぁ100年後に元に戻りますように!」 「「「「「え」」」」」 雷蔵がかけた大雑把な魔法は、豆腐になった女の子を包み、見事に成功しました。 これで100年間、女の子は豆腐の姿をしたままです。 「勘右衛門ー!!!!」 国王は我を忘れて泣き叫び、周りはみんな同情しました。 そして、あまりの悲しい出来事に、国王は国じゅうの豆腐という豆腐を処分させました。 うっかり豆腐を見ると、我が子のことを思い出してしまうのです。 さらに、兵助に対する腹いせでもありました。 この国には、国王の娘以外の豆腐がなくなってしまいました。 それから月日が流れること、100年。 一人の王子様が、古の食材を求め、噂を聞き付けてこの国にやってきました。 しかし同じ頃、最後の豆腐を狙って城に忍びこもうとしている兵助がいました。 兵助は国王が豆腐禁止令を出して以来、100年間豆腐を口にしていません。 とうとう我慢の限界となったのです。 事情を知らない王子様は、魔法を駆使する兵助と戦い、他の魔法使いたちに助けられながら、ついに幻の食材にたどり着きました。 白く四角い豆腐に、目を輝かせます。 「へぇ、これが豆腐っていうのかぁ…思ったより平凡なのね」 「そう思うなら、私にその豆腐を譲ってくれぇぇ!!」 「嫌よ」 王子様は答えると、さっそく豆腐を調理しようと、水につけました。 するとどうでしょう。 魔法が解けて、女の子の髪が流れるうどんのように水の中を漂ったのです。 「え…何これ。これが幻って言われるゆえんなの?」 「ここは…」 「私の最後の豆腐がぁぁぁぁ!!!」 「バカタレ!お前のではないっ!!」 王子様は女の子を水から引き上げ、濡れた体を拭いてあげました。 「私は梅雨。古の食材を探してたんだけど…そしたらその豆腐が、あなただったんだものね。びっくりしたわ」 「助けてくれてありがとう。俺は勘右衛門。あの、ちょっといいかな」 「うん?」 女の子は王子様の前から走り出すと、床にはいつくばっている兵助の元に向かい、彼の背中をここぞとばかりに蹴り始めました。 「全く、お前のせいで、俺は、俺は…!」 「いだだだ!痛いって勘ちゃん!痛い!!」 「黙れよ!よくも俺の100年を無駄にしてくれたな!くたばれ兵助ぇ!!」 「ごめんなさいー!!」 背中を蹴られている兵助は、始終謝りっぱなしでした。 こうして女の子は元の姿に戻り、この国のお姫様として王子様と結婚しました。 豆腐は相変わらず歴史から消されたままです。 兵助はいつまでも豆腐の幻影を追って、あちこちさ迷い歩いたとさ。 めでたしめでたし。 |