昔々、あるところに八左ヱ門という可愛い少女がいました。 少女は器量も良く、動物たちから好かれる存在で、戯れている内に髪はいつもボロボロでした。 故に影ではこっそりシンデレラ(灰被り)なんて呼ばれることもあります。 ある時、少女の父が再婚し、継母と二人の義姉ができました。 継母はとても綺麗で、睫毛が印象的です。 義姉は、双子で見た目はそっくりでしたが、性格は全然違いました。 再婚後間もなく父が亡くなると、継母はここぞとばかりに豆腐を買い込むようになりました。 絹ごしを始め、木綿や杏仁豆腐…しまいには豆腐工場まで買い占め、竹谷家の財政は破綻気味です。 しかし、八左ヱ門は動物と戯れることに夢中で、そんなことは微塵も知りませんでした。 ある日、お城から王子様のお嫁さんを選ぶ為のパーティーがあると、招待状が届きました。 パーティーに出される料理の中に豆腐が入っていると知るや否、継母の目の色が変わります。 「豆腐食べに行こう」 「おまっ、あれだけ食べてまだ足りないのか!?」 「パーティーに出席するんだったら、ドレスはあれで…いやでも、あっち?うーん」 「雷蔵!」 継母と二人の義姉が必死に着飾る中、八左ヱ門だけはいつものように動物たちと遊んでいました。 笑顔で三人を送り出します。 「じゃ、気をつけて行ってこいよ」 「ハチも戸締まりしっかりな」 「大丈夫、いざとなったらこいつらが助けてくれるから」 と、ニカッと笑って見たのは、八左ヱ門に懐いている動物たちでした。 一人になった夜、動物たちと仲良くお喋りをしていると、魔法使いが現れました。 「八左ヱ門」 「わ!な、なんだお前!」 「あ、驚かなくていいよ。俺は魔法使いの勘右衛門。実は八左ヱ門に伝えることがあって、やってきたんだ」 「俺に伝えること…?」 「実は、その動物たちが住家にしている森のことなんだけど…都市開発計画が進んで、破壊されることになっちゃったんだ」 「な、何だってー!?」 「だけどそんなことをしたら、森の動物たちは行くところがなくなっちゃうだろう?だから、八左ヱ門に何とかしてもらいたくて…」 「お、俺はどうしたらいい!?」 「とりあえず、この国の王子に直談判してもらいたい。ちょうど今日は、パーティーが開かれているみたいだし」 魔法使いの言葉を聞き、八左ヱ門はすぐに頷きました。 「わかった!何とかしてみる…みんな手を貸してくれ!」 動物たちは八左ヱ門の為に、急ピッチで素敵なドレスを仕上げました。 勘右衛門の魔法で、虫カゴが馬車に早変わりし、毒虫たちは馬に、虫取り網は騎手になりました。 そして、ガラスの靴を履かせられます。 「じゃぁ後は任せたよ、気をつけて」 「あぁ」 「いってらっしゃい」 虫カゴの馬車に乗った八左ヱ門は、急いで城に向かいました。 その後ろで、勘右衛門が「いけね、12時で魔法が解けるって言い忘れちゃった…ま、いっか」などと呟いていたことも知らずに。 城に着いた八左ヱ門は、黙々と豆腐料理を食す継母を無視し、他の女たちから羨望の眼差しを向けられている義姉も気にせず、王子様の元へ直行しました。 王子様は大層退屈していたようで、八左ヱ門の登場に驚きつつも、どこかでそれを喜んでいました。 「王子にお話があります」 「ちょ、順番守ってね!?それと何その酷い髪!まるでモップだよ〜〜っ」 「タカ丸、いいわよ。話くらい聞いてあげるわ。で、あなたはだぁれ?」 「竹谷八左ヱ門といいます」 「あぁ、最近豆腐工場を買い占めて今も黙々と豆腐を食べている…」 「あれは兵助です」 「で、その豆腐ジャンキーの子供が何か?」 「森を…動物たちの住家を、壊さないでやって欲しいんです!!」 「は?」 「あそこは、あいつらにとって最後の楽園なんです…!」 八左ヱ門は、都市開発計画が進められれば、森の動物たちに住む場所がなくなってしまうのだと、力説しました。 それはもう、継母が豆腐を語るが如く。 王子様――梅雨はその話を真剣に聞いていました。 そして、全部の話を聞き終わると、深く頷いたのでした。 「そこまで言うなら、計画を白紙に戻しましょうか。タカ丸、斜堂先生を説得しといてね」 「えぇ〜、それ僕がするの?結構厳しいなぁ…」 「いいから、頼んだわよ」 「梅雨ちゃんはどこに行くの?」 「せっかくだから、八左ヱ門に森の動物たちを紹介してもらおうと思って。勝手に森を壊そうとしたことも、謝らなくちゃね」 王子様はそう言うと、八左ヱ門が乗ってきた馬車に乗り、二人で夜の森を突っ切りました。 しかし途中で12時の鐘が鳴ると、馬車は虫カゴに戻り、騎手も馬も元の姿に戻ってしまいました。 虫カゴの中に閉じ込められた二人は、慌てて助けを求めます。 「ちょっと!何で馬車が虫カゴになる訳!?馬は!騎手は!?」 「あ、馬と騎手ならそこに…」 と指さした方には、毒虫と虫取り網が放置されていました。 王子様は悲鳴を上げて八左ヱ門に抱き着きます。 「ちょっと、あれ何とかしてよ!」 「何とかって言われても…刺激しなきゃ大丈夫だから」 「そんなこと言ったって〜〜!」 結局、二人は朝を迎えるまでずっとそうしていました。 ガラスの靴が朝日に反射する光を見つけて、森の動物たちが二人を助け出します。 一晩で急接近した二人は、吊橋効果もあって、お互いを好きになりました。 そして、あれよあれよという内に結婚してしまいました。 今では、周りが羨むくらいのおしどり夫婦です。 「まぁまさか、私が八左ヱ門と結婚するなんて、あの時は思ってもみなかったわねぇ…」 幸せに満ちた王子様の視線の先には、楽しそうに動物たちの世話をする八左ヱ門の姿がありました。 何だかんだ言いながら、うまくいっているようです。 ちなみに実家の継母は、新しいヒット商品を生み出し、財政の立て直しに成功したのでした。 めでたし、めでたし。 |