昔々、豆腐のように肌の白いお姫様がいました。
周りからは白雪姫と呼ばれ、心優しいお姫様は愛される存在でした。

ある時、お姫様に継母ができました。

「おい、白雪姫。豆腐ばっか食ってないで他の物も食べろ。栄養が偏るだろ」
「豆腐を否定する気ですか」
「いやいやいや、今の会話の中に否定する要素なんてなかっただろ!」
「二人とも、喧嘩しないで」
「雷蔵、俺はこんな継母認めないからな!」
「え!?そんな、それは困るよ…だって…うーん!」
「雷蔵!?」
「また迷い癖が出た…」

頭を抱えて、ぱったりと思考を止めてしまった雷蔵に、三郎が慌てて駆け寄ります。
お姫様は黙々と豆腐を食べながら立ち上がりました。

「おい、どこに行くんだ」
「豆腐を買ってくる」
「またか!」

三郎は叫ぶと、勝手に出ていくお姫様を止めようとはしませんでした。
代わりに、従者の八左ヱ門を呼び寄せます。

「一応、見張っとけよ」
「了解」

ボサボサ頭の八左ヱ門は頷くと、お姫様の後を追いました。
しかしお姫様も中々優秀だったので、自分をつける人物がいることには気付いていました。
豆腐を理解しない三郎の従者だとわかると、さっさと撒いてしまいます。

「あ…れぇ!?」

八左ヱ門はお姫様を見失い、いつの間にか動物たちに囲まれていました。
動物が大好きな八左ヱ門にとってそこはパラダイスで、すっかりお姫様の後を追う事を忘れてしまったのです。

一方、豆腐を買いに来たお姫様は、行きつけの豆腐屋で愚痴を零していました。

「勘ちゃん、聞いてよ。三郎の奴が…」
「はいはい、また何かあったんだね。とりあえずこれ食べて落ち着いて?新作の豆腐だよ」
「ありがとう!!」

お姫様を宥めるのは、豆腐屋の主人で、小人の勘右衛門です。
二人は客の来ない庭先で話しながら、遅くまでそこにいました。

「わ!もうこんな時間!」
「今から帰るのも大変だし、今日はもう泊まっていったら?」
「そうするよ」

お姫様は勘右衛門の家に泊まりました。
翌日、お城に帰ろうか迷いましたが、やはりお姫様には豆腐屋の方が居心地が良く、しばらく厄介になることにしました。

「兵助、豆腐食べるのはいいけど、暇だったら手伝ってよ」
「待って、今豆腐と語り合うので忙しい」
「三郎の気持ちがわかるなぁ…」
「うふふ、そーなのか。え?湯豆腐になりたい?待っててな」

豆腐を前に表情を緩ませるお姫様を見て、さすがの勘右衛門も呆れてため息を吐きました。
するとその時、誰かが小人の豆腐屋にやってきます。

「ただいまー」
「あ、梅雨」
「久しぶり、勘右衛門。元気だった?」
「うん。そっちは?」
「私も、上々よ」

そう言って笑ったのは、勘右衛門の従姉妹で同じ豆腐屋を営む、パートナーの梅雨でした。
梅雨は豆腐を売りながら各地を歩き回り、より美味しい究極の豆腐を作る修業をしていました。
今回もその旅から帰ってきたのでしょう。
手には黄金の豆腐を携えています。

「これ、ちょっと味見してみない?」
「じゃぁ一口…」
「勘ちゃん、その豆腐何?」
「え?梅雨が作った豆腐だけど…ってあぁ!?」

勘右衛門が説明するや否や、お姫様はさっと豆腐を奪い、食べてしまいました。
その途端、お姫様の体が固まります。

「え!?何、豆腐に毒でもいれた!?」
「まさか!そんなことしてないよ!」
「でも兵助が…!」

慌てる二人をよそに、お姫様はポロリと涙を零しました。

「美味い…」
「「!?」」
「こんなに美味い豆腐、初めてだ…」
「よ…良かったぁ、死ぬほど口に合わなかったのかと…」
「逆だよ!俺はこんなに美味い豆腐、今までに食べたことがない!勘ちゃんが作った豆腐より美味い!」
「兵助…それは何か傷つくな…」
「梅雨って言ったよな…俺と結婚してくれ!!」
「「えぇぇぇぇ!?」」
「君が作った豆腐料理を毎日食べたい!!」

お姫様からの突然のプロポーズに、梅雨も勘右衛門も固まってしまいます。
まさか豆腐一つで求婚されるとは思っていなかったのですから。

「俺、お姫様だから不自由な生活はさせないよ!だから…」
「ちょっと待って、仮にそうだとしても、そんな急に…」
「物語にはスピードが重要なんだ!豆腐が美味い人と出会えた、はい結婚」
「いや、それおかしいと思うよ?兵助の理論」
「勘ちゃんは黙ってて!」
「酷い…」

お姫様は尚も熱烈なプロポーズを繰り返しました。
最初は驚くだけの梅雨でしたが、次第にお姫様の熱意が伝わり、二人は結婚することになりました。

「良かった!これで毎日最高の豆腐料理が食べれる…!」
「兵助が欲しいのは豆腐だけ?」
「そんなことないよ!俺の為に毎日豆腐料理を作ってくれる、優しい梅雨が好きだよ!」
「…そ」

梅雨は恥ずかしかったのか、少し顔を反らし返事をしました。
それからお姫様と梅雨は城に戻り、結婚式をさっさと挙げてしまうと、雷蔵と三郎はポカンとしてしまいました。

「お前、しばらく帰ってこなかったと思ったら、急に結婚だと!?」
「煩い三郎」
「兵助!」
「まぁまぁ、落ち着いて二人とも。でも、良かったじゃない、兵助にもようやくいい人が見付かって」
「だが雷蔵…!」
「僕はいいと思うよ?梅雨さんのこと。末永く、幸せにね」
「ありがとう雷蔵」
「いやいやいや、何か無理矢理繋げようとしてないか!?雷蔵はここで反対するべきだろう!」
「「三郎煩い」」

「すみませんでした…」

その頃、何も知らない八左ヱ門は、豆腐屋の近くで動物たちと戯れ、幸せに暮らしてたとさ。
めでたし、めでたし。

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