兵助の部屋に行くまで、久しぶりに手を繋いだ。
初めて手を繋いだ時のような感じがして、とても気恥ずかしい。でも、離したくなかった。
会話はそこそこに兵助の部屋に着くと、喧嘩して以来ずっと入ってなかった敷居に足を踏み入れ、緊張した。思えばまともに彼の部屋に入ったのは、実は1月が最後なのである。
室内は綺麗に片付けられており、促されるようにローテーブルの横に座った私に、兵助はいくつもの紙袋を差し出した。それは、私の良く知っているショップと、普段滅多に見ないブランドのロゴが入った物だった。
これは、? と視線で仰ぎ見れば、兵助は梅雨に、と呟いた。


「梅雨が俺の部屋に置いていった私物…伊織が勝手に使ったのを、全部買い直してきたんだ」
「えぇ!?」
「あぁでも、化粧品とかは同じ物は揃えられたんだけど、服は同じ物は無理だったから…俺の好みで、梅雨に着て欲しいのを選んだ」
「え、あ、ホントに?」


私は、まさか兵助が私の物を買ってくれるとは思わず、しかもそれが服までとあって、ただただ驚くばかりだった。ここまで気を遣わせてしまうなんて…
とりあえず、貰ったんだし開けてみよう。ブランドの袋を丁寧に開けてみると、中から出て来たのは春らしい、可愛いワンピースだった。


「可愛い…」


素直に感想を零せば、兵助は嬉しそうに標準を綻ばせた。


「良かった。梅雨、あんまり女の子っぽい服着ないから悩んだけど」
「ううん…こういうのも凄く好きだよ、普段は中々買えないけど。でも、私に似合うかな」
「今ここで着てみればいいよ」
「えっ…で、でも本当にいいの? これ凄く高かったでしょ…」
「そういうことは気にしないでいいよ。梅雨に着てもらいたいと思って選んだんだから」
「うん…ありがとう、兵助」
「どういたしまして」


恥ずかしげにお礼を言えば、兵助は優しく笑った。


「じゃぁ、着替えてくるけど…」
「うん」
「……もしかして、通販?」
「まさか。女の子が沢山いる中、探し回ったよ。三郎と一緒に。女の子の視線が凄くて、凄く恥ずかしかった…」
「あ、そうだったんだ」


内心、付き合わされた三郎に同情しつつ、二人でガーリーなショップで買い物をするところを想像してしまい、くすくすと笑った。
二人とも、大変だったろうな。三郎は何か慣れてそうだけど、兵助はそういうとこ凄い気にするから。
…きっと、私のために真剣に選んでくれたに違いない。私はその気持ちだけで十分、兵助への愛を感じた。


脱衣所で着替えを終えると、恐る恐るリビングに顔を出した。


「兵助、あの…」
「ん。ちゃんと見せて」
「うん…でも、その、もしかしたら変かもしれないから…」
「大丈夫」


その自信はどこから来るのか。
ゆっくりと全身を兵助の前に現すと、私はやっぱり恥ずかしくなって俯いた。そんな私に、兵助は「可愛い」と耳元で囁く。


「似合ってるよ…梅雨、可愛い。恥じらってるところも凄く新鮮だ」
「う…でも恥ずかしい……」


異性に服をプレゼントされたのは、生まれて初めてだ。しかも相手は自分が1番愛する恋人で、正直どう対応していいかもわからず、混乱する。


「顔、上げてよ」


言われるがままにそろりと兵助の顔を見上げると、その瞬間、キスをされた。


「っ、」


恥ずかしいやら驚きやらであたふたする私に、兵助は何度もちゅっちゅと口付けた。キスをするのさえ久しぶり過ぎて、私は兵助に身を預けるしかなかった。


「梅雨、可愛い、好きだよ」
「兵助…」
「このまま…連れてってもいい?」
「どこへ?」
「ん? いつものとこ」


兵助にぎゅっと抱えられ、訳もわからず連れていかれたのはベッドの上だった。そこに下ろされた時ようやく私はその意味を理解して、途端顔を真っ赤にした。


「へ、兵助…!」
「ごめん。でも、そんな可愛い格好した梅雨を前に、我慢しろっていう方が無理だ」
「〜〜〜っ!」
「ねぇ、色々辛い思いもさせたし、今日は精一杯梅雨のこと満足させるから」


そんなこと、わざわざ耳元で言わないで欲しい!

ベッドの上に横たわる私の上に兵助が乗ってきて、軽くキスをしながら体のあちこちをまさぐり始めた。最初は露出した肌の上を指が滑っていただけだけど、やがて段々ともっと確実な刺激が体を走る。


「梅雨…」
「あ、んん…あ…」


首筋に顔を埋められ、ワンピースの上から優しく胸を揉まれる。でも、あくまでその手つきは優しくで、小さな刺激にもいちいち反応してしまった。


「兵助…せっかくのワンピース、汚れちゃうよ…」
「ん。じゃぁもう脱がすよ」
「着たばっかりなのに…」
「着せたら脱がしたくなるのは男の心理だろ?」
「ばか…」


寝たままの状態で万歳をさせられ、現れた下着姿の私に兵助の目が熱を持った。じっとりと熱い視線が私に向けられる。
同じように下着姿になった兵助に再び覆いかぶされ、胸元を舐められる際に押し付けられた足元の熱に、私はどうしようもない羞恥心を感じた。
兵助のが大きくなっている。興奮してるのは、私も同じ。

下着の隙間から、指と共に舌が入ってきた。肩紐を下ろされたかと思うと簡単にカップをずらされ、まだ明るい室内に私は思わず胸を手で隠そうとしてしまう。
その手を兵助がとって、指先に優しく口付けた。


「ん…兵助、今日はなんか…」
「なんか、何?」
「いや、随分と優しいなぁと思って」


ちょっとだけ笑みを零した私に唇を落とし、同じように微笑む兵助は「言っただろ」と、露になった胸を、そっと掌に収めた。


「今日は梅雨が満足するまで、頑張るよ」


頑張るとは一体どういう意味なのだろうか。それを問う前に、兵助の両手が私の胸をゆっくりと揉み出し、谷間に顔を埋めたので言葉にはならなかった。
ねっとりとした温かい舌が肌を這う度に、私の口からは徐々に声が漏れだす。先端に吸い付く兵助の頭を抱き込んで、細かく息を吐き出した。


「んん…あ……はぁ…、あっ…」


ちゅうちゅうと、まるで赤子みたいに乳首に吸い付く兵助の姿は、滑稽以外の何物でもないのに、私はそう感じたことがない。多分、私が兵助を好きで気持ちいいと感じているからだろう。
乳房を寄せられて、両方の乳首を舌で交互に往復されると、それだけで腰が揺れた。


「あぁ、あっ、うン、ひや…っ」


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