兵助との週末のひと時を過ごしそびれた私は、随分と軽い財布を持って弁当を購入した。本当なら今頃、兵助と温かい鍋を囲んでいたはずだが…仕方がない。
レジで温めてもらった弁当を受け取り、帰路に着く。
部屋は主が予定外の帰宅をしてもいつもと何ら変わらず、淋しく私を受け入れたのだった。


兵助から連絡が来たのは、翌日のこと。
電話はできる状態じゃないから、という彼のメールに目を通し、私は頭を抱えた。どうにもこうにも、彼女はまだ兵助の家に居座る気らしい。
昨夜、兵助が伊織の実家と連絡を取ったところ、伊織の両親は伊織の熱意に負けて、兵助の通う大学を受験することを許してしまったそうな。
そこまではいい。
とりあえず、迷惑になるからといったん家に帰ってくるように説得した両親だったが、何故かそこで伊織がさらに駄々をこねた。いわく、受験が終わるまで兵助の家に居座る。以前みたいに兵助に勉強を教わる…と。
そんな馬鹿な話があるか、と思ったのだが、どうもあの両親は一人娘には弱いらしく、伊織の要求を呑んでしまった。相手が兵助ならと、信頼しきっていたようでもある。

そのようなことを、兵助は冷たいメールの文章で淡々と語った。むろん、兵助としても不本意であると主張していた。
だが、居座ると言った彼女は帰らず、追い出したところで何をするかわからないし、相手は仮にも受験生ということで強くは出れない。伊織の方も、自分の立場を利用しているといった感じだ。

(アホくさ…)

ただのDQNかよ。
子が子なら、親も親である。

つまり、兵助の言葉を要約すると、しばらく伊織を預かることにしたのでその間私とは会えないということだった。




「それって、どれ位なの?」
『試験の結果が出るのが三月半ば』
「まさか、それまでずっと泊めさせる気?」
『いや、試験が終わったら一度実家に返すよ。俺だってずっと一緒は良くないと思うし』
「…彼女、兵助のとこ一本なんだ」
『そう言ってた。でも、センターの結果も良かったみたいだし、センター利用で滑り止めは確保したって。後は本試験だけだ』
「そう…」


兵助と同じ大学に入りたいと言うだけあって、学力はあるんだ。頭は良くなさそうだけど。
私は心の中で微妙に悔しい気持ちを押し殺し、兵助の言葉に耳を傾けた。
多分、これからしばらくはメールも電話もできなくなる。何だかんだ言って、責任感の強い兵助だから、伊織を合格させようと必死になるだろうし。
そんな、真面目なところが私は好きになったんだけど……私の知らないところでカッコイイことされても、わかんないよ。
私だって嫉妬するし、寂しいんだから。


「ねぇ、兵助…約束、覚えてるよね? 新学期始まる前にって…」
『覚えてるよ。大丈夫、梅雨との旅行は絶対に行く』
「うん。楽しみにしてるからね。…無理しないで」
『梅雨こそ』


今は少しだけ、我慢しよう。二人の大切な時間の為に。


二月に入って、学校に行く用事がなくなると、私は益々忙しくなった。
学校に行かない分、バイトの時間を増やしたのだ。そしてそれは兵助との旅行の為でもあった。
二人で温泉にでも行きたい。でも、その為に予定が擦れ違うのは嫌だから、週末は絶対に会おうねと言って。
でも、兵助は今毎日伊織の面倒を見ている。
私と会っている暇なんてない。


「蛙吹さん、今度の週末も出れる? 他の子が風邪引いちゃったみたいなんだ」
「えぇ、大丈夫です。最近は何の予定もありませんから」
「そっか。じゃぁ週末もよろしくね」


だから、私は普段は絶対に入れない週末も、二つ返事でバイトを受け入れた。
家にいたってどうせすることがない。なら、少しでも旅行資金を貯める努力をしよう。
兵助は、バイトに加えて毎日伊織の勉強も見ているんだから…私だけ楽をする訳にはいかないし。
頑張らなくては。


数日後、見知らぬアドレスから届いたメールを見て、絶句した。


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